帯広信用金庫「地域シンクタンク機能の強化と創業支援融資」

第3回 金融最前線コンテンツ「地域と成長」

帯広信用金庫・増田理事長インタビュー

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photographs : 佐藤 亘
帯広信用金庫
本 店  〒080-8701 帯広市西3条南7丁目2番地
創 業 大正5年5月26日
創 立 昭和26年10月22日
出資金 13億47百万円
預 金 5,846億円
貸出金 2,758億円
店舗数 32店舗
職員数 433人
URL http://www.obishin.co.jp/

(HC)十勝の地域づくりに関してお考えをお聞かせください。

(HC)十勝の地域づくりに関してお考えをお聞かせください。
帯広信用金庫・増田理事長/photo:佐藤 亘
(増田理事長)
「十勝の基幹産業は、ご存知のとおり農業で、当金庫もここ何年か、2ケタで伸びているのは農業融資だけです。残高はやっと60億円に到達しました。当金庫は十勝という土地柄からその程度は当然といえば当然のことですが、助走期間を経て、ようやくここへ来て少しずつ本物になりつつあるというのが実感です。十勝の地域づくりで大切なのは、基幹産業の周辺にどうやって付加価値を形成していくかということですが、その付加価値を今よりもっと分厚いものとするためには、農商工連携が大事になります。現状、そうした連携はうまくとれているとは言えません。その原因は、十勝においては農業が突出して大きいために生じた農商工のバランスの悪さにあると思います。したがって、連携を進めていくには、農業界の意識改革と理解がなければ難しいだろうと感じています。」

(HC)地元の農協さんと争いになるとそれが農商工連携の障害になるということですね。

(HC)地元の農協さんと争いになるとそれが農商工連携の障害になるということですね。
(増田理事長)
「当金庫が農協さんと争いながら農業融資を進めていくようなやり方は好ましくありません。何とか地域が農協さんの機能や力を生かしていくような形でやらないといけない。十勝の農業産出額は2500億円規模と大変大きな数字になっています。これを全て地域で付加価値化するのは難しいと思っています。やはり農業界が長い間築いてきたホクレンを頂点とする流通経路というのは壊すわけにはいかない。逆にまた、それだけでは十勝の農業は強くならないとも考えている。その脇に食品加工というもう一本の流れをつくっていくことが大事だと思います。その流れを徐々に太くしていくことの必要性を農業界のリーダーの方々がどう理解してくださるか。そこに、この十勝の地域づくりの大きなポイントがあると思っています。意識的に農業界との関わりを強めていかなければならないし、十勝の農商工連携の中で、農業界と一番太いパイプを持っていて、そのようなコーディネーターとしての役割を果たすのは、当金庫であろうと感じています。」

(HC)
農業界の意識を地域づくりに向けてもらうことが大事なんですね。

(増田理事長)
「それが一番大事。農業融資も農業界の意識や地域づくりとの兼ね合いの中で推進していく必要があって、やみくもにやればいいというものではないのです。ここ最近、農業融資がよく話題にあがります。これは、ただ単に地域金融機関における取引のこれまでの中心的な業種であった建設業などが衰退してきて、その代替として農業と言っているだけで、それでは本当の農業融資は出来ないと思います。農業者が何に喜びや生きがいを感じて、常日頃『土』と向き合っているのか、十勝の130年の歴史から代を繋いできた人々がどういう想いで農業をやっているのか、そういうものをきちんと理解しないと本当に生きた農業融資にはならないし、地域づくりにも繋がっていかない。そういう意味で、当金庫では本物の農業融資をやりたいと思っているし、基幹産業が農業である十勝の最大の強みをもっと地域の活性化のために活かしていかなければいけないと思っています。農業周辺の第二次産業がもっとしっかりしてくれば、その上に立ち上がる第三次産業も、より付加価値の高い魅力的なものになる。農業を基盤とした第二次産業の拡充・強化が、十勝の課題だと捉えています。」

(HC)TPP問題に関してはどうお考えでしょうか。

(HC)TPP問題に関してはどうお考えでしょうか。
(増田理事長)
「この問題がマスコミで伝えられているような形で進んでいったとすると、十勝経済にとって壊滅的な打撃が生じ非常に問題だと思います。しかし、私はそれほど悲観はしていないんです。先ほど、私は農業界の意識改革が地域にとって大きなポイントになると言いましたが、どの業界にあっても、平時大きな意識改革を起こすのはなかなか難しい。しかし、TPP問題で『これは大変なことになったぞ』として、農業界では意識改革が進むのではないかと思います。ですから、この問題についてはここは冷静に協議の行方を見守り、これから地域として、どういう方向に向かわなければならないのかをしっかりと判断しなければならないと思っています。TPPはプラスにもなれば、マイナスにもなると思うし、いくつかの転換期がこなければ意識は変革していかないと思うので、この機会をどう活かすかということが大切になってきます。他方で、現実的に食糧というのは、自国で責任をもって生産できるようにすることが大事です。そして不足しているところには需給を調整して、人類全体に食糧がいきわたるようにしなくてはいけない。経済合理性だけで自国の農業を疲弊させて飢餓に陥った国は、現実にたくさんある。だから、TPPについても慎重に議論してほしい。十勝の農業は、日本にとって宝だと思います。ただ単に素材として海外の農産物と競争させるというのではなく、十勝の素晴らしい質の高い農産物の大切さを理解して、国内外の必要なところにそれを送り込んでいく仕組みを作らなければならないと思っています。」

(HC)
ダークチェリーの輸入を解禁したことで異常に高付加価値な山形のさくらんぼが、改めて認知され、結果的に高値取引されるようになった。十勝はブランドバリューがあるものがたくさんあっていいですよね。ブランドを安定させて、二次加工を育成していくということなんでしょうね。

(増田理事長)
「そうです。それにはまだ加工品が足りない。農業産出額に比べると食品加工業にはまだまだ付加価値を引き上げていく余地がある。雇用を増やしていくためにも、食品加工業の規模を少なくとも今の倍以上にしなければなりませんが、そのあたりの仕組みづくりが凄く大事です。そのためには先ほどの農業界の意識改革や地域づくりへの理解が必要になってきます。また、ものづくりや販路の開拓を進めていくことも重要です。そのためにも、十勝に足りないものはシンクタンク機能なんですね。」

(HC)それで昨年、専門部署である地域経済振興部を発足させたわけですね。

(HC)それで昨年、専門部署である地域経済振興部を発足させたわけですね。
「そういった機能を立ち上げると、当然人件費を含めてお金がかかります。それを維持しながら機能を発揮させるとなれば、自治体や経済団体は財政的にも苦しいし、当金庫がやるしかないだろうと。それが地域経済振興部を立ち上げた私の発想の原点です。2年がかりで日本銀行の帯広事務所長だった秋元さん(現:地域経済振興部部長)を説得し、とりあえず第一歩として3名のメンバーでスタートさせたんです。昨年1年間、秋元部長に動いてもらい、この分野の重要性をさらに確信し、今年はメンバーを6名に倍増させました。これは完全にコスト部門です。そこからのリターンがあるとすれば何年も先。それも計算されたものでもありませんから、人件費も含めて、活動費すべてがコストです。しかし、それは財務上のコストで、わたしは十勝の将来イコール、金庫の将来にむけての投資だと思っている。これを惜しんでいては金庫の経営者として、地域金融機関として、ステップアップしていかないと思っています。当金庫は地域では圧倒的なシェアを持ち、その分、地域に対する重い責任を負っています。期間収益を極大化させ、内部留保を積み上げても、内部留保が一人歩きして仕事をするわけではない。まさに、仕事をするのは人ですから。内部留保をとる努力も大切だし、リスクに対する耐久力は高めていかなければなりませんが、それをただ高めていっても活用しなければ無意味です。この点については信念をもって経営していますし、少なくとも役員レベルにおいては、私の方向性や考え方に理解を示してくれていると思っています。ただ、秋元部長にはかなりの負荷がかかってきていますので、外部にいい人材がいれば適宜採用をしつつ、シンクタンク機能を強化していきたいと思っています。また、自分のところで全て抱え込むのは少し重たくもなってきていますので、外部との連携も強化していこうと考えています。まずは、地域経済振興部は、1つのサテライトセンターのようになればいい。そのまわりに地元の大学であったり、外部の人たちであったり、関係先を増やしていければと思っています。他の地域金融機関との連携についても、たとえ普段競争しあっているところであったとしても、それが地域のためになるのであれば、業態にはこだわらず、積極的に行っていきたいと思います。」

(HC)外部との連携は具体的にはどのように?

(HC)外部との連携は具体的にはどのように?
(増田理事長)
「以前、ある仕事をきっかけに中国に太いネットワークを持つ、某大手企業の経営者の方と知り合いになりました。『中国に十勝産品を売りたいと考えているのなら、決済が一番心配でしょう』とのことで、『そうしたことの手助けならいつでも可能ですよ』と仰って頂いた。そうした外部のパイプも利用して、徐々に手助けしてもらいながら、中国へモノを流せるような準備をしていこうと思っています。また、先日、東武百貨店のカリスマバイヤーであった内田勝規氏とアドバイザー契約を結び、製商品開発、パッケージデザイン、販路開拓等、前広に事業者にアドバイスをすることが可能になった。ものづくりや販路開拓という目に見える実績を積み上げることは、非常に大切だと感じています。われわれが持っていないノウハウについては、私なり秋元部長なり、仕事を通じて出来た新しい人脈やチャネルの力を借り、利用できるものは全て利用していく、というのが非常に大事。地域金融機関は、どうしても井の中の蛙になってしまうことが多い。当金庫は、ずっと『十勝限定モデル』でやってきているわけですから、見えていないものがたくさんある。そうした身の丈というものを自覚して、外の力を借りることがとても重要です。販路開拓にしても、アドバイザーになっていただいた外部の方には、『帯広信金と契約した』というよりは、『十勝という食糧の宝庫と契約した』と思っていただきたいと思っています。だから『アドバイザーとなってくだった皆さんにとっても魅力はあるでしょう?』と。それを堂々と主張できることが、私たち十勝の強みですから。これからもそういった外部との連携を軸にした地域づくりを展開していきたいと思います。」


(帯広信用金庫 理事長 増田正二氏インタビュー以上)