不透明な金融情勢下でのPrivate Equity Fundの戦略と実務(その4. PEファンドによるPost Deal managementとExit)

植田兼司
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○はじめに

その3. PEファンドによるDeal Executionのさまざまなノウハウはこちら
 最終回は、PEファンドがPost Deal (Acquisition) Managementを通じていかに企業価値を上げていくか、その奮闘のプロセスと幾分かのノウハウを記すこととする。買収後、実際に経営に参画し、Hands Onで企業価値を上げるPost Deal Managementこそが、通常のAsset Managementとの大きな違いである。筆者の「いわかぜキャピタル」では、New Dealに費やす時間が50%、Post Deal Managementに費やす時間が50%と、相当のWeightを置いている。通常のAsset Managementでは、銘柄選択をしてPortfolioを作り、Market Timingをうかがって売買するものの、Portfolio ManagerはMarketの趨勢には抗えない。しかし、PEファンドのManagerは、自分の時間を削ってPortfolio CompanyにHands Onで打ち込む努力をすればするだけPerformanceが向上することは確かである。それは、茨の道ではあるが、PEファンドの醍醐味でもある。筆者などは、月末近くになると「工場が火事になって操業日数が足りない」、そんな夢にうなされるのである。

○百日委員会と成長戦略

 Deal Closing(買収完了)の翌日から百日委員会が動き出し、各部門のWorking Teamに分かれ、成長戦略を議論・確認しながら3~5年の収益計画(売上高、コスト、営業利益)を弾き出し、100-Day Planを約3カ月で策定する。ここで策定したEBIT(営業利益)がBudgetとなり、経営陣にとってはCommitmentとなる。百日委員会を買収後の顔合わせ的な感じで安易に終えると、必ずそのツケがきて1~2年後にもう一度百日委員会を持たなくてはならない破目になることを筆者は経験している。なお、長期的に我が国の成長が見込みづらい状況下、成長戦略におけるGlobal戦略の重要性は大きく、筆者は、対象企業のビジネスをどのようにGlobalに展開可能できるかがDeal SourcingにおいてもPost Deal Managementにおいても大きな意味を持つと考える。

○送り込むTop managementの選定と求められる資質

 企業のPerformanceの7割は、そのCEOによって決まる。全く同じ企業がほぼ同じ環境下において、社長が代わることによって見違えるほど業績が変化する場面を筆者は過去に見てきた。社長選びを間違うと2年の遠回りを覚悟しなければならない。過去何度も社長選びで成功と失敗を繰り返してきた筆者からみた送り込むTop Managementに求められる資質は、①当該企業に時間の100%を投入する、②1社よりも2~3社経験し、いくつかのやり方を柔軟に身につけている、③中堅・中小企業への転身であるならHands Onで汗を流して取り組める、④勝ち組企業の出身で勝ち方がわかっている、ということではないか。なかなか簡単にそういう有能な人材をDealが決まってから探すことは難しい。従って、筆者はいろいろな人に会って「この人は」と思う人のE-Mail Addressと携帯番号を控え、いざDealができそうだという時に最適と思われる人に打診をする形の「人材プール」をファンドで抱えている。企業を成長させる最も大きな要因は、お金も然ることながら、やはり「ひと」であろう。こうして企業に送り込む経営陣の方々にはIncentive PlanとしてStock Optionを提供するだけでなく、手がねでCo-investmentをしてもらうことによって「同じリスクの船に乗る」運命共同体的状況を作り出すことが大切だ。ユニデンの藤本会長には一度「金のわらじをはいても社長を探すハゲタカの姿勢に学べ」と日経ビジネスでほめていただいたことがある。

○BoardによるMonitoring

 年度初めに立てた予算と実績についてBoardは毎月そのPerformanceをチェックする。筆者は緊急事態を除き原則として、PEファンドはBoardからMonitoringすべきで、Executionにまで踏み込むべきではない、経営陣の選定までがその仕事だと考えている。Budgetは、多くの課題を与えるよりも年間、月間のEBIT(営業利益)のみとする方がわかりやすい。長期的には営業利益率をどの水準までもっていくかが経営課題となる。そしてCommitしたBudgetが100%達成されたらBase SalaryのX%のBonus、BudgetのX%未満であればChange Leadershipと決めておく。
 PEファンドはPortfolio Companyの執行には入らずに、あくまでも黒子としてのSupport、BoardからのMonitoringに徹するべきと述べたが、さまざまな銀行交渉はそれこそPEファンドの出番である。とりわけ、Buyout FinanceのCovenantsがBreachしたときなどは銀行との厳しい交渉が必至となる。いかに有利にFinancierのWaiver Letterを獲得するか、金融交渉に慣れないPortfolio Company(事業会社)を助けていく。

○効果的なRoll Up Strategy(追加買収戦略)

 ある会社を買収すると、必然的に同業界での売り情報がもたらされ、追加買収がしやすくなる。PEファンドにとってExitまでの時間が限られている中、追加買収は時間との戦い(買収に要する時間+Synergyを出すのに要する時間)という点において難易度の高い戦略ではあるが、驚くほどの成果をあげることがある。対象企業が中堅・中小企業である場合、これらを組み合わせることによって大企業に対するBargaining Powerを持つことも可能になる。従って、追加買収の効果が見込まれるならば、果断に実行すべきであるが、①量的拡大をむやみに追わない、②外国企業とのMergerは並はずれたエネルギーが必要であり、容易ではない、③買収してもMergerにこだわらず被買収企業の独立性を尊重すれば、日本企業は驚くほどの成果をあげる、といった諸点には留意しておきたい。

○PEファンドのExit

  PEファンドはそのバックに投資家がついており、企業価値が上がった暁には、あるいは見切りをつけるべき時には投資した株式を売却して投資家に配当しなければならない。必ずExitしなければならないという点において事業会社による買収と異なる。Exit戦略としては、①国内外市場でのIPO(株式公開)、②友好的な第三者への売却、③元の売り手への売り戻し、④経営陣によるMBO、⑤増資等に合わせた市場での売り出し、⑥Equityから再びDebtへ向かうRecapitalization、などが考えられるが、通常の出口は①と②である。当初、PEファンドに株式を売却する時に多くの売り手や対象企業の経営陣が心配するのが、「PEファンドは、いつかはExitで売却する。その時にライバル企業とか難儀な先に売られたくない」ということだ。Definitive Agreement(最終契約書)では、こういう懸念が払拭されるような条項が盛られ、何らかの制限が設けられていることが多い。また、3~5年のPost Deal Managementを経た末のExitであり、投資銀行等に丸投げしてAuctionにかけるだけでなく、買い手を最もよく知っている業界の達人とともにHands OnでExitを求めることで、より最適な買い手、より高い売却価格を得ることが可能になるだろう。

○おわりに

  以上で4回にわたる連載を終える。Deal MakingからPost Deal ManagementまでPEファンドの仕事は尽きない。ただひとつ言える真実は「企業は植物と同じ、毎日ていねいに水をやり、接していけば育つ」ということ。金融という枠を超え、今は苦しいけれども成長のPotentialがある企業を発掘し、育てて価値を高めていくというPEファンドの仕事に意義を見出し、奮闘努力している筆者の毎日である。追加説明ご希望、またはご質問の向きはいつでもご連絡を。E-Mail Address; kenji.ueda@iwakaze.com、そしてTELは、03-5574-8766。



■関連項目■
6月25日(木)公開マネジャミーティング・いわかぜキャピタル(日本株PE戦略)
植田兼司

植田兼司(うえだけんじ)

いわかぜキャピタル株式会社代表取締役CEO

1952年生まれ。1974年3月関西学院大学経済学部卒業。同年4月東京海上火災保険に入社、25年間資産運用部門にてグローバル運用のヘッドを務めるなど国内外の投融資全般に携わる。1999年よりRipplewood Japanの創業メンバーとして、我が国草創期のPEファンドビジネスに参画、2002年よりマネージング・ディレクター、2005年より2007年11月までRHJ International Japan(旧リップルウッド)の代表取締役を務めた。2008年2月に独立して、いわかぜキャピタル(株)を立ち上げ、同年8月にPE投資をスタートし今日にいたる。2001年~2009年、東洋大学経済学部講師(金融リスク管理論)。著書に「M&A Q&A」(1987年・六法出版、共著)、「21世紀・日本の金融産業革命」(1999年・東洋経済、共著)がある。