トーブ様がお持ちの投資哲学、特に、バランスシート最上位である質の高い債権に投資する中で、どのように「株式並み」の収益を確保されるのか、お聞かせください。
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ミドルマーケットのダイレクトレンディングは相対の契約に基づく取引ですが、有担保ローンが有する下支え効果と追加的な上振れ期待を合わせもつ特性があります。上振れ期待はメザニンやエクイティのような資産を組み合わせることで追求できます。さらに、借り手のバランスシート上位の債権に資金を供給することにより、優先して利益を得ることができますし、資産売却、資本調達、保険金の受取などの資本再編プロセスにおいても、コントロールする優先管理権を有します。
プライベートデットには固定金利か変動金利がついており、定期的に、通常は月次または四半期ですが、受け取ります。株式に投資する場合は換金するまで現金や定期的な利子収入を受け取ることはありませんが、プライベートデットには定期的な利子収入のほか、均等弁済条項がついており、資金の出し手のリスクは全体的には軽減されます。
プライベートデットのポートフォリオを組成すると、『エクイティキッカー』付の案件もあり、これまで5~10% の追加的IRRを創出してきました。オプション、ワラント、利益配分、共同投資権など様々な形態があります。オプションとワラントには一般的に標準的な権利保護条項がついていまして、希薄化防止条項や少数株主に付与される買取請求権、あるいはピギーバック登録権を含む保護特性などがあります。利益配分は、ウォーターフォール構造を伴うのが一般的で、貸し手は、ローンの利子を受け取ったのちのキャッシュフローの分け前を受け取ることになります。
プライベートデットの魅力が急速に高まっているのは、ボラティリティが低いわりにリターンは安定しているうえ、市場との相関が低いためです。特に、キャッシュフローは契約によって定められた一定期間の元利払いに基づいて発生するので、健全なM&Aの動向や株式市場の状況に依存しません。プライベートデットの基本金利収入は、市場が困難な状況が継続したとしても実現されるのです。
非流動性資産、例えばプライベートエクイティに投資する場合、管理手数料分を含む払込を実施しながら収益を得るまでには、相当時間がかかります。いわゆる「J カーブ」です。一方、プライベートデットに投資する場合は、定期的(月次または四半期次)に元利払いのキャッシュフローが生じるので、Jカーブを緩和することが出来ます。
債券市場や銀行から資金調達する機会が限られているミドルマーケットの企業に資金提供することによって、資金の出し手は、シンジケートローンを提供する銀行よりも高い金利を受け取ることが出来ます。さらには、相対取引であって効率性がやや低いという市場特性から、資金の出し手は、かなり有利なローン条件を設定することが出来ます。こうしたことから、プライベートデットは有担保ローンのリスク特性でエクイティ並みのリターンを追求できる投資対象であり、ポートフォリオの分散効果として意義があると思うんです。
今注目している投資機会について教えてください。なぜハイイールド債券や投資適格社債ではなく、有担保ローンなのですか?

1. 価格と利回り: 銀行システムの回復と中央銀行が提供する流動性に後押しされて投資資金は債券に流入し、国債や社債の利回りは歴史的低水準となり、社債の対国債スプレッドは低下しました。一方、こうした流動性は大企業以外のクレジット市場には戻っていないことに留意が必要です。銀行システムの構造問題や規制強化に加えて、伝統的な貸し手が長期資金の調達に困難をきたし、撤退していったためです。クレジット市場と一口に言っても、ミドルマーケットは大企業群の状況とは異なり、利回りやスプレッドは高止まりしていて、あらゆる債券のなかでも特筆される状況です。
2. レバレッジあるいはリスク: ミドルマーケット向け貸付の損失可能性は、大企業向けより低いのです。資本構造がそれほど複雑でないために、破たんした場合でも担保の裏付けがわかりやすく、回収期間や再生期間は比較的早い傾向があります。ミドルマーケットの借入額は大企業対比EBITDA比率が低く、担保掛け目は総じて低くなっています。ミドルマーケットに対する貸付は大企業対比、歴史的にデフォルト率は低く、回収率は高く、損失確率は普通の市場環境でも厳しい時でも低く推移してきました。
3. 優先順位と担保: ミドルマーケット向けの貸付とは、当該企業の資産や事業価値を担保とする第一抵当権付きの権利です。投資適格債券といった債券は、シニアですが無担保の権利です。ハイイールド債の場合、構造はさまざまですが、資本構成としてはジュニアかメザニンの優先順位の権利です。
4. 流動性と利回りの予測可能性: 利回りと利益を追求しますと流動性とトレードオフが生じます。ダイレクトレンディングの分散されたポートフォリオを構築すれば、個別ローンの条件や元利払い条項、満期構成を明確に透明に管理することができます。投資家にとっては、投資期間中の元本弁済や利益分配計画に基づいてキャッシュフローを設計することができるということです。個別ローンの平均回収期間はおよそ4年です。
ポートフォリオマネージャーになろうと思われたきっかけをお聞かせください。
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債券投資する場合、信用リスクか金利リスクかその両方を負うことになりますが、ローンの場合は
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1. ローンの発掘と案件組成
2. 精査と優れた引受の実施
3. 資産管理とローンのモニタリング
4. 地域と産業セクターの分散
貸し手にとって金利リスクはたいしたものではありません。ダイレクトレンディングはバイアンドホールドであり、金利変動の影響を抑えることができます。ポートフォリオが保有するローンの過半はLiborに連動する変動金利ものであり、短期金利が上昇すれば貸付金利は再設定されます。ローンの平均残存年数は4年程度ですので、金利感応度は決して高くはないのです。
ポートフォリオマネジャーとしての信念をお聞かせください。常に心がけていること、あるいは、しないと決めていらっしゃることはありますか。
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私が決してしないことは、達成不可能なことをお客様に約束することです。私どものアプローチを説明する際には、どのようなリスクをとるのか、どのようにリターンを生みだすのか、そしてもっとも重要なこととして、どのように投資家に資金を返却するか、については必ず明確にします。あらゆる戦略にむやみに勝とうとしないことが肝心で、達成不可能なことを顧客に約束するのは無謀とと思っています。
どのようにしてお客様の資産保全を図るかお聞かせください。
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1. 優れたローンを発掘すること。必ず信頼のおける情報網やよく知る人間から案件を発掘することです。サイクルにかかわらず事業が安定していて、事業構造や製品、顧客層についてきちんと説明できる会社のみを貸付対象とするのです。これがクレジット投資をするうえで、資産保全を図る最大の要素です。
2. 優れた引受と強固な取引構造。単に良いデューデリジェンスを行う以上の意味を持ちます。もちろん精査はしますし重要ですが、さらに重要なのは、借り手の契約条件やコベナンツをしっかり管理することです。これは、ダイレクトレンディング特有の利点であり、一般的な公社債投資にはないものです。借り手に合わせた契約設定でリスクに見合う条件を付与することができ、他の投資家やウォール街から圧力を受けることはありません。市場取引の場合は、大抵発行者に有利な条件が付与されており、私どものリスク管理基準に見合わない場合が多いのです。ダイレクトレンディングの回収リスクが抑制される圧倒的な有利さはそこにあり、市場取引には存在しない魅力です。
3. 厳格な資産管理プロセスとポートフォリオモニタリングシステム。契約違反、資金管理および経営状況の全体像を把握するべく、システムを用いて投資の状況をモニターすることは実に重要です。メドレーでは、長年にわたって築き上げてきた独自のシステムを活用して、ポートフォリオが保有する個別ローンの契約遵守状況について管理しています。同時に、借り手と頻繁にコミュニケーションを図りますし、現場の状況を実際に確認するべく実地訪問を定期的に実施しています。優れたシステムとは、対面での話し合いや事業の物理的評価を伴ってこそ、価値が発揮されるものです。
投資に関するお奨めの書籍とその理由を教えてください。
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定期的にチェックされている媒体(新聞・雑誌・webサイト等)を教えてください。
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インタビューは以上となります。
リスク・手数料などの重要事項に関するご説明