7/17開催 HC資産運用セミナーvol.007 セミナーレポート

HCセミナー
今回のセミナーでは、実物資産投資への関心の高まりを受け、企業ファイナンスの多様化とも関連付けながら、実物資産投資の意義を検討しました。

◆今回のセミナーのまとめ◆

5つのキーワードで、今回のセミナーの内容をまとめてみました。

◆企業の事業リスクの分解

企業バランスシート上の事業資産は、証券化やファンド化などの金融工学的手法により企業本体から分離することができます。そのようにして切り離された各資産は、実物資産ファンド等として、個別の独立した投資対象になります。

◆事業者リスクからの独立

企業の発行する株式に投資するということは、実物資産リスクに合わせて事業者固有の経営リスクを全面的に負担することになります。しかし、実物資産ファンド等を作ることにより、実物資産リスクを独立させると、事業者リスクを限定的な範囲にとどめることができます。

◆代替的ファイナンス(企業の資金調達)

企業の資金調達には、伝統的な債務の負担と資本の調達という方法のほかに、代替的方法として、資産の売却があります。資産の売却には、単純な売却のほかに、流動化、アセット・ベースト・レンディングなどの方法があります。実物資産関連の投資対象は、この資産の売却という代替的ファイナンスの結果として生まれるものです。

◆オペレーショナルなリスク

実物資産関連の投資対象のリターンとリスクは、必ずしも実物資産価格に連動するものではありません。例えば、原油・天然ガスなどのパイプラインの収益は、原油やガスの価格にではなくパイプラインを通る原油やガスの量にリンクしています。不動産収益物件の投資価値は、不動産価格そのものではなく、賃料の変動にリンクしています。実物資産は、価格変動の大きさからすると、投資対象としてはリスクが高すぎます。しかし、実物資産関連の投資対象は、価格変動そのものにではなく、実物資産の利用から生まれるキャッシュフローに投資をしているのです。

◆収益源泉として時間

実物資産ファンド等は、「利用・回収までに時間がかかる資産へ投資をするための資金調達の手段」として有効です。逆にいえば、時間のリスクが大きすぎて、伝統的な資金調達方法では無理があるものが、ファンドに適しているわけです。森林資源ファンドが、実物資産ファンドの代表といわれるのは、森林の育成には、あまりにも時間がかかるからです。

◆Q&A ?セミナー会場にて、寄せられたご質問をご紹介します。?◆

Q1:タレントや映画に投資するといった実物資産ファンドも可能で、かつ収益を挙げ得るのですか?

A1:知財コンテンツ・ファンドとして、一般論としては否定できません。例えばゲーム開発企業が新しいゲームを開発する場合に、収益化している既存のゲームの権利を売却・流動化して、次のゲーム開発の資金を調達することが考えられます。ただし、資産の技術的リスクの評価が開発企業以外には難しく、事業者リスクからの分断には限界があるのではないでしょうか。

Q2:実物資産には、インフレヘッジ資産としての金地金も考えられますか?

A:資産運用としての投資対象になるかどうかは、キャッシュフローを生むかどうかにかかっています。金地金は、何らかの債務に裏付けされているわけではなく、キャッシュフローも生みません。この意味で同じ不動産でも、更地は、キャッシュフローを生まないため、投資対象にはなり得ません。絵画も、そのものは、投資対象にはなりにくいですが、美術館に絵画を貸出す仕組みなどによりキャッシュフローを生み出せれば、投資対象となり得るかもしれません。

Q3:キャッシュフローを生まないということであれば、商品ファンドにも投資できないのですか?

A:商品先物が投資適格かどうかの判断については、キャッシュフローの論点だけでは、無理があります。キャッシュフローは経済システムの安定性を前提にしているのに対し、金や商品先物への投資は、経済システムそのものに対するヘッジとも考えられます。実際、信用不安に対するヘッジとして、商品先物が有効なのは、よく知られています。

Q4:資料にある農林水産業ファンドについて大いに関心を持ちました。実際にリターンはどの程度なのでしょうか?

A:実物資産ファンドについては、株式ほどのリターンは出ないと考えていただければと思います。実物資産ファンドは基本的に融資等の伝統金融手法の変形ですから、債券と株式の中間ぐらいのイメージでいいと思います。

今回のセミナーには、年金基金から7名・金融法人から16名・その他1名の計24名の方々にご参加頂きました。

次回、第8回HC資産運用セミナー「資本市場の構造変化と新しい投資領域の拡大?資産を使った企業の資金調達と資本構造の多様化?」は、8月21日(木)です。

是非とも皆様のご参加をお待ちしております!




※当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。