Declaration(現:Manulife Investment Management)
Bond H. Griffin氏インタビュー

interviewer:橋本 あかね(HCアセットマネジメント㈱ 常務取締役 運用部長) photographs:佐藤 亘
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デクラレーションの投資哲学や社名の由来、運用の特色についてお聞かせ下さい。

デクラレーションの投資哲学や社名の由来、運用の特色についてお聞かせ下さい。
 デクラレーションは債券の運用会社で、証券化商品、なかでも、政府系と民間系の住宅ローン担保証券(RMBS)と商業用不動産ローン担保証券(CMBS)の専門家です。目標は、証券化商品とそれ以外の債券を組み合わせることでリスク効率の高いポートフォリオを構築することです。個別有価証券の時価が、長期的に妥当と思われる適正価格とずれるところに投資機会があります。原資産の弁済状況や金利水準、期限前償還の実現状況によって、割安な状態が生じます。
 期限前償還に反応しやすい資産と弁済状況に反応しやすい資産を組み合わせることで、リスクに見合ったリターンを高めることができると考えています。レバレッジの使用には常々慎重に対応してきました。レバレッジを使用する戦略はほとんど無いのですが、証券化商品の流動性はいつでも枯渇する可能性があることに留意しています。個別証券について言えば、損失や期前償還の予測を間違えたとしても十分な安全弁のあるディスカウント価格で取引される証券を探します。50bpの追加利回りを追求しようとするよりは、個別銘柄を厳選しつつ、ポートフォリオレベルでボラティリティや損失のリスクを管理しようとしています。
 Declaration Management & Research LLC(デクラレーション)は1989年に設立されました。SEC(米証券取引委員会)に登録しており、約85億ドルの資産をお預かりしています。マニュライフ・ファイナンシャル・コーポレーションの資産運用部門がマニュライフ・アセット・マネジメントで、約2,000億ドルの資産を2012年3月末時点で運用していますが、その傘下の一部門です。証券化商品を対象とする戦略を中心に運用していますが、20年以上住宅ローン担保証券や資産担保証券に投資し続けており、親会社や日米の機関投資家のみなさまにご投資頂いています。

証券化商品に投資したことのない平均的な投資家に対して、証券化商品の特長やその投資機会についてわかりやすくご説明ください。

証券化商品に投資したことのない平均的な投資家に対して、証券化商品の特長やその投資機会についてわかりやすくご説明ください。
 すべての証券化商品に共通なのは、(a)住宅ローンや商業用不動産ローンなどの担保が付いていること、また(b)原資産を裏づけとして証券が発行されていることです。証券には様々な種類があって、弁済順位やクーポン、格付、期間など多様です。元利払いのキャッシュフローは原資産から生じます。証券に影響するリスク要因は、原資産の弁済状況(債務不履行、損失、期限前償還の状況)と連動しており、また、資本構成上位のシニア債が優先的にキャッシュフローを受け取る権利があるという構造に起因しています。証券化商品は、リスク許容度が異なる多様な投資家に選択肢を与えてくれて、原資産もまた住宅ローンやクレジットカード、自動車ローンその他あらゆる売掛金など多岐に亘っています。証券化は貸付市場に追加的な資金と流動性を提供する仕組みであり、投資家にとってはあらゆる種類のインカム資産の源泉だということになります。
 証券化市場は細分化されていて、リスク度合いによって、安定した低ボラティリティ資産からディストレスト証券まで存在していますが、同一銘柄のなかでもあり得ることなんです。投資目的の異なるあらゆる投資家が、証券化市場のサブセクターのなかで豊富な投資対象を見出すことができます。市場環境の変化に合わせて、ポートフォリオのリスク属性を上げたり下げたり、調整しやすいということでもあります。
 証券化商品は複雑で、深みのある分析を行おうとすれば、原資産と証券構造に造詣が深くなければなりません。複雑であるために、多くの投資家にとっては情報の壁が高いことになりますし、この道の専門家にとっては超過収益の源泉がふんだんにあるということになります。こうした情報格差があるために、証券化商品の専門家は、コアやハイイールド、バンクローンのセクターに比べると少ないのが現状です。証券化商品は、適切に運用すればかなり大きなリスクプレミアムの恩恵を受けられる分野で、リスクプレミアムがどこから生じるかというと、クレジット、期限前償還の状況、流動性、格下げ方針、政府介入といった潜在的な外部要因などが挙げられます。

他の証券化商品戦略のマネジャーと比較した場合、デクラレーションにはどのような強みがあるとお考えでしょうか。

他の証券化商品戦略のマネジャーと比較した場合、デクラレーションにはどのような強みがあるとお考えでしょうか。
 1989年からストラクチャードファイナンスに投資をしてきて、いくつもの市場サイクルを経験してきました。特に、マクロ環境が大きく変動した時期を経験してきたことが重要だと考えています。チームの強みは厳格な分析力にあり、個別ローン分析、売買執行経験、有価証券の本源的価値の見極め、さらには資本構成の上から下に至るまで証券化商品のボラティリティ特性について精通していることが挙げられます。証券化セクターのなかで、商業用不動産ローン担保証券(CMBS)や住宅ローン担保証券(RMBS)の信用リスクと政府保証付エージェンシーMBSの相対価値を中立に評価するように努力しています。デクラレーションには各分野の専門家がおり、また、ポートフォリオマネジャーは異なるセクター間の証券でもリスクを中立化して評価することができます。過去のパフォーマンスをご覧頂ければ、リスク管理、特に下落リスク管理が効いていたことと安定的な成績を達成してきたことをご確認頂けると思います。ボラティリティの低い戦略から高めの戦略まで共通した実績です。

どのようにしてお客様の資産保全を図るかお聞かせください。

どのようにしてお客様の資産保全を図るかお聞かせください。
 ポートフォリオのリスクを注意深くモニターしています。われわれにとって、リスクは元本の毀損可能性のことです。上昇リスクなどというものは無いと考えています。投資機会が見出せない市場環境であれば、有価証券の保有比率を引き下げることも出来れば、ガイドラインによっては空売りすることも出来ますし、現金で待避して状況が変わるのを待つことも出来ます。過去運用していた“オポチュニスティック”戦略のなかには、予定よりも早く資金をお返ししたものもあります。想定よりも早く利益が実現したからです。
 ポートフォリオレベルで管理するのは、投資対象を分散し、発行額や残存期間に制限をつけることのほか、リスクプレミアムが薄くなれば市場連動性の高い信用リスクの配分を引き下げるなど細やかな配分調整をしますし、買うタイミングは見極め、レバレッジは殆ど使いません。レバレッジを使用する戦略は限られています。有価証券レベルでは、原資産を分析する際に、個別ローンの情報に基づき延滞や損失、期限前償還の傾向を予測する計量モデルを活用します。また、モデルでは判断しきれないリスク、例えば債権回収会社の動向や政策動向などにも注意を払っています。出来る限り、そうした外部要因に起因する定量化できないリスクがある証券は避けています。徹底したシナリオ分析を実施しており、個別の有価証券について、ベースケースから多様なストレスケースまで期待リターンをシナリオ分析します。シニアクラスに注目しているのは、損失の可能性が低いことに加えて、満期まで担保の優先請求権が付与されているために、市場サイクルにかかわらず、比較的リスクリターンの属性が安定しているからです。

ポートフォリオマネジャーになろうと思われたきっかけをお聞かせください。常に心掛けていらっしゃること、あるいは、しないと決めていらっしゃることはありますか。

ポートフォリオマネジャーになろうと思われたきっかけをお聞かせください。常に心掛けていらっしゃること、あるいは、しないと決めていらっしゃることはありますか。
 私は若いころから投資と金融市場に強い興味を持っていました。大学時代の専攻は工学でしたが、常に金融に携わることを望んでいました。市場が面白いと思うのは、極端な投資家心理を反映したり、時には合理的でない集団行動を反映したりする一方で、本来数学的基盤に支えられているものであることです。市場で価格がディスカウントになる構造は不思議なもので、本に書いてあるほど効率的ではないようです。資産運用はダイナミックで知的満足度の高い仕事であり、投資プロセスをより良くするためにはいろいろな角度から検証して、多くの仮説に基づいた疑問を投げかける必要があります。
 ポートフォリオマネジャーとしては、お客様の長期的な目標を考えて運用することを念頭に置いています。お客様はこのポートフォリオに何を期待していて、どの程度のボラティリティを許容しているのか? 足元の市場見通しや運用方針を正しく伝えているだろうか? 私は決してお客様のリスク許容度や目標に合わない判断はしないつもりです。ことがうまくいかなければ商売として良いことありませんし、お客様にとっても何もプラスにもならないですよね。お客様との信頼関係はとても大切で、着実に築いていこうと考えています。

投資に関するお奨めの書籍はありますか。ある場合はその理由もお聞かせください。

投資に関するお奨めの書籍はありますか。ある場合はその理由もお聞かせください。
 『This Time is Different』(Carmen Reinhart、Kenneth Rogoff共著)を是非読んでみてください。過去の経済や市場の経験を振り返り、足元の状況を見つめなおすことができます。様々な実例に基づき、各国が如何にして困難な経済状況や金融環境に陥ったか、あるいは、脱却するにあたってどのような行動を起こしたかについて、貴重な情報を提供してくれます。現在の欧米の状況が過去の前例と比べてどう違うのか理解することは、長期見通しを立てるうえで鍵となります。金融危機や不動産不況からの経済回復には時間がかかることが多く、どんなに財政政策や金融政策を発動しても効果が出にくいものです。デフォルトや通貨の切り下げ、インフレーションは歴史のなかで繰り返し生ずる事象で、再び起こりそうな気配です。

投資関連の調査をするにあたり、毎日チェックされている情報源を教えてください。また、「情報過多」をどのように適切に管理されているかについてもご説明ください。

投資関連の調査をするにあたり、毎日チェックされている情報源を教えてください。また、「情報過多」をどのように適切に管理されているかについてもご説明ください。
 デクラレーションでは様々な情報源をもとに調査を行っています。ウォールストリートジャーナルやワシントンポスト、ニューヨークタイムズ紙などの伝統的な新聞から、エコノミストやGrant’s Interest Rate Observer誌といった雑誌も参照します。また、証券化市場に関する投資銀行の調査レポートは全てチェックしています。不動産に深く関わりますので、住宅や底地の価格や信用統計は常時見ています。また、連邦住宅金融局(FHFA)が発行する刊行物にも全て目を通し、住宅ローン市場の動向を正確に把握するようにしています。米国では住宅ローンの大部分は政府が供給しているため、政府の資金供給の動向や政策については特に注意を払っています。
 市場や経済に関する情報や意見は溢れかえっていますので、誰でも圧倒されてしまうでしょう。当然、ポートフォリオマネジャーは、効果的な情報処理の方法を工夫していかなければなりません。入って来るデータや意見に対しては、それが否定的な意見であっても肯定的な意見であってもですが、耳を傾けなければならず、一方で経験から培ってきた、いくつかの核となる原則は持っていなくてはなりません。この核となる原則には、経済や市場の見通しが反映されますし、ポートフォリオのリスクをどう管理していくかといった見解が含まれます。こうした原則があればこそ、新しい情報を的確に分析することが出来ますし、投資方針やポートフォリオ構成に何らか再考の必要がないか、判断することができるのだと思います。短中期的には、柔軟かつ細かに対応していくことを目指しつつ、長期的な経済見通しを形成しようとしています。

インタビュー後記

インタビュー後記
 最初お目にかかったとき、お名前を伺って、感心してしまいました。名詞のBond、道路のBond、名字のBondに加えて、名前のBondがあるとは。きっと天職なのだと思います。
 原資産のローンの弁済状況を日々確認し、証券ストラクチャーの個々のトランチの値動きを日々確認するとは正に職人技。みなさま、極めて地道な分析の積み重ねこそが資産運用の本質である、ということを改めて実感されませんでしたか。








インタビューは以上になります。



リスク・手数料などの重要事項に関するご説明