金融庁
2018/02/28更新2017事務年度の金融行政方針には、「金融庁の所管にとらわれずに」という異例な記述がある。より正確には、金融庁が所管する金融機関の既定の業務範囲に限定しないで、金融行政の目的である経済の持続的成長と国民の厚生の増大のために、金融機能の高度化を図るべく、広く高い視点のもとで総合的な検討を行うという意味に解すべきである。その結果としては、現にある金融機関の業務範囲の見直しという方向と、現在は金融機関に認定されていない業者の新規参入を認める方向が生じる。金融の全ての分野に適用があると思われるが、フィンテックが強く念頭におかれていることは間違いない。フィンテックの重要分野として決済があるが、預金と決済機能が分離されれば、銀行等の特権業務として預金があり、預金に不可分に結合したものとして決済があるという構造が壊れるので、銀行等に与える影響は甚大なものとなる。だからこそ、金融行政方針のなかで、「業態別の法体系から機能別・横断的な法体系への見直しの検討」という項目をたてて、法体系にまで遡った根源的な改革に言及されている。法体系が機能別に移行すれば、金融庁としても機能別の組織に変更することになり、決済機能を所管する部署ができて、そこで、金融の全業態を横断的に、また金融の外からの新規参入業者も含めて、国民と産業界の利益の視点で、制度の設計と規制のあり方が検討されていくであろう。
金融庁は、2017年3月30日「顧客本位の業務運営に関する原則」を公表した。これは、ソフトローであり、金融庁がプリンシプル、即ち金融事業者の自律的な行動原則に委ねることである。従って、「顧客本位の業務運営に関する原則」が施策として機能するためには、金融事業者が自主自律的に主旨を受け入れて、自分自身の経営行動原則を定め、自分自身の言葉で顧客に対して確約し、約束を確実に履行していかなければならない。 原則が正式に公表されるまで、金融庁は「顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)」という表現を用いていた。このフィデューシャリー・デューティーは、既に2014年9月に金融庁が公表した「金融モニタリング基本方針」おいて、金融機関に徹底が求められていた。それに呼応して、金融界には、自主的にフィデューシャリー宣言を定める動きもあったが、規範としての実質的内容の伴わない言葉だけの宣言へと堕落する傾向が顕著となったこともあり、今回、ソフトローとして公表されるに至ったのである。
金融庁は、森長官のもと、金融行政の革命的転換を、強力に、かつ急速に、推進している。まず、2014年9月の「金融モニタリング基本方針」で、金融行政手法として、監督と検査という取り締まり的用語を使わず、モニタリングとし、より優れた業務運営(ベストプラクティス)に向けた経営改善が図られているかという視点への転換を行った。同時に重点施策として「資産運用の高度化」を掲げ、フィデューシャリー・デューティーという新しい概念を導入した。2015年9月の「金融行政方針」においては、「金融行政の目的」は、改めて経済の安定成長への貢献と位置づけ、「金融庁の改革」では、職員の一人一人が、省益ではなく、「国益への貢献」を追求し、困難な課題にも主体的に取り組んでいくことを求めている。