Q1. 御社の投資哲学および投資プロセスについて教えてください。
運用資金をお預け下さるお客様の財産を1円でも多く増やすことが基本です。それは、上場企業が株主に負っている責任と何ら変わることはありません。そのためには、投資対象、投資手法、投資担当者の点で、他社の先を行くことが必要になります。逆に言えば、これを徹底すれば勝てる、これが弊社の投資哲学ということになるでしょう。まず、日本の運用会社にとっては、①3500社以上の上場企業があり、②相応の流動性もあり、③多くの業種が存在し、④日本人が日常的に多くの上場企業の商品やサービスに接している、という意味で、日本株という選択肢は外せないことになります。したがって、当社の主力事業は、当面は日本株関連ということになるでしょう。ここから、派生的発展を果たす努力をしています。
投資手法という意味では、これは運用会社のノウハウになりますので、細かくは明かすことができません。敢えて申し上げると、当社は8月末にビッグデータを使った日本株ロングショートファンドをローンチします。こうした、先進的な取り組みによるリターンの極大化・極小化を進めていきます。
投資担当者については、日本株については、現在は私が全ての責任を負っています。運用というビジネスが極めてタフな仕事であり私自身の能力不足・体力不足を日々痛感していますが、正直なところ、現在の日本株の運用業界の状況を見ている限りは、他の運用者に負ける気はしません。それは、単なる気分ではなく、これまで日本と世界の様々な一流企業に所属して切磋琢磨した経験に加え、アナリストとしてがむしゃらに働きながら世界中の多くの運用者に接してきたことの結論です。だから、今は私が運用に当たっているわけですが、私以上の能力を有する運用主体が現れたら、その者に任せ私はマネージに徹したいと思います。このような形で、最適な人間による運用にこだわります。
投資プロセスについては、特にこだわりはありません。運用を担当する個々人の人間分析力・企業分析力・経済分析力・心理学知識・法的知識などの全方位的能力を総合的に見据えて導き出すべきです。その意味では、一般論として、運用者個々の能力の違いを無視して運用プロセスという「形」から入って運用を取り仕切るのはナンセンスでしょう。朝起きたら、すぐに顔を洗い、ひげをそり...などど周囲に勝手に決められて一日を過ごして最高のパフォーマンスを出せますか?スマートな生き方をしている人は、自分で決めた自分のスタイルやリズムを持っています。逆に言えば、そうしたスマートでない人を運用チームに入れて、実力不足を運用プロセスで賄う、といったことは本末転倒のように思います。
Q2. 今どこに投資機会を見出していらっしゃいますか。なぜ日本株ロング・ショート戦略に魅力があると考えていらっしゃいますか。
投資機会は、広い意味では、日本株の裾野の広さ、奥行きの深さということになるでしょう。その意味で、市場(投資対象)としては十分な質量を有しています。そして、上記に述べたとおり、次は他の運用者・運用会社と当社との比較ということになりますが、細かい点は控えますが、今の当社は他社にはない強みがあります。この十分な市場サイズと当社の他社比相対的優位性が、投資機会にほかなりません。逆に言えば、企業が株主還元を強めようが弱めようが、円安になろうがなるまいが、そんなことは些末なことに他なりません。そうしたことの一つ一つを投資機会と捉えている運用者や運用会社が少なからず存在すると思いますが、その程度のレベルだからこそ、当社に多大な投資機会があると考えています。ちなみに、株は上がったり下がったりするから、ロング・ショートが良いということは子供でもわかることと思います。それなのに今まで、「ロング・ショート戦略=ヘッジファンド=マーケットの攪乱者」と見られ、この戦略が異端視されてきました。しかし、良く考えてみればおわかりの通り、百歩譲ってヘッジファンドがマーケットを攪乱してきたとしても、その問題点は「ロング・ショート戦略」にあるのではなく、あくまでも「運用者」にあるのです。しかるに、当社は日本の運用会社ですし、私は、日本という国や日本企業を愛しています。その気持ちを基礎にして、今後、ロング・ショート戦略のイメージを変えていきたいと思います。
なお、一口に「ロング・ショート戦略」とは言っても、運用者によって、「マーケットニュートラル」「中小型株ロング・大型株ショート」「ロング・バイアス」などの違いが見られます。私は、そのどれかに固執するようなスタイルを完全に否定した形での運用を行っています。それを通じたリターンの向上でも、ロング・ショート戦略のイメージを変えていきたいと思います。
Q3. なぜこの業界で働こうと思われたのでしょうか。
私は銀行員として一通りの銀行業務の経験があり、その後コンサルティング業務の一端を垣間見、ノンバンクの事業も経験しました。その多くの経験の中で、正直なところ、自分のやる気と適性を、企業のクレジット分析・エクイティ分析と・マネジメント分析とか資金運用業務にしか見出せませんでした。それが、この業界で働くことを決めた根本的理由です。加えて、銀行在籍中の人事異動で、自分が最も行きたくなかった部署に配属され、サラリーマンが自分で進路を選べないという悲しい事実を、20代で身体で実感しました。これを契機に、「就社」という多くの日本人の運命から、真の意味での「就職」という方向性に自分を脱皮させましたが、これも私が今、運用業界で働いている重要な背景になっています。
これらを背景に、何度も転職して、まずはアナリストの仕事を得てがむしゃらに働きました。ここで世界中の多くのバイサイドのファンドマネジャーやバイサイドアナリストと出会い、自分の相対的ポジションを確認した上で、運用業界でもやっていけそうだという感覚を持ちました。
その後、駆け出しのファンドマネジャーになった後、何度もつまずきながら、今の仕事に至っています。
Q4. ポートフォリオ・マネジャーとしての信念をお聞かせください。常に心がけていること、あるいは、しないと決めていらっしゃることはありますか。
「勝てないケンカはしない」ことが基本です。加えて、「日本株の運用で、日本人が外国人に負けるはずがない」という強い信念を持っています。この2つをベースに、今の弊社で日本株の運用業務を行っているのは、どの運用業者にも負ける要素はないと考えているからです。ちなみに、運用対象が海外物であれば話は異なります。そのフィールドでは、サッカーや野球を見ても分かる通り、多くの有能なプレイヤーが溢れており、私が勝てる確率は小さくなります。そうした、自分の能力の相対的ポジショニングが必要です。「与えられた仕事を一生懸命やれば道は開ける」という考えは、若いときには妥当しますが、30代の後半を超えてもそんなことを言っているようでは、与えられた仕事がイージーか、自分のポジショニングができていないか、のいずれかを疑う必要があると思います。常に心がけていることは、まず、誰よりも努力し、誰よりも働くことです。ファンドマネジャーでありながら、一週間超の休暇を平然と取る人もいるようですが、このような人に大切なお金を安心して預けられますか?
次に、謙虚であることです。全てのことを、自分が適切に理解できるはずがありません。人間の限界を知ることが、ファンドマネジャーの原点です。
最後に、身体のコンディション維持です。これはなかなかできていませんが、少なくとも睡眠時間だけには気を配り、マーケットに対峙したときに飲み込まれないようにしようと心掛けています。
しない、と決めていることは、「群れない」ことです。若いときにやらなくて本当に良かったと思うことは、好きでもない麻雀やゴルフなどに時間を費やすことです。私は95年に銀行を辞めた後は、ゴルフも麻雀も一度もやったことはありません。自分がすべきだと思ったこと、特に、自分を強化すべきポイントに時間を使ったことが、今の自分につながっています。
ただ、それは、自分の好きなことだけやればいいということではありません。私の最初の勤務先の興銀では、新人時代は先輩の言うことに従わざるをえませんでしたし、マッキンゼー時代には、それまでの考え方を全て捨てろと言われました。それらについては、その時々では、やりたくない気持ちや苦しい気持ちを持つことも多々ありましたが、実際にやってみて、自分の「食わず嫌い」の多さも実感し、その後の職業人生に大きく役立ちました。したがって、「食わず嫌い」もしないようにしています。最近は、自分の好きな曲だけしか聞かないとか、自分がいつどこで何の飯を食ったとかをフェースブックに書いたりするなど、もったいない時間の使い方をしている人が多いように思います。私は、ただでさえ日々多くの有能な経営者やアナリストの方々と話をしているので、人との接触をオフにできるプライベートな時間にまだ人とつながっていたいと思う気持ちはゼロです。朝起きてから夜寝るまでソーシャルメディアに関わっている人は、仕事で不完全燃焼を起こしているとか、ソーシャルメディアを利用しつくしているとの錯覚の下でソーシャルメディア運営会社の思うつぼにはめられているとか、という点を疑うべきです。断言できますが、良い発想は、オンとオフの切り替えなくして生まれません。そうしたソーシャルメディア全盛の風潮に多くの人が嬉々として乗っていることは、私のようなアナログ人間がファンドマネジャーとして生き残れている一つの要素になっていると思います。
Q5. どのようにお客様の資産保全を図るかお聞かせください。
それは、心理的要素と技術的要素の2つに分かれるでしょう。心理的には、「何とかしてお客様の大切な財産を守ろう」という気持ちです。今の当社のように、なかなか運用財産が増えない環境下にあると、お客様が預けて下さることの重みをより実感します。資金調達の苦しみも知らないで、いきなり何十億円、何百億円とかの資産運用を任されるファンドマネジャーが大きな運用業者では圧倒的に多いと思われますが、こうした人たちがどれだけお客様からお預かりするお金の重みを感じているかは疑問です。技術的には、これはノウハウの部分ですし、永遠の課題なので、言及は避けます。ただ、資産運用で極めて重要性が高い分野であると位置づけております。
Q6. 投資に関するお奨めの書籍を1冊ご紹介頂けますでしょうか。
大前研一氏が書いた「企業参謀」。20代の私が、頭の切り替えの必要性を痛烈に感じる契機となりました。Q7. 主に業務に関する情報収集の為に、毎日チェックされている媒体(新聞・雑誌・webサイト等)を教えてください。
他の人とあまり変わらないと思います。ただし、同じ媒体に当たっても、人によって違うのは、情報を取り入れた後の感受性と発想力、つまり情報処理能力です。多くの人が、往々にして情報量のインプットにかまけて、情報処理という格段に重要性が高い部分をないがしろにしています。そして、この情報処理能力こそが、ファンドマネジャーの能力の根幹に当たるものだと思います。そこは、簡単に改善・進化させることができないポイントであり、私が多くの人に負けないポイントと思っています。インタビューは以上になります。
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