バンクとノンバンクとの間の越え難き壁を越えるには

バンクとノンバンクとの間の越え難き壁を越えるには

森本紀行
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バンクとノンバンクは、明確に棲み分けているからこそ、それぞれの存在意義が光るのであって、両者の厳格な規律のもとでの連携はあり得ても、安易な提携や統合はあり得ません。
 
 金融機能の原点は、一方に、資金の不足しているものがいて、他方に、余剰資金をもつものがいるときに、余剰側と不足側との間で資金の貸借が生じることです。金融は、いかに見かけが複雑になろうとも、いかに高度な技術が使われようとも、この単純な原理から一歩も外に出ることはありません。そして、おそらくは、金融における革新は、常に、この原点への回帰によって生じるのです。
 この原点から金融の諸問題が派生するわけですが、その第一は情報の偏在です。つまり、余剰資金をもつものは、どこに資金不足があるかを知らず、資金不足に陥っているものは、どこに資金余剰があるかを知り得ないのです。そこで、資金の過不足に関する情報を媒介するものとして、金融業が創出されたのです。おそらくは、金融業の革新、あるいは金融機関経営の革新は、常に、この原点への回帰によって生じるのです。
 
金融仲介とは、その情報の媒介のことですか。
 
 資金不足を埋めるように余剰資金が移動できるためには、理論的には、情報が媒介されて、資金余剰のあるものと、資金不足のあるものとが出合うだけでよく、その後は、当事者間で融資契約をすればいいわけです。実際、現在では、インターネット環境のもとで情報が媒介されて、当事者間で融資契約を成立させるピートゥーピーレンディングP2P LendingPeer to Peer Lending)が登場しています。
 逆にいえば、インターネット環境が整備されるまでは、情報の媒介による金融は成立し得なかったわけで、単なる情報の媒介ではない資金の仲介が必要とされたのです。金融仲介は資金の仲介のことで、仲介事業者は、当事者として資金余剰をもつものから資金調達し、当事者として資金不足のあるものに融資していて、資金の調達と融資とが仲介事業者のなかで統合されているわけです。
 
金融仲介事業者の代表が銀行なのですか。
 
 金融仲介事業者の代表は預金取扱金融機関ですが、預金取扱業務を行う金融機関には、銀行のほかに、信用金庫等が含まれます。そこで、ここでは、預金取扱金融機関の総称として、バンクという言葉を用います。なぜなら、バンクではない金融仲介事業者の総称として、ノンバンクという用語が定着しているからです。つまり、金融仲介には、バンク金融仲介と、ノンバンク金融仲介の二種類があるのです。なお、金融仲介は、狭義に使われて、バンク金融仲介だけを指すことがあります。
 
バンクの本質は預金による資金調達にあるわけですか。
 
 預金は、バンクの資金調達手段だけではなく、決定的に重要な社会的機能を演じています。即ち、第一に、預金は貨幣の現実的な存在形態であり、第二に、全ての経済取引の決済は預金の上で執行されていることです。経済取引には融資を含みますから、融資がなされれば、債務者の預金が増加して、預金総量を増幅させます。これが信用創造です。
 こうして、バンクは、一方では、預金のもつ極めて重要な社会的機能のために、最高度に規制されることになりますが、他方では、規制の反対効果として、預金取扱業務の安定的供給を理由に、特権的機能が独占的に確保されて、高い参入障壁のもとで、保護されるわけです。
 
バンクが高度に規制されるために、ノンバンクが生まれるのですか。
 
 バンクは高度に規制されるので、規制が制約となって、融資できない対象が生じます。バンクにとって融資可能であることをバンカブルであるといいますが、世のなかには、バンカブルではない多数の事案が存在するのです。これに対して、ノンバンクは、貸金業者としての最低限の規制しか受けないので、バンカブルではない対象にも融資できます。
 つまり、ノンバンクからすれば、バンカブルではないものがあるからこそ、そこに固有の商機が存在するのであり、金融排除されるもの、即ち、バンカブルではないとされるものからすれば、ノンバンクがあるからこそ、金融排除から救済されるのです。
 
どのようにして、ノンバンクは資金を調達するのでしょうか。
 
 ノンバンクは、主として、資本市場において資金を調達しています。資本市場には、投資家一般に広く開かれたパブリックな市場と、専門的知見をもつ投資家だけが参加しているプライベートな市場とがあって、株式会社形態のノンバンクは、パブリック市場を使い、ファンド形態のノンバンクは、プライベート市場を使っているわけです。
 ここで、極めて重要な論点は、ノンバンクの融資先はバンカブルではないにしても、ノンバンク自体はバンカブルであることです。なぜなら、バンクからすれば、ノンバンクの自己資本が第一次的に信用損失を吸収し、ノンバンクが多数の融資先をもつことで、信用損失の可能性に対して分散効果が働くばかりか、多数のノンバンクに分散して融資できるからです。そこで、ノンバンクは、原理的には資本市場調達を主にするとはいえ、現実的にはバンクからの融資に大きく依存しているのです。
 
バンクは、ノンバンクに融資するくらいなら、自分でも資本市場調達できるのですから、ノンバンクの領域に直接参入すればよくはないですか。
 
 バンクのうち、ほぼ全ての銀行は、上場企業として資本市場で資金調達をしていて、自己資本の厚みをもっているほか、ノンバンクと同様に、あるいは、ノンバンク以上に、融資における信用損失の可能性について分散効果を働かせることができますから、銀行は、理論的には、ノンバンク事業ができ、実例として、新生銀行は消費者金融のノンバンクであるレイクの事業を吸収統合しています。
 また、極めて特異なものとしては、2004年に開業し、2010年に経営破綻した日本振興銀行があります。これは、法律上のバンクには違いないのですが、決済性の預金を扱わず、専らに定期預金で資金調達していて、事業の実態としては、ノンバンクでした。おそらくは、資金調達手段として、資本市場調達よりも、定期預金による調達のほうが簡易で安定的だとの判断があったのでしょう。
 しかし、ここには、金融行政の高度に微妙な問題があります。金融排除の解消は、金融行政の重要な目的だとしても、おそらくは、金融庁も含めて、世界の規制当局の基本的な考え方は、バンクとノンバンクは、それぞれの固有の領域において、金融排除の解消に努めるべきであり、その結果、金融制度全体として金融排除の解消が進むというものでしょう。
 
バンクとノンバンクの統合はなくとも、提携はあり得るのでしょうか。
 
 資金調達が常に経営課題となるノンバンクからすれば、バンクの預金調達の安定性は魅力です。また、例えば、日本の法律では、消費者金融における総量規制があって、融資額に上限があるのに対し、バンクの融資に総量規制が適用されない点も重要です。逆に、バンクからすれば、バンカブルな領域を自分で限定することによって、ノンバンクに有利な事業機会を供与していることに対して、自己矛盾を感じる面があるはずです。
 そこで、バンクとノンバンクとの間で、双方が相互に魅力を感じるとき、提携構想が生まれますが、どのような提携内容であれ、間違いなく、バンクが提携先のノンバンクに優先的に資金供給することを含むはずであって、そこに実質的な与信集中という深刻な問題を生じさせる可能性があります。
 なぜなら、実は、提携先ノンバンクへのバンクの直接融資の総量は規制できても、金融理論的には、代替的手法によって迂回できるからです。例えば、バンクの融資に対して提携先のノンバンクが信用保証する、あるいは、バンクが提携先のノンバンクから融資債権の集合を取得することにより、バンクの実質的な与信先は、提携先のノンバンクの顧客に偏っていくわけです。
 
バンクとノンバンクとの間には、統合も提携もあり得ないのでしょうか。
 
 バンクとノンバンクは、それぞれの固有の領域を守り、ただ単に、バンクの全体から、ノンバンクの全体に融資がなされる、これが金融制度と金融秩序の動かし得ない基本だと考えられます。この基本に忠実に従って、バンクとノンバンクの両方を傘下に入れる可能性こそ、銀行持株会社の業務範囲の見直しとして議論されていることの中核です。
≪ 関連する論考をご紹介いたします ≫
預金が消滅する近未来社会の構図 (2019.7.18掲載)
銀行の本質が預金にあり、その預金の存在形態を再考してみるといった内容です。銀行から預金をとるとノンバンク、すなわち非金融の世界となります。そこでの融資機能、決済機能はどうなるのか考えます。

日陰の存在を脱して陽が当たるノンバンク金融仲介 (2023.5.25掲載)
融資を行うものには銀行以外にノンバンクがあり、銀行が融資できない先に融資できます。金融規制と金融排除との間の構造的矛盾のもとで存在感を増すノンバンクについて解説しています。

ノンバンク金融仲介における投資としての融資の意義 (2023.6.1掲載)
ノンバンク金融仲介とは、資本規制等の制約で銀行等が融資できない先に、事業会社が融資することです。ノンバンク金融仲介を通じ、銀行の補完としての社会的意義を実現する投資運用業について説明しています。
(文責:林)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。