世界金融危機の根底にあるものを問い直す
一昨年のサブプライム・ローン問題を端緒とする、今回の世界金融危機に対するため、世界首脳会合(G20)が開催されています。そこでは、世界的な金融に関する監督・規制の強化と範囲拡大等が打ち出されています。グローバル金融のいきすぎた部分に歯どめをかけようというものです。しかし、私たちが、もう一度考えなくてはいけないことは、世界金融危機と言われるものの根底にある、金融や経済のあり方についてではないでしょうか。
近年、世界的に金融の自由化が進む中、金融取引が規模とスピードを追求し、それがまた、証券化やハイ・レバレッジ運用等によって、大きく加速しました。今回の世界金融危機は、こうした規模とスピードを志向するグローバル金融と経済のあり方を、根本的に問い直すものではないでしょうか。
グローバル金融が行った「金融が本質的に行ってはいけないこと」
世界金融危機を引き起こした、「証券化」を活用した金融には、本来安易に行ってはいけない、金融の本質に関わる二つの点で行き過ぎがあったと思います。一つは、「貸したら逃げる」という行動です。本来、債権者が、債務者の状況を的確に把握し、資金返済をより確かなものとするために必要な働きかけを行うことは、当然の責務といえます。しかし、証券化によるリスク分散は、進めば進むほど、債権者と債務者の距離を遠く複雑にし、肝心な債権者と債務者の関係の基盤を崩してしまいました。金融機関が自ら業として関わるべき与信リスクのコアの部分までもヘッジしたこと、言い換えれば「本業の全てを外に出すような行為」は、やはり問題であったのです。
もう一つは、「将来の利益の現在における実現」です。例えば10年間の融資は、10年間の債務者との関係の中で、時々の元利支払いを受ける。債務者の継続的な健全性の維持が、債権者として融資の返済を受ける前提となります。証券化は、10年間の債権の将来にわたる利子収益等を現在価値に換算して取引することを可能としましたが、これもやはり、債権者と債務者の関係性を希薄にし、相互のモラルハザードを引き起こしたといえます。債務者の状況把握を二の次にした、目先の利益をとことんまで追う行為も、やはり問題であったのです。債務者の状況を無視して債権者の利益を一方的に追求する、「他人の犠牲を前提とした」企業収益や経済成長は、結局は長続きしないということも、再認識しないといけないものです。
この10年余りの間に急速に進んだグローバル金融において忘れられていた、債権者と債務者の健全な関係性という基本を築き直すことが、いまあらためて求められていると思います。
日本の地域金融機関の可能性
そのようなことを考えると、日本の金融機関、特に地方銀行や信用金庫には、その地域の預金に支えられた、大いなる強みがあると感じます。「長い時間軸」と「資金の出し手と受け手の関係」を重視する、金融の原点に立ち戻ろうとするとき、それは大きな基盤となります。地域共創ネットワークは、地域金融機関の新たな可能性を共に創ることを目指していますが、来る10月16日に、HCアセットマネジメントと共催で、未来航海フォーラムを開催します。本年のテーマは、「地域金融機関は地域の投資銀行になれるか」です。
企業や産業に、金融機関はどのように関わることができるのか。融資と投資、その間にあるもの。金融の「デザイン力」と「関わり力」が、問われています。行き過ぎた「手離す金融」ではなく、「持ち続ける金融」を考えていく場として、ご参加いただければ幸いです。
■関連フォーラム
10/16開催・地域共創ネットワーク主催・HCアセット共催・金融財政事情研究会後援
「未来航海フォーラムvol.2~地域金融機関は地域の投資銀行になれるか。~」
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取引(トランザクション)金融と関係(リレーションシップ)金融
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地域金融の「地産地消」
坂本忠弘(さかもとただひろ)
地域共創ネットワーク株式会社代表取締役
東京大学法学部卒。大蔵省入省後、財務省主計局、金融庁監督局、金融担当副大臣秘書官等を担当。霞が関在職時より、金融分野を中心にCSRを推進する動きや地域金融・中小企業金融の新たな動きに関わり、また、自治体の予算改善・地域活性化の支援や社会起業家との協働などを行う。2007年に、地域共創ネットワーク株式会社を設立、地域金融機関の新たな融資・投資のソリューションの提供、地域資源を活かした事業活動の支援等に取り組む。