企業価値向上のための資本コスト経営 投資家との建設的対話のケーススタディ

企業価値向上のための資本コスト経営 投資家との建設的対話のケーススタディ

著者 日本証券アナリスト協会 (編集)
出版社 日本経済新聞出版
発行日 2020/8/21
 経営者と投資家はそれぞれ異なる立場に立ち、企業の経営や今後の方向性を考える時に、各々の考えがあり、お互いに異なる視点を持つのは当然だと考えられます。そのため、両者が対話する際、より建設的な対話とするため、何か架け橋として使えるものはないかという課題に対して、本書は資本コストというフレームワークを提案しています。
 資本コストと聞くと、経営者が考えるべきことだと思うかもしれません。それでは、なぜ投資家も資本コストを理解しないといけないでしょうか。この質問に答える前に、まず資本コストとはどういうものなのかを理解する必要があります。本書では、資本コストは二つの側面を持つという観点から紹介しています。

 一つ目は、一番良く理解されている「サイエンス的な側面」です。つまり、様々な前提条件や推定式から算出するデータを用いて企業の事業を分析することです。しかし、この側面自体には限界があることを理解しなければいけません。資本コストを算出するのに「一定の前提条件が設定され」、「過去のデータに基づいて算出され」、「過去のマーケットの状況に影響されている」等の背景があり、これらの背景を考えずに単に数字から判断すること、これだけのデータを用いて企業の未来の方向性を判断することは妥当ではありません。

 二つ目は、資本コストの「サイエンス的な側面」の限界を補完するため、「アート的な側面」も無視してはいけないということです。「アート的な側面」とは、経営者、投資家の経営判断のことであり、資本コストのデータを分析する時に取り入れる必要があります。
 投資家は企業経営者と同じく、以上二つの側面を持つ資本コストを理解すれば、経営者と対等な考え・立場で議論を行うことができ、より効率的なコミュニケーションを取ることができます。このように、双方の考えを擦り合せることによって企業の価値を向上させるためにやるべきことは何かという有意義な対話ができるでしょう。

 最後に、アナリストの立場から、本書からの啓発は、投資機会を発掘・分析する際、具体的なデータや数字等のサイエンス的なツールは必要不可欠ですが、それ以外に数字化できないもの、例えば、業界に長い経験を持つ方々の経験・観察・直感等々というアート的なもの(より人間性に関わるものとも言えますが)も重要である事も忘れてはいけないということです。この二つの側面の情報を活用できる能力を持つからこそ、より正確な視点から物事を考えて判断できるということです。

この本を紹介した人

Tee XinYee

HCアセットマネジメント株式会社

2020年にHCアセットマネジメント株式会社に新卒で入社。 現在はポートフォリオマネージャーのサポートに従事。 昭和女子大学グローバルビジネス学部卒業。