第3回 創業期の資金調達-銀行等金融機関からの借入と第三者割当増資(前編)-

山本亮二郎
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 今回は創業期の資金調達を取り上げたい。
 起業を決意し(第1回)、会社を設立したら(第2回)、次に行うのが創業期の資金調達である。実際には、会社設立と資金調達は平行して準備することが多いと思う。創業期の資金調達には、銀行等の金融機関からの借入と第三者割当増資によるものと、主に二つの方法がある。
 本格的なベンチャー企業への投資育成を専門とするベンチャーキャピタルやインキュベーターにとって、多くの場合「資金調達」とは第三者割当増資のことであり、その資金を提供することが重要な役割である。ただし創業時には、その瞬間※1 にだけ活用できる公的な融資制度があり、有利な条件で資金を調達できる可能性があるため、「増資」の前に「借入」を取り上げる。
※1 東京都中小企業制度融資のHPによれば、創業融資の要件として、「1か月以内に新たに個人で又は2か月以内に新たに法人を設立して事業を開始しようとする具体的な計画があること」とある。文字通り瞬間のチャンスである。

 創業期の借入については、日本政策金融公庫の新創業融資制度と制度融資※2 がある。それ以外は殆ど期待できないと考えた方が良い。
※2 各自治体と信用保証協会と指定金融機関の三者協調のうえに成り立っている融資制度で、中小企業者が金融機関から融資を受けやすくするための制度。信用保証協会が金融機関に対して80%を保証する。
 日本政策金融公庫のHPによれば、新創業融資制度のいう創業とは「新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方」と規定され、融資額は「1,000万円以内」とある。担保・保証人は不要で、返済期間は7年以内(うち据置期間1年以内)、運転資金にも設備資金にも当てられる。金利は基準利率プラス1.2%である。
 また東京都中小企業制度融資のうち創業融資(創業)の場合、「自己資金」※3 の額にもよるが、融資額は1,000万円から2,500万円(自己資金に1,000万円を加えた額の範囲内)となっている。運転資金の場合の返済期間は、やはり7年以内(うち据置期間1年以内)で、金利も日本政策金融公庫と同水準である。創業から1年以上経過し、中小企業新事業活動促進法の承認を受けた企業は、金利の優遇や融資枠の拡大(最大8,000万円の特別枠)などの支援措置を得られることもある。
※3 自己資金(AからBを差し引いた金額)
 A 創業しようとするものが事業に充てるために用意した資金
  ①残高の確認できる預貯金
  ②客観的に評価が可能な有価証券に保証協会の定める評価率を乗じたもの
  ③敷金・入居保証金
  ④資本金・出資金に充てる資金
  ⑤融資申込み前に導入した事業設備に要した金額(不動産を除く。)
  ⑥その他の客観的に評価が可能な資産額(不動産を除く。)
 B 借入金等
  ①残存返済期間が2年以上ある住宅ローンの年間返済予定額の2年分
  ②設備導入資金等の長期借入金の年間返済予定額の2年分
  ③その他の借入金全額

 創業融資ではないが、記憶に新しいところでは、サブプライムローン問題、リーマンショック以降の世界的同時不況の中で、中小企業の資金繰りを支援するために設けられたセーフティネット貸付や緊急保証制度は、投資先のベンチャー企業も多く利用した。新産業の創造において、公的な融資制度が果たす役割は大きい。

 しかしながら、製品やサービスの開発期間であり、キャッシュフローの乏しい創業期の資金調達を借入にのみ頼ることは、当然ながら危険である。自己資金の不足に加え、経験、実績が十分でない若手起業家は特に、そうでなくても売上の見通しを立て難い創業期に過度に借入に依存することは避けるべきである。制度融資の融資額を決定する要素になっていることからも明らかな通り、公的な創業融資における審査の上でも、「自己資金」の額はポイントになっている。

 したがって、創業期の資金調達にとって適切な順序は、まず、これから立ち向かう事業のサイズに応じて自ら払い込むことが可能な資金を用意すること(その際にも個人で無理な借入はしないこと)。次に、実際に会社設立のための正しい手続きを経て自社の銀行口座に資本金として払い込むこと。その上で、信頼できる周囲の方々に相談と提案を行い、第三者割当増資を実施する。最後に、運転資金として必要に応じ制度融資など長期、低金利の借入を申し込むこと。これが正しい手順である。勿論、増資だけで全ての必要資金を調達しても良い。その際にも、特に創業期にはなるべく1人(1社)に集中しないように注意した方が良いだろう。起業家と投資家がどのような比率で株式を持つかという点は特に重要である。
 第三者割当増資については次回に具体的ケースをもとにして詳述するが、よく言われるように、資本政策は後戻りができない。創業期を中心に多くの投資を行ってきた経験から、単に「後戻りができない」だけでなく、その後の事業の成否そのものを左右することも少なくないほどに、増資による資金調達をどのように行うかということは決定的に重要である。とりわけ創業期の増資は、資本充実が果たせなければ会社の存続が難しくなり、仮に調達できたとしても、創業段階で起業家のシェア低下が著しければ、その後の増資が難くなったり、経営の安定に影響が及んだりすることも起こり得る。

 「自己資金」→「第三者割当増資」→「借入」の順で資金調達を行うとして、創業段階で必要な資金「量」はどのように見積もることができるだろうか。これは事業内容にもよると思うが、無名の若者による起業であれば、ある程度事業を軌道に乗せるまでに、最低でも1年程度の期間は要する。特に最初の1年間は、まず計画通りに運ばないことばかりだと思った方が良い。勿論、2期目になればすぐにキャッシュフローが黒字化するというのではなく、一般的にはその後も数年は資金の流出が続く。最大の問題は、これはどのような業種業態にも言えることだが、製品やサービスがなく、営業体制は脆弱で当然顧客もいないため、売上が全く立たないということである。同時に、会社を運営していく上で必要な各種届出や事務所の開設、日々の経理実務などやらなければならないことは多く、起業経験のない若者には予想以上に負担が大きい。
 結論としては、事業活動を1年間継続するための資金を創業直後に調達できるかどうか、それがポイントであり、ベンチャー企業の創業に必要な資金量の目安である。上述の通り、金融機関からの創業融資の上限が自己資金に1,000万円を加えた額だとすると、それ以外の資金は全て増資によって調達するということになる。次回その具体的方法を記したい。
山本亮二郎

山本亮二郎(やまもとりょうじろう)

PE&HR株式会社代表取締役

1968年生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。株式会社インテリジェンスなどを経て、フューチャーベンチャーキャピタル株式会社(FVC)入社。アーリーステージ中心に投資を行う。創業期に投資し、その後取締役を務めた21LADYと夢の街創造委員会が株式公開(IPO)を果たす。また、インテリジェンスとFVCには社員株主として出資し、両社とも在職中にIPOを果たす。2003年5月、「資本」と「人材」の両面から企業の成長発展に貢献するという理念を掲げ、PE&HR株式会社を設立、代表取締役に就任。「若手起業家のための投資事業有限責任組合」、「Social Entrepreneur投資事業有限責任組合」、「関西インキュベーション投資事業有限責任組合」を設立。現在、投資先企業4社の社外取締役を務める。
明治大学、大阪市立大学大学院、東京経済大学、厚生労働省大学等委託訓練講座等で講師を務める。