企業再生支援機構と融資の文化

坂本忠弘
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日本の金融では、1980年代より直接金融での資金調達も多様化し拡大していますが、戦後ずっと融資が大きな位置をしめています。亀井大臣の問いかけでもありますが、ではその融資をめぐる銀行と企業の関係は、変わったのか、変わっていないのか。

 高成長期には、経済全体が右肩上がりで、銀行は、総じて、企業の財務状況や資金繰りを見て、担保価値の評価・確認を中心としたリスクマネジメントで上手く回っていたところが大きかったのではないでしょうか。経済をリードしていく企業には、株式持合の上で安定的な資金の提供をしながら、経営もともに考えるところがあったと思いますが、そこでは中長期的な視点で見ていけるという土台の存在がよい方向に機能したことも否めないと思います。
 現在、低成長期に推移し、銀行として、資金を貸しただけでは解決しない企業の経営・事業環境になっています。
 今回の金融経済危機は、景気循環の大きな谷というにとどまらず、世界的な構造変化も含むものであり、時間を稼ぐことで事態が正常化するのを待つということでは、乗り切ることはなかなか難しいものです。諸々の環境変化に対して企業がどのように対応していくか、自らの持つ経営資源や外部関係先とのつながりの強みや課題をいま一度「棚卸」して経営方針を練り、メリハリのつけたリストラや事業再構築、あるいは自社の特色を活かしながら現状とは別の収益源を見出すなど、根本的な経営の考え方の部分での調整がどうやら必要となっています。金融機関としても、融資条件や融資金額の調整にとどまらず、このような経営課題への「打ち手」をともに講じていかなければならないのではないでしょうか。


  

しかし、この10年あまり、不良債権の処理やリストラの実施の中で、銀行の企業経営の実態把握の力は、大きく後退しているように見られます。

また、不良債権処理を進める過程で、金融検査マニュアル等が策定され、資産査定体系の整備に取り組まれましたが、その中で、債務者区分に従い画一的な債務者対応がなされることが多くなったことも否めないところです。
 地域金融機関の経営者の中には、「債務者区分は資産査定上の評価であり、企業の将来の持続性・成長性の目利き予測に基づき融資判断を行い、融資手法を工夫していくのが、自分たち金融機関の仕事」という方も存在しますが、残念ながら数少ないようです。「リレーションシップ・バンキング」の推進もいわれていますが、説明責任の観点で、なるべく事を無難にすませる意識から、信用格付等において、企業の定性的な要素の評価は削ぎ落とされ、定量的な財務数値による判断がむしろ進んでいる傾向があります。

運命共同体の融資は、いけないことなのか。

 利益相反や優越的地位に関する議論も必要なところでしょうが、証券化という、関係を断ち切る融資が、結果として大きな利益の喪失を生んだことも、また事実です。
 中長期的な視点も持ちつつ、企業経営に対する緊張感を持った対話に基づく融資、そのような銀行と企業の関係をどう築いていくか。

いよいよ、企業再生支援機構が動き出します。

 公的関与のある存在だからできることもあるのだろうとは思いますが、金融を通じた企業との関わりについての、あらためてモデルとなる姿を期待しています。
 10月16日に開催する未来航海フォーラムでは、企業再生支援機構の代表取締役社長に就任されます西澤宏繁氏に、「企業再生支援機構と金融の原点」とのテーマで、基調講演いただきます。

「企業再生支援機構と金融の原点」
西澤宏繁氏
地域経済や地元企業の再生と活性に、金融機関はどのように関わることができるのか、資金供与だけではなく、経営支援力や事業支援力を、十分発揮しているか、いま一度考える。企業や産業を支える金融機関に期待されることについて、お話いただきます。

(以上)
坂本忠弘

坂本忠弘(さかもとただひろ)

地域共創ネットワーク株式会社代表取締役

東京大学法学部卒。大蔵省入省後、財務省主計局、金融庁監督局、金融担当副大臣秘書官等を担当。霞が関在職時より、金融分野を中心にCSRを推進する動きや地域金融・中小企業金融の新たな動きに関わり、また、自治体の予算改善・地域活性化の支援や社会起業家との協働などを行う。2007年に、地域共創ネットワーク株式会社を設立、地域金融機関の新たな融資・投資のソリューションの提供、地域資源を活かした事業活動の支援等に取り組む。