株式会社ヴァレックス・パートナーズ
安 治郎氏インタビュー

interviewer:HCアセットマネジメント㈱
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Q1. 御社の投資哲学と追求されている収益源泉について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

Q1.	御社の投資哲学と追求されている収益源泉について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか。
 当社の投資哲学は以下の通りです。
● 絶対リターンを達成するために最も重要なことは、取り返しのつかない損失を避けることである
● 株式市場はおおよそ効率的であるものの、非効率な株価形成も多く見られる。企業の株式はその本源的価値から著しく乖離した水準で取引されることもある
● 優秀な経営者が経営し、他社にはできない、他社とは明確に差別化されている事業を有する企業に、割安な水準で投資を行い、長期的に保有することで、魅力的な利率で資本を成長させることが可能である

 当社は上場企業の株式に投資を行っているため、株価の上昇と配当収入が収益の源泉になります。株価の上昇は、以下の3つに分解することができます。
● 利益成長
● 自社株買いによる発行済み株式数の減少
● マルチプルの拡大
このため、長期的な利益成長が期待でき、自社株買いや配当の支払いといった株主還元を積極的に行っている会社に、将来マルチプル拡大が期待できる割安水準で投資を行います。

Q2. その収益源泉を実現するために、どのような投資プロセスを採用されているのか、ご教示いただけますでしょうか。

 当社はボトムアップのストックピッカーですので、個別企業のリサーチを行い、魅力的な投資先を選出することが投資プロセスの中心となります。

1. 調査銘柄の選定
ニュース記事、M&Aなどのコーポレートアクション、企業経営者との面談、私生活において見聞きし関心を持った企業や業種などから、アナリストやポートフォリオ・マネジャーが調査対象企業を選定します。例えば、犬を飼ったのでペット保険業界を調査してみる、バフェット氏が買収した企業と似た企業が日本にないか探してみるといった具合です。

2. 企業・業界調査
調査対象となる企業が決まった後は、その企業や業界に関する情報を収集します。有報や短信といった企業の公開情報、投資家向けプレゼンテーション、証券会社のリサーチ、経営者のインタビュー記事や動画などを読み込むところからスタートします。ある程度の理解が深まったところで、対象企業のIRチームとの面談を行います。また、IRチームから聞いた話の裏付けを取るため、顧客、競合相手、取引先などとも面談を行います。また、投資する可能性が高い場合は、社長との面談も行います。

3. モデルの構築
調査によって集めた情報をもとに、対象企業の収益モデルを作成します。業界の成長性、市場シェア・競合環境の見通し、提供する商品やサービスの価格の見通し、コスト構造の見通しなどから、対象企業の利益が今後どのように成長するかを予想します。

4. 投資判断
対象企業が長期的に利益成長が期待ができ、現在のバリュエーションも魅力的であり、経営者の能力も高いと判断できる場合には、投資を行います。

 この際に重要なポイントはなぜ長期的な利益成長が市場で理解されていないのか、またなぜ株価が割安なのかを理解することです。例えば大型の設備投資や企業買収を行った結果、短期的に減価償却やのれんの償却で、本来の収益力が財務諸表に表れていないこともあります。また、本業が好調でも、含み資産や多額の現預金などがあり資本効率が低迷していると、その企業の株価は割安なことが多いです。またIPO後、間もない企業などには、事業内容が正確に理解されず適正に評価されていないといったケースが見られます。

 経営者の能力は判断が難しいですが、長期的なリターンに大きな影響を与えるので慎重に評価します。過去の業績推移、重要な意思決定のトラックレコード等をディスカッションすることで判断が可能となることもあります。また、その経営者と過去一緒に働いたことのある人のインタビューなども参考になります。

Q3. ポートフォリオ・マネジャーとして最も重視されていることは何でしょうか。また、常に心がけていることや、逆にしないと決めていらっしゃることがあれば、ぜひお聞かせください。

Q3.	ポートフォリオ・マネジャーとして最も重視されていることは何でしょうか。また、常に心がけていることや、逆にしないと決めていらっしゃることがあれば、ぜひお聞かせください。
 最も重視していることは、なぜ目の前の魅力的な投資機会が存在するのかを理解することです。何の理由もなく素晴らしい企業が割安な水準で取引されていることは稀です。割安の理由が理解できなければ、当社が取るべきリスクなのかどうか判断することができません。

 しないと決めていることは特にありません。リサーチの結果、魅力的であると考えることができ、また割安の理由もはっきりしており、経営者の質も高いと判断できる場合には、今まで投資したことのない業種であっても、積極的に投資を行っていきたいと考えています。

Q4. 日本市場にはどのような投資機会があるとお考えでしょうか。

Q4.	日本市場にはどのような投資機会があるとお考えでしょうか。
 日本市場が相対的に割安であるというのは、世界の投資家の間でも共通の認識です。しかし多くの投資家は日本をアンダーウェイトとしています。人口が減少している日本には成長がなく、多くの企業は正しいキャピタルアロケーションをしていないので、割安が解消されることもないと思われているからです。

 日本には4000社もの上場企業が存在し、その多くは、成長性、キャピタルアロケーションの観点から投資の対象にならない企業かもしれません。しかし、徹底的に探せば魅力的な成長戦略を実行している企業も多く存在しています。また、キャピタルアロケーションに対しても、ロジカルに前向きに取り組んでいる企業も増えてきていると思います。こういった企業の多くは依然割安な水準で取引されており、長期的に魅力的な投資対象であると考えています。

Q5. お客様の資産保全のためにどのような点に留意されているのか、お聞かせいただけますでしょうか。

Q5.	お客様の資産保全のためにどのような点に留意されているのか、お聞かせいただけますでしょうか。
 株式への投資で、資本の毀損が生じる典型的なパターンは、利益の減少とマルチプルの縮小です。特にバランシートの弱い、借り入れの大きい企業でこういった現象が生じると、大きな損失につながります。

 利益の減少も一時的なものであれば、一時的な評価損ということで我慢できます。しかし、根本的に収支構造が変化し、中長期的に考えても利益の回復が見込まれない場合には、損失の回復も期待できません。

 このような損失が組入比率の大きい企業で発生すると、ポートフォリオ全体への影響も大きくなります。

 このようなリスクを避け、資産を保全するためには、割安な水準での投資を徹底し、収支構造が安定している企業に投資することが重要です。また、バランスシート的にも借り入れに極度に依存せず、健全な財務体質を維持している企業に投資することが望まれます。また、ポートフォリオにもある程度の分散が必要です。当社では通常25から35程度の企業に投資を行っております。

 過去の反省としては、損しにくい銘柄は同時に儲かりにくい銘柄であることが多かったです。多額の現金を有する企業はどんな外部ショックがあっても、十分な蓄えがありますから、しばらくは倒産することがありません。しかし、こういった企業は資本効率が悪く、なかなか割安状態が解消しません。そのため投資時点では多額の現金を保有していても、将来的には事業への投資、M&A、株主還元によって資本効率を改善していく意思のある企業を選ぶことが、資産保全と魅力的なリターン達成のためには重要であると考えています。

Q6. 現在と10年前とでは、経営者の考え方や投資環境にどのような変化があったとお考えでしょうか。

Q6.	現在と10年前とでは、経営者の考え方や投資環境にどのような変化があったとお考えでしょうか。
 10年前の2014年というと伊藤レポートが発表となり、スチュワードシップコード、コーポレートガバナンスコードが導入され、東証がROEの高い企業で構成される株価指数の算出を始めるなど、現在につながるコーポレートガバナンス改革の様々な施策がスタートした年でした。当時は、こういった新しい枠組みの長期的なインパクト、企業価値を高める必要性などが正しく理解されておらず、配当性向が3割あれば及第点と考えている経営者が多かったと思います。

 経済・投資環境という意味では、10年前はまだデフレ、ゼロ金利、低成長、円高傾向が継続しており、多くの経営者もどちらかというと守りの経営を行っていたと思います。その結果、株式市場でも安定成長、保守的なバランスシートを有する企業が比較的高く評価されていたと思います。

 それから10年が経ち、様々なコーポレートガバナンス改善の施策が定着してきたと思います。東証によるPBR 1倍割れ企業撲滅キャンペーンも奏功し、資本コストを意識した経営も徐々に広がりつつあるように感じています。

 経済・投資環境も大きく変化しました。デフレからインフレになり、円高から円安になり、金利も復活しつつあります。安定成長、保守的なバランスシートだけでは、株式市場で高く評価されなくなりました。これらの結果、企業経営者は、単に現金をため込むのではなく、より積極的な成長戦略を導入したり、論理的なキャピタルアロケーション、積極的な株主還元を行ったりするようになってきていると思います。

 こういった変化は、今のところ主に大企業の間で見られており、中堅企業では時流の変化をきちんと理解できていない経営者もまだ多いと感じています。そのため、こういった企業ではまだまだ改善の余地も残されていると思います。

Q7. 日本企業の事業価値向上のために、企業が取り組むべきことや、金融業界としてどのような支援ができるとお考えでしょうか。

Q7.	日本企業の事業価値向上のために、企業が取り組むべきことや、金融業界としてどのような支援ができるとお考えでしょうか。
 事業価値が低迷している企業は、成長できない企業、不採算事業を抱えている企業、資本効率の悪い企業が多いと感じています。自社で魅力的な成長戦略を描けないのであれば、そういった企業は成長戦略が描ける企業に買収されるべきです。不採算事業を抱えている企業は、そのような事業から撤退すべきです。余分な資産を持っていて、資本効率が低迷している企業はそういった資産を売却し、余剰資金を株主に還元すべきです。

 やるべきことが明確であるのに実行されていない企業の社長はクビになるべきです。しかし、そうならないのであれば、その会社のガバナンス機能に問題があると考えられます。金融機関の持ち合いが、こういったガバナンスの機能不全をもたらしているのであれば、持ち合い解消はウェルカムです。また、議決権を有するアセットオーナーもより厳しい議決権行使を徹底するべきです。

Q8. 投資に関するおすすめの書籍を1冊ご紹介いただけますでしょうか。書籍の概要・感想・評価についてもご教示いただけますと幸いです。

Q8.	投資に関するおすすめの書籍を1冊ご紹介いただけますでしょうか。書籍の概要・感想・評価についてもご教示いただけますと幸いです。
 最近読んだ本の中では、Brad Jacobsの『How to make a few billion dollars』が興味深かったです。同氏は、Waste Management, United Rentals, XPOの3社の創業者で、M&Aを駆使して、それぞれ数十億ドルの時価総額を有する企業に育て上げました。日本にもM&Aで事業成長を達成したいと言っている企業経営者が沢山いますが、さほどM&Aが実現できていないケースが多いと思います。日本の投資家や経営者にもJacobsさんの存在を知っていただき、ロールアップで企業を成長させる方法、上手くいった場合の株主価値創造のポテンシャルを学んでいただきたいと思います。






インタビューは以上になります。

企業プロフィール

株式会社ヴァレックス・パートナーズ
2006年創業
日本株式に投資を行う独立系投資運用会社
取締役4名(常勤1名、非常勤3名)、従業員8名
運用資産 約1000億円

戦略概要

日本の中堅上場企業の株式に対する長期投資。優秀な経営者が運営する成長事業に割安な水準で投資を行う。主要な投資先企業に対し、建設的・友好的なエンゲージメントを行い、事業成長の加速、割安の解消、企業価値の成長を促す。



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