堤様がお持ちの投資哲学と運用の特色についてお聞かせください。
弊社のファンドは、日本の再生企業向け資金供与を投資戦略として立ち上げたファンドです。現在の日本では、金融機関の再生企業向け融資には、金融庁の資産査定における引当償却費の発生に伴う、取引採算の問題や新BIS規制の導入に伴う運用アセットの効率化など様々な制限を受け、再生のシナリオを十分描くことが可能な企業でも、なかなか円滑に融資を受けることができない現状があります。こうした、社会的なニーズにこたえることが、弊社のファンドの重要なミッションです。投資哲学としては、「投資家への卓越した価値提供」に加えて、「投資行為に対して社会的意義の徹底した追求」、「自らの利益だけではなく、投資先企業のあらゆるステークホルダーに対してもバランス良く事業利益をシェアし、適切な投資リターンの確保」を行う事を念頭においています。
運用の特色としては、①既存債権の割安取得=50%、②つなぎ資金供与=30%、③短期資本供与=20%と債権運用を中心として、ポートフォリオを持つことにより、インカムゲインを重視した運用を行います。また、ターゲットとなる再生企業は中堅・中小の企業であり、その金融取引を再生する事により、「小口分散、短期回収」を実現します。おおよその案件投資期間は2年程度と短い事に加えて、既存債権の割増償還など長期的なリターンを併せ持つ為、結果として、高いIRRを確保できることが特徴となっています。
今注目している投資機会について教えて頂けますか。
国内株式の低迷により、例えば新興国の株式運用が注目されていますが、私の国際ファイナンスの経験上、為替を含むソブリンリスクを完全にコントロールできるファンドマネジャーは、そう多くはないと思います。あくまでも、長期的に投資を行えば、マクロ経済の理論から、一定のリターンが獲得できるチャンスが多いと言うことだと思います。ただし、現実的には中国などの経済成長率の推移やその運用利回り、市場規模などを、国内株式市場の指標と比較して無視できないことも理解しています。よって堅実的に投資機会を考えるならば、例えば、国内企業向け投資でも中国へのアウトバウンドによる間接的に同国の経済成長に見合うリターンを享受できるような投資戦略や手法を選ぶことが肝要です。また一方、中国からのインバウンドの投資により、国内で低迷していた企業が成長資金を獲得し、再び成長軌道にのっていけるなどの投資戦略や手法が選択できるのであれば、それも十分魅力的な投資機会になると思っております。弊社の再生ファンドは、投資先である再生企業の売上拡大に向けて、国内市場の市場規模は市場成長率が低迷していることも受け、中国市場への売上拡大に向けたサポートを行っています。同時に、弊社ファンドの出口戦略の一つとしても考えられますが、日本企業としての存続を確立しつつ、海外企業との資本提携による成長資金の確保に向けたサポートも行っております。運用の仕事に携わろうと思われたきっかけについてお聞かせください。
約20年大手都市銀行の、調査部や海外支店、投資銀行部門などで、勤務しておりました。日本の銀行は、約20年前に金融自由化とバブル経済崩壊が不幸にも重なり、多額の不良債権を発生させ、その処理に約10年近くを費やすことになりました。同時に1980年代の日本の銀行の海外資産の爆発的な伸びを警戒した欧米諸国が、さまざまなBIS規制を高めた結果、かつて日本の銀行が持っていた、「資本市場が未発達な日本における特異なメインバンク制」が崩壊し、お取引先との間においても、ぎくしゃくした関係となってしまいました。入行当時は、日本経済の発展のために志高い金融業務を行うというやりがいを持って仕事をスタートしましたが、少し、銀行経営のスタンスが変化してきました。そのような中で、銀行のプリンシパルインベストメントによるファンド運営に携わることができ、ファンドが持つ、積極果敢なリスクテイクと緻密に計算されたリスクコントロールに触れることができ、ファンド運営=運用に携わりたいと思い、その為の準備を始めました。欧米でも、大学を卒業した後、インベストメントバンクに就職し、投資先へハンズオンした後、IPOなどでインセンティブを獲得、MBAを終了してファンドのシニアパートナーを目指すことが、金融マンのサクセスストーリーとなっています。日本の金融マンとしても、このようなキャリアを積むことが、運用の世界において幅広い見地と経験を持ち、高度な投資判断ができる運用者になれるものではないかと思います。今、日本の金融マンとして思うことについてお聞かせ願います。
私は、日本の金融マンになろうと思ったきっかけに、城山三郎の「男子の本懐」という本があります。時の首相である浜口雄幸と日銀総裁である井上準之介が、命をかけて男として難題に立ち向かい、果敢に使命を果たすという小説です。この小説を大学時代に読んで、「日本経済の発展に寄与する」そんな存在感のある仕事がしたいという理由で、銀行に入行しました。現実的には、こうして今は、投資運用業を通じてその目的を果たしたいと考え、日々業務に邁進しています。しかし、近時の日本の金融マンについて、少し思うことがあります。それは、命をかけてまでとは言いませんが、せめて「組織の利益」や「自分の評価や処遇」、「長いものにまかれる組織的判断」から離れて、現場のお客様の声や社会のニーズに対して、真のソリューション提供を行うべく、「骨のある判断=武骨な金融マンになること」をお願いしたいものです。特に最近は、金融機関の統合が行われた結果、A銀行でだめだったら、B銀行でもだめ、といった短絡的な判断が多くなっているのではないでしょうか。また、監督官庁の検査指導にあまりにも従順であるが故に、各金融機関のリスクテイクが同種になっているのではないでしょうか。せめて、思考のどこか一部に「将来の日本の国益のため」、「地域みらいのため」に、自分なりの相応のリスクテイクができるような、またそのリスクコントロールができるような日本の金融マンが、たくさん現れてくれることを願っています。成長への道筋についてどのようにお考えですか。
成長への道筋と言っても、例えば国の将来であったり、企業の将来であったり、自分の将来であったりと様々な論点がありますが、共通しているものとして、最近大切にしていることをひとつ申し上げます。 それは、成長には「あいまいさの中でも、前進していく力」が必要であるということです。私のように、かつては大手銀行勤務を経験している上で、現在ファンド運営会社を経営していますが、今の会社は人数的にも業歴的にも中小零細企業そのものです。よって、過去の先輩諸氏が残してくれたノウハウや事業基盤といったものが一切なく、これから自分たちですべてを築いていかなければいけません。ジョンFケネディーではありませんが、「会社が自分に何をしてくれるかではなく、会社に自分が何をできるか」を常に考えていかなければなりません。潤沢な資本背景や業歴に支えられた大企業と異なり、常に限られた範囲の資金やノウハウ、情報によって、限られた時間で判断していくことが求められます。そのような環境では、専門スタッフを総動員して事業判断を行う大企業で働いていたノウハウでは、全く現場の仕事が回っていかないことになります。多少のあいまいさが判断の時にあったとしても、答えを出して前進しながら解決していく力、これが成長していく過程で極めて重要になってきます。今求められている成長へ道筋には、このようなセルフ・ソリューション型の思考が重要ではないかと思います。投資に関するお奨めの書籍を1冊ご紹介頂けますでしょうか。
少し難しいのですが、運用業を行う方、あるいは投資を行っている方にとって、基本的に理解をしておく必要があることがあります。それは、現在の投資理論には、高度な知的注意力が必要とされていることです。その原因としては、金融理論の異常なまでの発展と、情報技術と計算技術の驚異的な進歩、そして投資活動の地球レベルでの拡大にあると思います。よって、いままでは、ごく一部の専門家しか触れることがなかった金融技術の専門書も、金融サービス機関やファンド運用業者、個人の投資家までもが触れる必要が出きています。本書は、この金融理論に対して基本原理が実際の投資問題の健全かつ現実的な問題解決にどのように用いられるかを説明するように書かれています。多少の統計学や微分積分演算の知識を必要としていますが、概念を体系的に理解するにはいい本であると思います。標題: 「金融工学入門」
著者: デービットGルーエンバーガー(今野浩、鈴木賢一、枇々木規雄 訳)
出版: 日経新聞社
主に業務に関する情報収集の為に、毎日チェックされている媒体(新聞・雑誌・webサイト等)を教えてください。
新聞では、日経新聞と一般紙を、雑誌では東洋経済、日経ビジネスなどをWEBサイトでは、GOOGLEのニュースサイトをチェックしています。 実は、これらの情報はすでに公開可能な情報のみを掲載しているにすぎませんから、実態の投資運用には、自分がターゲットとしている情報を如何に早く、うまく集めるかがポイントとなってきます。一般的には、投資対象企業があった場合、その分析に必要な事として、①その企業が所属している国の経済状況に関するデータ。②その企業が所属している業界の動向データ、③その企業の財務の状況に関するデータ、④その企業の非財務面に関するデータ、の4つになります。それぞれのデータは、過去のトラックデータとして保存されている媒体もありますし、現在の最新情報はやはり現場から直接仕入れることも必要です。何よりも、現場に出て自分の肌で感じてみることが肝要です。情報は陳腐化することはよく知られていますが、情報は、情報を持っている人のところしか集まらないということの方が重要です。情報収集の前に、自分が情報発信できるような情報を持つことから、スタートしてみればどうでしょうか。インタビュー後記
産業支援という金融の本質は普遍であっても、より良い姿を目指して進化していく過程は留まらないのでしょう。投資資金が会社の成長を支えていく過程が明確であればあるほど、投資する意義は感じやすくなります。今後は益々ファンドの社会的機能が重要性を帯びてくるだろうと感じました。インタビューは以上になります。
堤 智章 氏がパネリストとして参加されるセミナーはこちら
リスク・手数料などの重要事項に関するご説明