2011/10/14開催 HC資産運用セミナーvol.046 セミナーレポート

HCセミナー
今回のセミナーには、総勢18名の方々にご参加頂き、誠にありがとうございました。

資産とはキャッシュフローを生むもの
資産の前提となるのは、キャッシュフローを生み出す事業の仕組みです。有価証券や不動産などという具体的な資産は、その生み出された事業キャッシュフローの分配を受け取る権利のことです。投資は、「事業」への投資であって、「証券」への投資は、投資の便法です。

資産はキャッシュフローを受取る法律上の権利
例えば、不動産自体が投資対象なのではなくて、不動産が生み出す賃料収入が投資対象なのです。不動産の所有は、賃料収入を受け取る権利についての、法律上の対抗要件にすぎません。ですから、土地(上に何もない更地)は、投資対象ではないことになります。同様に、債券(債権)は、利息と元本償還金を受け取る権利、株式は、配当と清算時の残余財産を受け取る権利です。

投資対象を作り出す仕組み
土地そのものは投資対象になりません。しかし、土地からキャッシュフローを生み出す仕組みを導入すれば、投資対象化できます。例えば、土地を定期借地権化すればいいのです。このとき、投資対象は、土地というよりも、定期借地権という権利から生まれる地代です。同様な工夫で、様々なものが投資対象化されています。例えば、森林、鉱山、などなどです。

資本構成(キャピタルストラクチャ)
資本構成というのは、キャッシュフローを受け取る権利の優先劣後関係のことです。資産の名称は、資本構成上の地位を表示します。債権と呼ばれるものは最上位(優先)、株式とよばれるものは最下位(劣後)です。

キャッシュフローを稼ぎ出す力が上昇すれば、価値(=価格)は上昇する
企業の本来的な収益力が改善し、結果として将来配当の期待値が大きくなるならば、株価は上昇するでしょう。ビルを改修しテナント政策に工夫をこらせば、賃料収入は増え、ビル価格は上昇するでしょう。価格の上昇は、価値の上昇の結果であり、価値の上昇は、キャッシュフローを稼ぎ出す力の上昇の結果です。

資産運用の課題は、資産の持つ本来的なキャッシュフロー創出力を高めること

資産運用とは、資産の配分を工夫し、また各資産の中での収益性改善努力を通じて、資産から生まれるキャッシュフローの期待収入額を増やすことです。これが、投資の基本です。基本中の基本です。

キャッシュフローの量と質(安定性)
キャッシュフロー創出力には、二つの側面があります。キャッシュフローの量と質(安定性)です。質は予測可能性のことです。合理的に将来キャッシュフローを推計できる程度が、高ければ高いほど、資産の価値は高いのです。

創出力を高める三つの方法
原理的に、キャッシュフロー創出力を高めるには、三つの方向があります。第一に、事業の適時適切な選択と配分、第二に、事業キャッシュフローの質と量を高めるための積極的な関与、第三に、キャッシュフロー分配の権利に関する優先順位(資本構成)の最適な選択、この三つです。

事業の選択
伝統的な考え方では、事業の選択は、銘柄選択(および、一部資産配分)の問題となります。ある事業に投資するという判断が先にあり、その後で、その事業の資本構成の選択(例えば、株式か社債か)がくるのか、伝統的資産選択(株式か社債か)が先にあって、その後で、どの事業に投資するのかという伝統的銘柄選択がくるのか、どちらが素直でしょうか。事業選択を捨象した「インデクス運用」は、どうしたら正当化されるでしょうか。

投資対象への積極的な関与
伝統的な考え方では、投資対象への積極的関与は、バリューアップ(不動産、プライベートエクイティ、アクティビズムなどにみられるもの)の問題となります。資本市場での売買を通じたリスク管理と、プライベートな関係性の中でのリスク管理と、どちらが有効でしょうか(11月9日の月例セミナ「非流動資産への投資の魅力」のテーマです)。

資本構成の選択
伝統的な考え方では、資本構成の選択は、資産配分の一部の問題です。最も劣後している株式に投資できる条件を徹底的に見極めないで、なぜ、株式投資ができるのでしょうか。

ポートフォリオ構築の方法論
資産配分の問題以前に、資産定義と資産選択という基本問題が先行しなければ、おかしなことになります。キャッシュフロー創出力を高めるという視点は、この基本的論点を整理するために、提供したものです。大雑把にいえば、キャッシュフローの、質の視点で資産定義し、量の視点で資産選択する、ということになるのではないでしょうか。

管理体制のあり方
伝統的な四資産配分(といわゆる「オルタナティブ」)を用いた管理体制には、その枠の中での改善余地よりも、枠自体を変えることによる改善余地のほうが、もはや大きいのではないでしょうか。

保守主義の原則
キャッシュフローに着目した投資戦略は、結果として、時価増殖よりも現金回収(現金回収とは、キャッシュの戻り=リターンであり、リターンの本来の意味です)を重視したものになります。つまり、「掌に載った現金」という最も確実なものに判断の基礎を置く保守主義に帰結します。

企業の論理に忠実な資産運用
キャッシュフローの創出力を高める努力は、全ての企業に共通する課題です。故に、キャッシュフローの創出力を高める努力としての資産運用の考え方を理解できない経営者はいないはずです。企業年金の資産運用を経営の言語で語ることができて初めて、企業年金は、経営の中における確かな位置づけを得ることができるのだと思います。


次回、2011年 第11回HC資産運用セミナーは『非流動資産への投資の魅力~市場型リスク管理の限界とプライベートな関係性の中でのリスク管理~』です。
是非とも皆様のご参加をお待ちしております。

なお、本セミナーで実施致しました「セミナーテーマに関するアンケート」の結果に関しましては、
HCセミナー・アンケートレポート」にて公表予定です。