10/16開催 HC資産運用セミナーvol.010 セミナーレポート

HCセミナー

◆セミナーのまとめ◆

今回は6つのキーワードで、セミナーの内容をまとめてみました。

◆企業の資金繰りに対する資金供与
事業の立ち上げ時期に限らず、どんな企業でも、投資と回収の時期のずれは生じます。一番簡単な例でいうと、商品の仕入れ代金の支払いが先行して、商品の販売代金の回収が後になるわけですから、その時間のずれについて資金が必要です。資金は、手持ちの現金があれば、それで賄うこともできますが、現金が不足すれば、銀行等からの借り入れが必要です。その際に支払う「金利」とは、資金の投資と回収の時間のずれに対応するコストなのであって、投資における基本中の基本の収益源泉です。

◆不確実性と時間
十分に長い業歴があって商権が確立している企業においては、恒常的に発生する投資と回収の資金ギャップに対して資金供与することの安全性は、比較的に高いと思われます。安全性が高いということのより具体的な意味は、投資と回収の間の平均的期間が短いということ・回収に関する不確実性が低いということになります。一般に、時間が短く不確実性が低いほど、安全性が高いので金利も低く、時間が長く不確実性が大きいほど、安全性が低く金利が高くなります。つまり、投資収益は時間と不確実性の関数なのですが、不確実性自体も時間が長くなればなるほど大きくなるでしょうから、ここでも時間が重要な要素になっています。

◆不確実性に応じた投資形態
銀行の機能の本質というのは、常に問い直されている極めて難しい問題です。その本来業務の一つが、企業の短期的な資金ギャップに対する信用の補完にあることは間違いないと思います。しかし、時間の長い信用供与や、回収に関する不確実性の高い案件に対する信用供与についても、銀行の本来業務であるかどうかについては様々な議論があります。現在、そのような分野は、「投資」という別な機能と考えられていると思われます。そして、投資の方法としては、融資ではなく、社債や株式が利用されるのが普通です。

◆期間(もしくは期限)の利益
融資や社債のような債務には利払いと元本償還の期限があります。債務を履行できないときは、債務者は期限の利益を失ってしまいます。つまり、債権者は、抵当権等を行使して即時に回収できることになります。こうなると、継続(ゴーイング・コンサーン)を前提とした事業価値は一気に清算価値に変わってしまいます。一方、株式には期限がないので、そもそも期限の利益が失われることはありません。つまり、不確実性の高いときには、株式を使うのが理にかなうということです。

◆事業創出における初期資本の額と時間の関係
もっとも不確実性が大きいのは、事業創出です。どんな事業でもその創出の原点においては、売上げゼロです。しかし、コストは原点からかかります。事業が立ち上がり、コストと売上げが一致する時点までに必要な資金総量が、その事業創出のための所要資本、すなわち初期資本です。その所要資本の額の算出において、最も重要な要因は、いうまでもなくコストと売上げが一致する時点までの「時間」です。資本とは、ある意味、時間が累積費用という形で金銭化したものです。もちろん、このように不確実性の高い初期資本は、株式でまかなうのが常識です。そこに、ベンチャー・キャピタルの社会的機能があるのは、いうまでもありません。

◆不確実性の管理と投資機会の創出
不確実性は管理できます。製品が売れるかどうかは基本的な不確実性です。しかし、将来時点から出荷が始まる製品について、事前に購買者との間で買取の合意があれば、不確実性は小さくなります。長期に及ぶプラント建設でも、稼動後の製品の流れについて何らかの合意を結ぶことで、不確実性の小さい融資形態にも持ちこめます。時間の経過とともに価値が上昇する蓋然性の高い製品の製造についても、様々な投資形態を創造することができます。投資とは、時間に関するリスクを管理しつつ収益化することに他なりません。

from HCの2008年08月07日掲載のコラム「時間と金利と農林水産業ファンド」も合わせてご覧ください。

◆Q&A ?セミナー会場にて、寄せられたご質問をご紹介します。?◆

Q1
J-REIT株価の大幅な下落については、確かに債務の借り換えが困難になっているというキャピタル・ストラクチャ上の問題が大きいとは思いますが、一方で、ガバナンスやスポンサー企業との利益相反の可能性などに投資家の不信を招く要素のあったことも、背景にあるのではないでしょうか。

A1
その通りだと思います。ガバナンスの抜本的改善については、株主としての積極的な行動が一番有効です。その意味で注目されるのが、スポンサーが破綻した投資法人の事例です。ここでは、米国の投資ファンドが資本の注入を行って債務の危機を乗り切っただけでなく、大株主として積極的に経営に関与して、マネジメントの刷新を行っています。将来的には、この投資ファンドは、マネジメント力によって社会的信用と資金調達力を回復し、拡大的な投資法人の成長によって、投資回収を行うものと見られています。このように財務問題とガバナンスの両方の改善する方法は、他の一般投資家の利益にもなると思われます。

Q2
現在は、企業の借り入れ負担が重石となって、株式に負荷がかり、株価に下落圧力がかかりやすい状況だと理解しました。株価が下落すると、年金基金は、基本方針に定めた株式の組み入れ比率を維持するために、リバランスの買い増しをすることになるのですが、このような状況の中でも、やはりリバランスをするべきでしょうか。

A2
年金基金の一般論としての解答はありません。下落過程が続けば、リバランスによって損失を拡大させることになります。損失が一定限度を超えれば、企業会計へ重大な影響を与えるだけでなく、掛け金拠出の引き上げが避けられなくなります。極端な場合は、制度維持自体に疑念がでてしまいます。どの年金基金にも、超えることのできない損失額の限度があります。下落過程が継続する中でリバランスをすることは、その限度に抵触する可能性を高めてしまいます。許容できる損失限度額が大きく設定されている年金基金は、リバランスするべきでしょう。しかし、許容できる損失限度の小さい基金の場合、上昇に転じた場合の機会利益を放棄することになってもリバランスはすべきでないと思います。

次回、第11回HC資産運用セミナー「プライベート・エクイティ?プライベート(非公開)ということのリスクとメリット?」は、11月20日(木)です。皆様のご参加を是非ともお待ちしております!

※当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。