トーブ様がお持ちの投資哲学、特に、バランスシート最上位である質の高い債権に投資する中で、どのように「株式並み」の収益を確保されるのか、お聞かせください。
写真右:Brook Taube氏/左:Joseph R. Schmuckler氏ミドルマーケットのダイレクトレンディングは相対の契約に基づく取引ですが、有担保ローンが有する下支え効果と追加的な上振れ期待を合わせもつ特性があります。上振れ期待はメザニンやエクイティのような資産を組み合わせることで追求できます。さらに、借り手のバランスシート上位の債権に資金を供給することにより、優先して利益を得ることができますし、資産売却、資本調達、保険金の受取などの資本再編プロセスにおいても、コントロールする優先管理権を有します。
プライベートデットには固定金利か変動金利がついており、定期的に、通常は月次または四半期ですが、受け取ります。株式に投資する場合は換金するまで現金や定期的な利子収入を受け取ることはありませんが、プライベートデットには定期的な利子収入のほか、均等弁済条項がついており、資金の出し手のリスクは全体的には軽減されます。
プライベートデットのポートフォリオを組成すると、『エクイティキッカー』付の案件もあり、これまで5~10% の追加的IRRを創出してきました。オプション、ワラント、利益配分、共同投資権など様々な形態があります。オプションとワラントには一般的に標準的な権利保護条項がついていまして、希薄化防止条項や少数株主に付与される買取請求権、あるいはピギーバック登録権を含む保護特性などがあります。利益配分は、ウォーターフォール構造を伴うのが一般的で、貸し手は、ローンの利子を受け取ったのちのキャッシュフローの分け前を受け取ることになります。
プライベートデットの魅力が急速に高まっているのは、ボラティリティが低いわりにリターンは安定しているうえ、市場との相関が低いためです。特に、キャッシュフローは契約によって定められた一定期間の元利払いに基づいて発生するので、健全なM&Aの動向や株式市場の状況に依存しません。プライベートデットの基本金利収入は、市場が困難な状況が継続したとしても実現されるのです。
非流動性資産、例えばプライベートエクイティに投資する場合、管理手数料分を含む払込を実施しながら収益を得るまでには、相当時間がかかります。いわゆる「J カーブ」です。一方、プライベートデットに投資する場合は、定期的(月次または四半期次)に元利払いのキャッシュフローが生じるので、Jカーブを緩和することが出来ます。
債券市場や銀行から資金調達する機会が限られているミドルマーケットの企業に資金提供することによって、資金の出し手は、シンジケートローンを提供する銀行よりも高い金利を受け取ることが出来ます。さらには、相対取引であって効率性がやや低いという市場特性から、資金の出し手は、かなり有利なローン条件を設定することが出来ます。こうしたことから、プライベートデットは有担保ローンのリスク特性でエクイティ並みのリターンを追求できる投資対象であり、ポートフォリオの分散効果として意義があると思うんです。
今注目している投資機会について教えてください。なぜハイイールド債券や投資適格社債ではなく、有担保ローンなのですか?
クレジット分野で投資機会を検討する場合、注目するべきポイントは4つあります。1. 価格と利回り: 銀行システムの回復と中央銀行が提供する流動性に後押しされて投資資金は債券に流入し、国債や社債の利回りは歴史的低水準となり、社債の対国債スプレッドは低下しました。一方、こうした流動性は大企業以外のクレジット市場には戻っていないことに留意が必要です。銀行システムの構造問題や規制強化に加えて、伝統的な貸し手が長期資金の調達に困難をきたし、撤退していったためです。クレジット市場と一口に言っても、ミドルマーケットは大企業群の状況とは異なり、利回りやスプレッドは高止まりしていて、あらゆる債券のなかでも特筆される状況です。
2. レバレッジあるいはリスク: ミドルマーケット向け貸付の損失可能性は、大企業向けより低いのです。資本構造がそれほど複雑でないために、破たんした場合でも担保の裏付けがわかりやすく、回収期間や再生期間は比較的早い傾向があります。ミドルマーケットの借入額は大企業対比EBITDA比率が低く、担保掛け目は総じて低くなっています。ミドルマーケットに対する貸付は大企業対比、歴史的にデフォルト率は低く、回収率は高く、損失確率は普通の市場環境でも厳しい時でも低く推移してきました。
3. 優先順位と担保: ミドルマーケット向けの貸付とは、当該企業の資産や事業価値を担保とする第一抵当権付きの権利です。投資適格債券といった債券は、シニアですが無担保の権利です。ハイイールド債の場合、構造はさまざまですが、資本構成としてはジュニアかメザニンの優先順位の権利です。
4. 流動性と利回りの予測可能性: 利回りと利益を追求しますと流動性とトレードオフが生じます。ダイレクトレンディングの分散されたポートフォリオを構築すれば、個別ローンの条件や元利払い条項、満期構成を明確に透明に管理することができます。投資家にとっては、投資期間中の元本弁済や利益分配計画に基づいてキャッシュフローを設計することができるということです。個別ローンの平均回収期間はおよそ4年です。
ポートフォリオマネージャーになろうと思われたきっかけをお聞かせください。
私は大学卒業後Bankers Trust Corporationに入行し、レバレッジドローン部門のバンカーになりました。Bankers Trust は、当時、ミドルマーケットの成長産業に対して積極的に貸付する米国内でも数少ない全国銀行のひとつでした。ところが他の数多くの銀行と同様再編の当事者となり、企業金融に特化することが出来なくなりましたので、私はBankers Trustを退職することとしました。成し遂げたかったことは、伝統的な銀行借入の依存度をどんどん引き下げている優れた事業会社に対して貸付金を提供したり成長資本を提供したりすることでした。この夢が10年前のMedley Capitalの設立に結びつきました。同僚の認めるところですが、私は企業と一体となって、様々なチャレンジに対するソリューションを考案することが大好きなんです。会社を設立してから最も好んでいる活動は、事業会社が運転資金や成長資本を調達する際の最適ソリューションを、会社と一体となって、策定することです。過去10年間で、当社は北米全域の多様な産業の事業会社に対して130件の貸付を実施しました。非常にやりがいのある仕事です。債券投資する場合、信用リスクか金利リスクかその両方を負うことになりますが、ローンの場合は
資金の貸し手がとる主要なリスクは信用リスクです。借り手がローン契約に定めた義務を果たせない可能性を負うわけです。このリスクを緩和する方法は4点あります。1. ローンの発掘と案件組成
2. 精査と優れた引受の実施
3. 資産管理とローンのモニタリング
4. 地域と産業セクターの分散
貸し手にとって金利リスクはたいしたものではありません。ダイレクトレンディングはバイアンドホールドであり、金利変動の影響を抑えることができます。ポートフォリオが保有するローンの過半はLiborに連動する変動金利ものであり、短期金利が上昇すれば貸付金利は再設定されます。ローンの平均残存年数は4年程度ですので、金利感応度は決して高くはないのです。
ポートフォリオマネジャーとしての信念をお聞かせください。常に心がけていること、あるいは、しないと決めていらっしゃることはありますか。
ポートフォリオマネジャーとしての私は、お客様の受託者です。これを明確かつ簡単に説明すれば、お客様の利益を自身の利益より優先し、顧客利益の最大化に基づき決断を下すということです。これが私のポートフォリオマネジャーとしての信念です。ポートフォリオマネジャーとして、私は透明性が高く説明のしやすい投資戦略で、一貫したリターンと低いボラティリティを達成するよう努力しています。価値を生み出すために複雑な技術やモデルを駆使するといった投資手法の「流行」を数多く見てきました、個人的には賛同できません。どのようにして一貫して利益をあげられるのか、理解出来ないからです。多くの事業と同様に、私の事業も遂行するのは困難ですが、投資家に説明するのは困難ではないと思います。信用度の高い企業への貸付は、世界でもっとも古典的な事業のひとつであり、お客様に説明し理解頂くことは容易なはずです。私が心掛けていることは、当社の経営理念をよくご理解いただき、お客様が安心して資金を託す価値があると信じて頂けるようにすることです。私が決してしないことは、達成不可能なことをお客様に約束することです。私どものアプローチを説明する際には、どのようなリスクをとるのか、どのようにリターンを生みだすのか、そしてもっとも重要なこととして、どのように投資家に資金を返却するか、については必ず明確にします。あらゆる戦略にむやみに勝とうとしないことが肝心で、達成不可能なことを顧客に約束するのは無謀とと思っています。
どのようにしてお客様の資産保全を図るかお聞かせください。
どんなクレジット戦略にも、銀行が出そうがファンドが出そうが、資産保全を図る重要な要素が3つあります。1. 優れたローンを発掘すること。必ず信頼のおける情報網やよく知る人間から案件を発掘することです。サイクルにかかわらず事業が安定していて、事業構造や製品、顧客層についてきちんと説明できる会社のみを貸付対象とするのです。これがクレジット投資をするうえで、資産保全を図る最大の要素です。
2. 優れた引受と強固な取引構造。単に良いデューデリジェンスを行う以上の意味を持ちます。もちろん精査はしますし重要ですが、さらに重要なのは、借り手の契約条件やコベナンツをしっかり管理することです。これは、ダイレクトレンディング特有の利点であり、一般的な公社債投資にはないものです。借り手に合わせた契約設定でリスクに見合う条件を付与することができ、他の投資家やウォール街から圧力を受けることはありません。市場取引の場合は、大抵発行者に有利な条件が付与されており、私どものリスク管理基準に見合わない場合が多いのです。ダイレクトレンディングの回収リスクが抑制される圧倒的な有利さはそこにあり、市場取引には存在しない魅力です。
3. 厳格な資産管理プロセスとポートフォリオモニタリングシステム。契約違反、資金管理および経営状況の全体像を把握するべく、システムを用いて投資の状況をモニターすることは実に重要です。メドレーでは、長年にわたって築き上げてきた独自のシステムを活用して、ポートフォリオが保有する個別ローンの契約遵守状況について管理しています。同時に、借り手と頻繁にコミュニケーションを図りますし、現場の状況を実際に確認するべく実地訪問を定期的に実施しています。優れたシステムとは、対面での話し合いや事業の物理的評価を伴ってこそ、価値が発揮されるものです。
投資に関するお奨めの書籍とその理由を教えてください。
長年にわたり、投資に関する本は何冊も読んできました。率直に言うと、同じ題材をとりあげている本が殆どなのですが、特色が異なり、別々の時代に書かれていながら、重要な点が共通する本が2冊あります。米国作家 Edwin Lefevreの1923年の著書『Reminiscences of a Stock Operator』は、有名な投機家Jesse Livermore の伝記です。トレーディングや投機の古典であり、事実、あのAlan Greenspan氏が、この本を「投資のための知恵の源」と呼んでいるほどです。この本を通して私は、投機という現象に人間の持つエネルギーがいかに重大な役割を果たすか、さらに、効率的で適正に機能する市場の価格形成にどのように影響を与えるかについて学びました。1920年代のアメリカの金融マンやその文化はとても興味深いものがあります。現在より単純な時代に生き、投資には自らの頭脳とエネルギーのみを用いた人々です。『Too Big to Fail』 はAndrew Ross Sorkinが2009年に書いたものですが、2008年のLehman Brothers崩壊直前の数日そして崩壊後に米国の金融システムを救うために展開された、ウォール街とワシントン間の戦いの物語です。これは投資そのものについての本ではありませんが、過去20年間にわたってウォール街の投資家であり在籍者であった私は、大きな影響を受けました。Sorkinは、あの非常事態において、米国財務省、連邦政府、また企業や投資家の面々が揃った重要な会議の多くに参加した人物です。すべての金融危機と同様、これも過剰なレバレッジと、金融システムのなかでの尋常でない資産負債構造の不整合に端を発していました。銀行システムに存在する歪みを把握するほか、金融機関が多数の同様の仮定に基づき利害関係取引をしてきたことの致命的な欠陥を把握する上で私には特に勉強になった本です。定期的にチェックされている媒体(新聞・雑誌・webサイト等)を教えてください。
Financial Times と Wall Street Journal は毎日読んでいます。Bloombergオンラインには、毎日24時間接続しています。また、Pulse News、Slate、The Onionなどのオンラインのニュースサイトを通して他の全国紙もほとんど読みます。ニュースとは別に、広範囲にわたる自分の興味に合った本も常時読みます。歴史、人文科学、ビジネス、興味深い個人の伝記などです。インタビューは以上となります。
リスク・手数料などの重要事項に関するご説明