トパーズ・キャピタル株式会社
新村 健氏インタビュー

interviewer:HCアセットマネジメント㈱ photographs:佐藤亘
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Q1. 御社の投資哲学と追求されている収益源泉について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか。 

Q1.	御社の投資哲学と追求されている収益源泉について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか。 
 弊社は国内の機関投資家の皆様に国内貸付債権を裏付けとするミドルリスク・ミドルリターンの安定したインカムアセットへの投資機会を提供することを目的に、オルタナティブ投資における本邦初のアセットクラスとなる「プライベート・クレジット」の運用を行っております。投資哲学においては、徹底した保全の手当、モニタリングにより元本毀損リスクを排除すること、グロスIRRの目線を6~8%程度に設定することとしています。プライベート・クレジットは投資先の経営権を取得して投資元本の数倍のリターンを目指すプライベート・エクイティとは異なり、あくまでも貸手の立場から企業の業績をきめ細かくモニタリングし、担保の徴求、コベナンツ条項等による牽制機能に基づくデット・ガバナンスによる安定した元本回収と金利の回収を目的としています。従って収益性が低く高い成長が見込めないことを理由にPEファンドや再生ファンドからの資金調達に支障を来している中堅・中小企業に対しても、弊社ではこの目的達成が見込める限りリスクマネーを提供します。
 社会環境や産業構造の変化に伴い、企業の資金ニーズやローンの案件種類は多様化しています。また融資実行までのスピード感も求められるケースが増えています。さらに融資の保全対象となる担保も動産、株式、知財権など多種にわたってきており、伝統的な貸し手である銀行が積極的に対応しないローン案件は増加しています。プライベート・クレジットはこのような状況下で生まれる融資機会を丁寧に発掘し、貸し手不在による需給ギャップやコンパクトなプロ集団だから可能になる迅速な投資判断を梃に、クレジットスプレッド以上の超過リターンを捕捉し収益性を確保しています。

Q2. その収益源泉を実現するために、どのような投資プロセスを採用されているのか、ご教示いただけますでしょうか。

Q2.	その収益源泉を実現するために、どのような投資プロセスを採用されているのか、ご教示いただけますでしょうか。
 投資プロセスですが、まず案件のソーシングは大きく二つのルートに分かれます。一つはメガ銀行や地域金融機関の審査部門からの照会ルートで、もう一つはフィナンシャル・スポンサーやコンサルティング会社、再生弁護士等の銀行以外のルートです。こうしたルートから照会された多数の案件それぞれについて、まず投融資グループが、回収の蓋然性(収益償還、銀行によるリファイナンスの可能性、等)と保全の有無の観点からスクリーニング作業を行い、これらをクリアした案件についてバックグラウンドチェック(公序良俗に反する事業を行っていないか?反社会的勢力等に該当しないこと等の確認)の調査を実施します。これらの一次スクリーニングを通過した投資候補案件は、次に部門長に付議され、部門長の決裁を得た投資候補案件のみが、実費が発生するデューデリジェンス段階へ進むことになります。
 デューデリジェンス段階では、債務者面談、決算書等の詳細分析、担保実査および価値算定、業界マーケット調査等、社外リソースも活用して、投資の可否につき検証します。その結果、投融資グループが投資すべきと判断した投資候補案件は、独立した審査部門が再度検証し、最終的に審査部門の決裁を経た投資候補案件のみが投資委員会に付議されることになります。投資委員会での可決は投資委員メンバー全員による賛同が前提となります。

Q3. ポートフォリオ・マネジャーとして最も重視されていることは何でしょうか。また、常に心がけていることや、逆にしないと決めていらっしゃることがあれば、ぜひお聞かせください。

Q3.	ポートフォリオ・マネジャーとして最も重視されていることは何でしょうか。また、常に心がけていることや、逆にしないと決めていらっしゃることがあれば、ぜひお聞かせください。
 規律(Discipline)、倫理(Ethics)、透明性(Transparency)、専門性(Expertise)、責任(Accountability)を常に持つということでしょうか。投資家の皆様にきちんと運用成果を出すという「責任」をしっかり自覚しつつも、自分達の投資戦略、能力に適した案件を厳密に選別して投資を行っていくという高い「規律」と「倫理」感を持ち続けることが何よりも大事だと考えています。またそのような我々の行動を投資家にきちんと評価して頂く上で業務のあらゆる場面での「透明性」は欠かせません。例えば一つの例として弊社ではLP投資家に投資委員会にオブザーバーとして参加して頂くシステムを導入しています。もちろん最終的な投資判断はGPである投資委員メンバーが行うのですが、案件背景、リスクの所在及び対応など、どのような議論・判断に基づいて投資を実行するのか共有しています。LP投資家から意見を頂くこともあり、時には「融資すべきなのか否か」について緊張感のある議論がGP、LP間で持たれることもあります。ちなみに弊社の社名「トパーズ」は誠実という石言葉の意味を持っていますが、「誠実」であり続けるというのも我々にとっては大きな信念です。
 もう一つ重要だと認識しているのが専門性です。プライベート・クレジット戦略を投資の中核におく以上、我々は希少なプライベート融資案件・クレジット投資案件を発掘・ソーシングし、回収蓋然性を限りなく高めるプロ集団でありたいと願っています。その為には各自が銀行規制、銀行の融資行動、担保・保全、債権回収実務の分野で高度な専門知識を持ち続けることが不可欠で、日々勉強を欠かさないことが大事だと思っています。

Q4. 日本市場にはどのような投資機会があるとお考えでしょうか。

Q4.	日本市場にはどのような投資機会があるとお考えでしょうか。
 幾つか挙げられますが、まず第一に、短・中期的には銀行融資を補完する中堅・中小企業に対する再生ファイナンスの機会があります。コロナ禍における緊急支援によって、一時的に中堅・中小企業の倒産件数は低く抑えれていますが、これから「ゼロゼロ融資」のエグジットを迎える局面で、業績回復が追い付かない企業については、たとえメイン銀行であっても追加融資が困難な状況が多くなると思われ、その状況下で一時的な資金繰りを支援するプライベート・クレジットの役割は増大すると考えています。
 第二は、LBOローンの分野です。日本企業がROE向上を経営の重点課題としてとらえ、事業の選択と集中を加速する流れに加えて、事業承継に絡むM&A案件も増加し、日本でのプライベート・エクイティによる投資は一層活発化しています。プライベート・エクイティはレバレッジを積極的に活用しますので、結果的にプライベート・クレジットの融資機会も増大します。加えて、銀行は大型のM&A案件によりフォーカスする傾向にあるので、特に中堅企業を対象とするLBOローン案件におけるプライベート・クレジットの融資機会は、メザニンのみならずシニア・ローンでも増加してくると考えています。
 三つ目の領域は、不動産ファイナンスです。金利が上昇局面にある中、不動産市況の動向については注視する必要がありますが、相対的に金利が依然として低いことやインバウンド需要などの要因を背景に、日本における不動産売買は活発です。銀行が保守的なLTVをベースに融資を行うため借り手が必要とする必要額に至らないケースや、融資判断までのスピードが追い付かないケースなどにおいて、貸し手と借り手のギャップを埋める手段としてプライベート・クレジットのファイナンスが増えています。
 また欧米では既に注目されていますが、分散された金銭債権プールを裏付けとする証券化案件のメザニン投資や、今後は銀行の貸出資産の証券化案件などに対するプライベート・クレジットの投資機会も今後日本でも出てくるのではないかと考えています。

Q5. お客様の資産保全のためにどのような点に留意されているのか、お聞かせいただけますでしょうか。

Q5.	お客様の資産保全のためにどのような点に留意されているのか、お聞かせいただけますでしょうか。
 プライベート・クレジットは確実な元本回収が何よりも重要です。従ってまずは投資判断を行う際に、期中返済および最終回収を見据えたデューデリジェンスを徹底しています。具体的には、債務者の将来キャッシュフロー・資金繰り・担保価値等を精査することに尽きますが、必要に応じて不動産鑑定評価書等の外部評価を取得し、投資判断の客観性について特に留意しています。また弊社ファンドのLP投資家には不動産アセットマネジメント会社や不動産プロパティマネジメント会社、さらには動産担保融資分野の雄であるゴードン・ブラザーズ・ジャパンがいらっしゃるのですが、例えば担保となる動産や不動産の処分価値についてはこうしたLP投資家の意見もお聞きしています。
 それでも将来の元本回収の不確実性を完全に排除できることは不可能ですので、回収の蓋然性を可能な限り高めるべく貸出期間中のモニタリング強化を徹底しています。即ち、債務者の営業状況を随時把握すべく、少なくとも月に1回以上、経営者との面談を設定し、資金繰り・損益の状況等を確認します。また、事業・資産等の毀損を最小限にとどめるべく、貸付契約書上の手当てとしてコベナンツ等を予め設定し、コベナンツ事項と実績との差異を把握することにより、有事において早期に回収活動を開始できる体制を整えています。
 但し、担保権行使による債権回収については、まずメイン銀行等の意向を確認して慎重に判断し、金融機関が企業を支援する姿勢を有しているにも関わらず、経済合理性だけで弊社の判断で権利行使をすることは想定していません。

Q6. 現在と10年前とでは、経営者の考え方や投資環境にどのような変化があったとお考えでしょうか。

Q6.	現在と10年前とでは、経営者の考え方や投資環境にどのような変化があったとお考えでしょうか。
 弊社が2012年に日本で初めてプライベート・クレジットを立ち上げたときは、超低金利環境の中で運用難に直面していた日本の機関投資家に安定したミドルリターンの運用機会を提供することが一番大きな課題でした。ミドルリターンを得られる円建てのクレジット投資機会へのアクセスがほとんどなかった投資家に対して国内のプライベート・クレジットという新しいオルタナティブ投資機会を新たに創ったことは大きな意義があったと思っています。現在では3号ファンドを立ち上げより多くの国内機関投資家に参加頂けることになりましたが、円建てで為替リスクがなく、伝統的資産との相関性が低くマーケット・ニュートラルな、ミドルリスク・ミドルリターンの商品性は引き続き日本の投資家にとって貴重なオルタナティブ投資の一つであることには変わりなく、今でも弊社の運用戦略には大きな変化はありません。
 しかしながらコロナ禍、ウクライナ戦争などを経て、グローバルなインフレ圧力、それに対応する中央銀行による利上げにより金融市場の環境は10年前と大きく変わったことも事実です。国内においても日銀の金融政策変更によっていよいよ「金利がある世界」に入り、投資家が債券運用に回帰していく動きも出てきています。
 今後は弊社としては、こうした金融環境の中だからこそ、プライベート・アセット投資がポートフォリオ資産運用戦略の中で投資家にとって一層重要になること、その中でも『なぜプライベート・クレジットなのか?』ということを、丁寧に訴求していくことが必要であると考えています。
 運用面においては、今後は企業のキャッシュフローや資産価格にストレスがかかってくるので、融資判断におけるより徹底した審査が重要になってくると注意しています。

Q7. 日本企業の事業価値向上のために、企業が取り組むべきことや、金融業界としてどのような支援ができるとお考えでしょうか。

 弊社はプライベート・エクイティや事業再生ファンドとはことなり、ハンズオンで対象企業の事業価値・企業価値向上をお手伝いすることはないのですが、プライベート・クレジットはデット・ガバナンスを通じて対象企業の成長や再生を支援することが可能だと考えています。
 特に日本の中堅・中小企業の場合には、地域の問題や業界構造の要因で、経営権をコントロールすることで事業を変革し企業価値をあげることは容易ではないケースがあり、むしろ、経営権は現経営陣に引き続きもってもらい、貸し手はリスクをとって融資を行い、経営者は約束を守って元本を返済するという双方の緊張感があるコミットに基づくエンゲージメントによって会社を強くすることができると思います。

Q8. 投資に関するおすすめの書籍を1冊ご紹介いただけますでしょうか。書籍の概要・感想・評価についてもご教示いただけますと幸いです。

Q8.	投資に関するおすすめの書籍を1冊ご紹介いただけますでしょうか。書籍の概要・感想・評価についてもご教示いただけますと幸いです。
 グローバル・プライベート投資ファンドのブラックストーンを書いた『ブラックストーン』は、会社を創業するときから常にバイブルとして読んでいる書籍です。今では世界経済に多大な影響を有しているブラックストーンですが、当社がゼロからファンドを立ち上げ現在に至るまでの成功や苦労を具体例で知ることができ、プライベート・アセット資産運用業に携わる人にとってはとても刺激になる一冊だと思います。
 特にブラックストーンが投資家の運用ニーズと投資サイドのマーケット環境変化を機動的にとらえ、プライベート・エクイティにとどまらず不動産、クレジットなどへ事業の対象領域を拡大していくダイナミズムは、日本のこれからのプライベート・アセット資産運用事業を考えるうえで、今でも時々読み返して参考になっています。







インタビューは以上になります。



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