コムジェスト・アセットマネジメント株式会社
Richard Kaye氏インタビュー

interviewer:HCアセットマネジメント㈱
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Q1. 御社の投資哲学と追求されている収益源泉について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

 投資哲学は、長期的な株価の動きは会社の利益を映すという哲学です。ですので、我々は利益というものを一番重視していて、この会社がどのように利益を生みだし、またその利益を長期的に、持続的に伸ばせるかということを調査するのが私たちの投資手法の基本です。これは、実を言うとそんなに難しいことではないのですが、世の中は必ずしも常に利益にフォーカスしているわけではないのではないかと思っています。特にこの数年は利益はどうでもよく、とにかく安い株価、あるいは、インフレ、物価上昇に左右されるような企業、セクター、業種などのテーマに集中したい投資家が非常に多くいらっしゃるのではないかと思います。我々はそうではなくて、やはり利益。持続的に利益の創出を継続できる力を持つ企業にフォーカスしたいと考えています。そしてユニークな会社ですね。我々は会社というものは、数字の羅列ではなくて、何よりも人間の集まりだと思っていますので、会社のユニークさを調べるにあたってその会社の経営者、その会社の創業者、その会社の一般社員の方々が、どのような意図を持ち、何を考えているかという事を一生懸命に調査・分析して投資をしようしています。その、ユニークな会社が創造する利益、将来の様々な可能性を調べて、投資をするというのが我々がやっていることです。

Q2. その収益源泉を実現するために、どのような投資プロセスを採用されているのか、ご教示いただけますでしょうか。

Q2.	その収益源泉を実現するために、どのような投資プロセスを採用されているのか、ご教示いただけますでしょうか。
 投資プロセスは大きく分けて3つの段階があります。

1. まず、日本で上場している全ての会社をスクリーニングにかけます。スクリーニングはどのようなものかと言いますと、過去の利益成長率が高かった企業、高いクオリティで経営されていた企業を見つけるためのものです。高いクオリティと今申し上げたのですが、これは何かといいますと、資本効率、つまりROICをきちんと保てている会社を見つけるのが我々のスクリーニングの目的です。そのスクリーニングをすると結果的に残るのは日本の上場企業のだいたい10%程になります。

2. 2つ目の段階は、10%の会社というのはだいたい400社なのですが、それらの会社への取材を行ったり、財務諸表を分析するなどの調査を実施し、投資候補となる企業を選びます。これで100社程度になります。

3. 3つ目の段階ですが、その100ぐらいの会社に対して更に詳細な定量、定性分析を行い、5年先までの業績見通しを作ります。そして責任投資の要素が組み込まれたバリュエーションモデルも作ります。我々は配当割引モデル方式によって、その会社のあるべき価値を計算します。そして各会社のいわゆるアップサイドダウンサイドが理論的に出てきますのでそれをベースにポートフォリオを組んでいきます。

Q3. ポートフォリオ・マネジャーとして最も重視されていることは何でしょうか。また、常に心がけていることや、逆にしないと決めていらっしゃることがあれば、ぜひお聞かせください。

 ポートフォリオマネジャーとして最も重視していることは、経営者のクオリティです。先ほど申し上げたように、会社というものは人の集まりだと思っていますので、経営者、経営陣、社員がどのような方々なのか、どのような希望を持っているのか、自分の会社をどの様に理解し、どのような説明をするかを何よりも重視しています。場合によってはキーとなる人物がいなくなることによって会社が大きく変わるケースがありますので、そのような時には会社を売却します。もちろん数字は無視しません。何かの指標に問題が起きた場合は当然調査をしますが、あくまで数字というものはツールに過ぎないと思っています。繰り返し申し上げますが、人への投資というものが我々の投資哲学の根幹となっています。
 余談になりますが、ここ2、3年の間は今申し上げたようなことではなくて、もっとマーケットムーブといいましょうか、マーケットローテーションなどを重視した方がいいのではないか?とよく言われますが、そうするべきではないと我々は思っています。今の株価の動きは先ほども申し上げたように、あまりにも割安株、インフレ関連株に集中しすぎているのではないかと思っています。投資の基本はやはり会社のクオリティ、その会社の人間だと思っていますので、それを重視しています。

Q4. 日本市場にはどのような投資機会があるとお考えでしょうか。

Q4.	日本市場にはどのような投資機会があるとお考えでしょうか。
 日本市場の投資機会は膨大にあります。おそらく日本市場が世界で一番魅力的なマーケットだと思っています。なぜそのような大胆なことが言えるのかといいますと、まず一国の市場規模としてはアメリカや中国に次いで第3位。ですので日本市場の投資機会は膨大にあります。そして第3のマーケットでありながらも調査されてない。調査されていないので評価されてない、そのため非常に安く投資できる優良企業が必然的に多くなっていると思っています。日本企業には高い技術力や代々続いた様々な困難(天災や為替変動、高い税率など)を乗り越えて得た実績などが、多くの企業に蓄積されています。実力のある企業に安く投資できるということで日本市場は世界的に見ても非常に魅力的な市場だと我々は思っています。そのような企業は様々な業界、業種で見つけることができます。半導体業界だけ切り取りますと、日本がおそらく世界トップではないかと思っています。もちろんアームや台湾セミコンダクター、エヌビディアなど世界的に有名な企業はあるのですが、日本の中にはそのような会社に部品や技術を供給する会社が実はたくさんあります。例えば東京エレクトロンですとかディスコ、レーザーテックのような会社がなければ半導体も製造できませんし、エヌビディアのアイデアが形になることもありません。他の様々な業界でも同様なことが言えます。機械業界や自動車、保険業界などでも世界で十分評価されるべき投資機会があると思っています。

Q5. お客様の資産保全のためにどのような点に留意されているのか、お聞かせいただけますでしょうか。

 大切なことは、徹底した企業調査によって、長期的な利益の成長性、将来の価値を生み出し続けられる企業への投資だと思っていまして、あとはそれを適正な価格、株価で投資することだと思っています。その組み合わせで投資を長期的に行うことによって、お客様の資産を長期的に成長もさせられるのではないかと思っています。

Q6. 現在と10年前とでは、経営者の考え方や投資環境にどのような変化があったとお考えでしょうか。

Q6.	現在と10年前とでは、経営者の考え方や投資環境にどのような変化があったとお考えでしょうか。
 経営者の考え方は、ここ数年東京証券取引所の改革の影響で多少は変わってきたのではないかと思っています。取締役会の実効性、株主還元の考え方についてどちらかといいますと、以前よりも前向きな姿勢になってきたのではないかと思っています。情報開示も英語での開示を含めて全体的に以前よりも拡充されてきているのではないでしょうか。
 その上で、これは少し言いにくいことなのですが、あえて言いますと、これは、表面的な変化で止まる可能性もあるのではないかと心配に思っています。今申し上げたこの東証の改革というものはあまり深い影響をもたらさないリスクもあると思っています。本質的に変わる会社は自発的な力で変わる会社が多いのではないかと考えています。真に改革を進める企業は、東京証券取引所や政府などから言われなくても自発的に変わるのではないかと思っているのです。我々が投資する会社は自ら変わろうとしている会社です。
 日立製作所が代表的な事例なのですが、この8年の間、多くの事業を売却・縮小し、2つの強い事業、グリーンエネルギー関連分野と、デジタル化関連分野に集中しました。これは日立製作所が自ら変わろうとしたことによる変化なのです。彼らは自ら改革を実行し、決して東証や政府からの指図によって変わったわけではなかったのです。
 そのような自発的な変化は信じられるものだと思っています。東証から言われなくても、自ら良くしようとしている会社。東証から言われて、ちょっと数字だけ良くしようという変化は表面的な変化で、必ずしも長期投資の対象にならないかもしれないということで、注意をしたいと思います。

Q7. 日本企業の事業価値向上のために、企業が取り組むべきことや、金融業界としてどのような支援ができるとお考えでしょうか。

 最も大切なことは、長期的な投資家を見つけ、その投資家にきちんと理解してもらうことだと思っています。
 先ほどのご質問の回答と少し関わりますが、事業会社がいわゆる表面的な開示の仕方を変えることによって投資家の興味を引くんですね。でも、私はどちらかというとそのような表面的な変化に反応する投資家は短期的な投資家だと思っています。開示の仕方を変えることによって、投資をする。そろそろ変化が起こるんじゃないかということで投資をする。そうではなく、重要なことはその企業が本質的に改革や成長に向けた取り組みを実行しているかです。開示や表面的な変化は長期的なその事業会社の価値向上にはなりません。表面的な変化は投資家のためにもならないし、投資家の最終的なお客様のためにもならないと思っています。

 長期投資の実践にあたってはやはり互いに理解が深まるような対話が必要だと思っていまして、日本企業の長期的な事業価値向上にはそれが必要だと思っています。そのためには、事業会社の方々が自分たちの事業や長期的な戦略について我々のような長期投資家に時間をかけて説明して頂きたいと思っています。
 一つの事例を簡単に言いますと、ファナックという会社は8年前から我々に工場見学を数回させてくださっています。そして取締役の方との対話にも時間をくださって、その会社の現状と長期的な戦略、その会社のリーダーたちが考えている事を紹介してくださっているんですね。それは非常に我々の理解を深めることになります。それらは説明会や決算資料などで読めるようなものよりもよっぽど有意義なものです。

Q8. 投資に関するおすすめの書籍を1冊ご紹介いただけますでしょうか。

Q8.	投資に関するおすすめの書籍を1冊ご紹介いただけますでしょうか。
 色々とあるのですが、一番好きなのはスタンリー・ドラッケンミラー氏です。
 彼は色々とYouTubeに出たりしていますが何よりも自分の失敗を見積もるんですね。「投資家はいつも間違える可能性があるんだ」と。「その失敗から学ぶ。とにかく良くしよう、良くなろうとする努力が必要ある」と。彼は必ずしも我々が目指しているグロース投資、利益成長を抽出する投資ではなく、様々なスタイルを試してます。ただし、失敗することによって非常に素晴らしい成績を出すことのコツを得ているんですね、そのような話をたくさんしていて、今はそれが一番おすすめなのかなと思います。






インタビューは以上になります。

企業プロフィール

 コムジェストは1985年にパリに設立された独立系の資産運用会社です。現在、パリ、ダブリン、香港、東京、シンガポール、ボストン等に拠点があります。運用における最大の特徴は質の高い成長企業に長期的な投資をすることです。コムジェストはそのサービスを世界中の長期投資家に提供しております。コムジェストでは企業の収益力こそが優れた株価リターンの源泉だと確信しています。市場平均以上のEPS(一株当たりの利益)成長を長期的に持続できる優れた企業をボトムアップの調査によって発掘することによって、付加価値を創出できると信じています。その投資哲学の中核をなすのは、企業のファンダメンタル調査に対しての確固たる信念と長期にわたり企業や業界関係者との間に築いてきた経験豊富なチームの能力です。

戦略

 安定した利益成長を長期的に持続できる日本のクオリティグロース企業に妥当な株価水準で投資します。徹底的な企業調査に基づいて、確信度が高い30-40銘柄を厳選し、集中型ポートフォリオを構築。コムジェストの他の地域別チームとの連携により海外の競争相手、取引先、そして市場動向なども探ります。当戦略の投資対象銘柄は基本的に時価総額10億米ドル以上の上場株式になります。ユニバースに組入れられるクオリティグロース企業の基準は、EPS成長率年率10%以上か、ROE15%以上か、キャッシュフローが潤沢か、競合比で高い利益率かといった定量的基準や、景気に左右されにくく、安定的な成長が可能なビジネスモデルか、参入障壁を築いているか、といった定性的基準を満たしている企業で、且つ5年先の利益予想が可能な銘柄になります。5年先のEPSを予想するにあたって、経営者、競合、サプライヤー、顧客、そして業界のスペシャリストなどとミーティングを重ね、多角的な情報収集をします。そしてチームでのディスカッションを重ね、チームメンバー全員の合議によってユニバースに入れるかどうかを判断しています。



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