2012/3/14開催 HC資産運用セミナーvol.051 セミナーレポート
HCセミナー
《 セミナーのまとめ 》
資本構成(キャピタルストラクチャ)の理論
企業金融の理論は、資本構成の理論です。最適な資本構成というのは、資本構成上の最上位にある債務(融資や社債)を、その下部構造(メザニンや株式)との関係で、最も効率的な比率に保つことをいうのです。また、必要に応じて、上部構造の債務のなかや、下部構造のなかに、更に優先順位の異なる種類を作ることも意味します。
クレジット投資
企業や事業の資本構成上の上位(債権と債券)に対する投資の全体を、クレジット投資と呼んでおきます。クレジット投資は、資本構成上位のなかの優先順位の異なる多様なものの全体を含みます。いわば、信用供与の仕組みの全体が、クレジット投資の機会です。
企業金融の王道としての投融資
日本の金融の伝統の一つ、まさに、日本の奇跡の高度経済成長を支えた仕組みに、投融資という考え方があります。投融資というのは、資本構成の全体を、企業の実情に合わせた最適な形で面倒見ようという、企業金融の王道的思想なのです。
金融の制度的分業と王道的投融資の狭間
銀行等の融資と、融資以外の資金供与の間に、金融制度的に明確な区分が設けられています。しかし、企業金融の全体からすれば、融資も、融資以外の方法も、資本構成上の位置の差にしかすぎません。やはり、金融の王道は投融資の統合にあるともいえます。制度的に分離すべきものと、実体的に統合すべきものとの狭間に、大きなクレジット投資の機会があるのです。
与信リスクの二つの管理方法
与信リスク管理には二つの方法があります。入口管理と出口管理です。入口とは、与信実行時の審査に重点を置くもので、出口とは、回収に重点を置くものです。社債投資では、発行体の信用リスクの変化に対して、売却という出口で対応しますが、融資では、原則として売却しない前提ですので、入口の審査を厳格に行うことで対応します。
融資の変容
融資では、原則として売却しない前提でリスク管理する、というのがこれまでの常識です。しかし、近年、急激に融資は変質してきました。即ち、融資の実行(オリジネーション)と、融資にかかわる信用のリスクをとることとが、分離されてきます。いまでは、融資を実行したものが、融資を売却(ディストリビューション)すること、あるいはデリバティブを使って与信リスクをヘッジすること、などが普通になっています。
融資を使った資産担保証券
融資を証券化することは、今日、普通のことです。譲渡された融資を担保として、いわゆる資産担保証券(アセットバックトセキュリティーズ ABS)が発行されています。もともと、住宅ローンに代表される融資を使ったABSは歴史が長く、債券市場の重要な一角を形成しているのですが、現在では、利用される融資の範囲が広がっています。
モラルハザードの可能性
融資実行者が売却を前提にして融資を実行するようになると、信用リスク管理の基本である審査に厳格を欠くようになる可能性を否定できません。融資は債権者と債務者の私的関係性に基づく取引であり、融資実行者は債務者にかかわる情報を私的関係性の中で得ています。しかし、その融資の流動化によって作られる証券の投資家は、そのような情報を得ていません。ここに情報の非対称性があり、モラルハザードの可能性があります。
格付とサブプライムの問題
証券化された融資を証券として投資する投資家は、一般的には、格付等を基準として購入し、格下等の事由による売却によって、信用リスク管理をしています。情報の非対称性の上に、もしも、融資実行者が乱脈な融資をし、一定の格付要件をクリアするように巧妙に流動化して証券を創出すると、そのような証券への投資家は、極めて危険な立場におかれます。これが、サブプライム問題の核心です。
流動化し得る融資の限界
融資の証券化とは、債権管理者を失うことでもあります。故に、定型化された住宅ローンや、クレジットカード債権、自動車ローン、一定要件を備えた不動産向けローンなど、統計的に債権管理できる融資以外は、証券化に不適切だと思われます。その節度を越えた例が、サブプライムでありましょう。
銀行の資本規制がつくる投資機会
理論的には、いかに信用リスクに格差があっても、予想損失が金利で補償されるように、金利水準が定められている限り、統計的総合収益は、同じです。ところが、予想損失を事前に引き当てる銀行の資本規制の下では、信用リスクが高くなると、資本コストがかかる分だけ、金利を引き上げざるを得ません。この金利の上昇分、資本規制を受けない投資家にとって、有利な投資機会が得られます。
流動性のコスト
銀行等の金融機関は、保有証券については、売却による市場型リスク管理を行わざるを得ず、保有資産の売却可能性を高く維持する必要があります。一般に、格付の高い証券ほど、流動性は高いものです。信用格付けの高い証券ほど選好されて割高になりやすい一方、低格付証券は割安になりがちです。ここに、投資の機会があります。
市場分断による非効率
投資家がもつ様々な規制的制約や組織的制約により、ある種の類型の対象については、投資できない、投資額が制限される、などの理由で、需給均衡が非効率になる場合が多数知られています。規制のない投資家にとっては、割安な価格での投資が可能になる機会が存在するということです。
手続き費用の高い評価の難しいのもの
投資家の内部的な管理方法として、厳格な事前調査の手続きを要するものは、その手続き費用が障害となり、少数の専門家に投資家層が偏る、つまり割安に放置される場合が多くあります。ここに、専門家だからこそ見出せる投資の機会があります。
銀行機能の補完としての投資機会
様々な理由で、銀行が融資を抑制せざるを得ない領域では、銀行に替わる代替金融機能が強く求められます。そこに投資の機会があります。現在では、不動産関連、エネルギー関連、船舶関連、中小企業などが、世界的に代替金融機能を強く必要とする分野なのでしょう。
多様な投資機会の創出
信用供給の仕組みが変われば、様々な代替的資金調達の方法が工夫されてきます。下部構造(メザニンなど)に引き付ける設計もできるでしょうし、銀行に替わる融資(ダイレクトレンディング)、資産売却を通じた資金調達(アセットファイアンス)から生まれる不動産などの実物資産などがあります。
資本構成間の裁定
融資にしても社債にしても、債権一般についての特色は、一つの企業が優先順位の先後関係を持った複数の債務を負担しているという点です。通常の金利秩序の下では、劣後しているものが高金利になります。しかし、高度に複雑な優先劣後関係の下で、常時、理論的金利秩序が保たれるわけではありませんし、常に、何らかの非効率が存在します。そこが投資の機会です。
資産担保証券の資本構成
資産担保証券は、優先順の異なる多数の資本構成に分けて発行されます。いわゆるトランチング(フランス語の一切れという意味のトランシュに由来します)です。原資産価値の変動は、この複雑な資本構成を通じて証券価値に反映してくるのですが、その経路を分析することは必ずしも容易ではなく、価格の大きな非効率の原因になります。
時価評価のわな
社債でも融資でも信用関連の金融商品は、全て業者間の相対取引です。現在のように需給均衡が崩れ、しかも取引業者である証券会社の在庫を持つ力が大きく低下している局面では、気配としての時価の妥当性に大きな疑念が生じています。必ずしも実態を反映しない時価で評価することによる見かけ上の損失が、ロスカットなどの売りを誘発し、さらに需給が崩れるというプロシクリカリティの異常な状況可能性が、常に存在しています。
企業金融の理論は、資本構成の理論です。最適な資本構成というのは、資本構成上の最上位にある債務(融資や社債)を、その下部構造(メザニンや株式)との関係で、最も効率的な比率に保つことをいうのです。また、必要に応じて、上部構造の債務のなかや、下部構造のなかに、更に優先順位の異なる種類を作ることも意味します。
クレジット投資
企業や事業の資本構成上の上位(債権と債券)に対する投資の全体を、クレジット投資と呼んでおきます。クレジット投資は、資本構成上位のなかの優先順位の異なる多様なものの全体を含みます。いわば、信用供与の仕組みの全体が、クレジット投資の機会です。
企業金融の王道としての投融資
日本の金融の伝統の一つ、まさに、日本の奇跡の高度経済成長を支えた仕組みに、投融資という考え方があります。投融資というのは、資本構成の全体を、企業の実情に合わせた最適な形で面倒見ようという、企業金融の王道的思想なのです。
金融の制度的分業と王道的投融資の狭間
銀行等の融資と、融資以外の資金供与の間に、金融制度的に明確な区分が設けられています。しかし、企業金融の全体からすれば、融資も、融資以外の方法も、資本構成上の位置の差にしかすぎません。やはり、金融の王道は投融資の統合にあるともいえます。制度的に分離すべきものと、実体的に統合すべきものとの狭間に、大きなクレジット投資の機会があるのです。
与信リスクの二つの管理方法
与信リスク管理には二つの方法があります。入口管理と出口管理です。入口とは、与信実行時の審査に重点を置くもので、出口とは、回収に重点を置くものです。社債投資では、発行体の信用リスクの変化に対して、売却という出口で対応しますが、融資では、原則として売却しない前提ですので、入口の審査を厳格に行うことで対応します。
融資の変容
融資では、原則として売却しない前提でリスク管理する、というのがこれまでの常識です。しかし、近年、急激に融資は変質してきました。即ち、融資の実行(オリジネーション)と、融資にかかわる信用のリスクをとることとが、分離されてきます。いまでは、融資を実行したものが、融資を売却(ディストリビューション)すること、あるいはデリバティブを使って与信リスクをヘッジすること、などが普通になっています。
融資を使った資産担保証券
融資を証券化することは、今日、普通のことです。譲渡された融資を担保として、いわゆる資産担保証券(アセットバックトセキュリティーズ ABS)が発行されています。もともと、住宅ローンに代表される融資を使ったABSは歴史が長く、債券市場の重要な一角を形成しているのですが、現在では、利用される融資の範囲が広がっています。
モラルハザードの可能性
融資実行者が売却を前提にして融資を実行するようになると、信用リスク管理の基本である審査に厳格を欠くようになる可能性を否定できません。融資は債権者と債務者の私的関係性に基づく取引であり、融資実行者は債務者にかかわる情報を私的関係性の中で得ています。しかし、その融資の流動化によって作られる証券の投資家は、そのような情報を得ていません。ここに情報の非対称性があり、モラルハザードの可能性があります。
格付とサブプライムの問題
証券化された融資を証券として投資する投資家は、一般的には、格付等を基準として購入し、格下等の事由による売却によって、信用リスク管理をしています。情報の非対称性の上に、もしも、融資実行者が乱脈な融資をし、一定の格付要件をクリアするように巧妙に流動化して証券を創出すると、そのような証券への投資家は、極めて危険な立場におかれます。これが、サブプライム問題の核心です。
流動化し得る融資の限界
融資の証券化とは、債権管理者を失うことでもあります。故に、定型化された住宅ローンや、クレジットカード債権、自動車ローン、一定要件を備えた不動産向けローンなど、統計的に債権管理できる融資以外は、証券化に不適切だと思われます。その節度を越えた例が、サブプライムでありましょう。
銀行の資本規制がつくる投資機会
理論的には、いかに信用リスクに格差があっても、予想損失が金利で補償されるように、金利水準が定められている限り、統計的総合収益は、同じです。ところが、予想損失を事前に引き当てる銀行の資本規制の下では、信用リスクが高くなると、資本コストがかかる分だけ、金利を引き上げざるを得ません。この金利の上昇分、資本規制を受けない投資家にとって、有利な投資機会が得られます。
流動性のコスト
銀行等の金融機関は、保有証券については、売却による市場型リスク管理を行わざるを得ず、保有資産の売却可能性を高く維持する必要があります。一般に、格付の高い証券ほど、流動性は高いものです。信用格付けの高い証券ほど選好されて割高になりやすい一方、低格付証券は割安になりがちです。ここに、投資の機会があります。
市場分断による非効率
投資家がもつ様々な規制的制約や組織的制約により、ある種の類型の対象については、投資できない、投資額が制限される、などの理由で、需給均衡が非効率になる場合が多数知られています。規制のない投資家にとっては、割安な価格での投資が可能になる機会が存在するということです。
手続き費用の高い評価の難しいのもの
投資家の内部的な管理方法として、厳格な事前調査の手続きを要するものは、その手続き費用が障害となり、少数の専門家に投資家層が偏る、つまり割安に放置される場合が多くあります。ここに、専門家だからこそ見出せる投資の機会があります。
銀行機能の補完としての投資機会
様々な理由で、銀行が融資を抑制せざるを得ない領域では、銀行に替わる代替金融機能が強く求められます。そこに投資の機会があります。現在では、不動産関連、エネルギー関連、船舶関連、中小企業などが、世界的に代替金融機能を強く必要とする分野なのでしょう。
多様な投資機会の創出
信用供給の仕組みが変われば、様々な代替的資金調達の方法が工夫されてきます。下部構造(メザニンなど)に引き付ける設計もできるでしょうし、銀行に替わる融資(ダイレクトレンディング)、資産売却を通じた資金調達(アセットファイアンス)から生まれる不動産などの実物資産などがあります。
資本構成間の裁定
融資にしても社債にしても、債権一般についての特色は、一つの企業が優先順位の先後関係を持った複数の債務を負担しているという点です。通常の金利秩序の下では、劣後しているものが高金利になります。しかし、高度に複雑な優先劣後関係の下で、常時、理論的金利秩序が保たれるわけではありませんし、常に、何らかの非効率が存在します。そこが投資の機会です。
資産担保証券の資本構成
資産担保証券は、優先順の異なる多数の資本構成に分けて発行されます。いわゆるトランチング(フランス語の一切れという意味のトランシュに由来します)です。原資産価値の変動は、この複雑な資本構成を通じて証券価値に反映してくるのですが、その経路を分析することは必ずしも容易ではなく、価格の大きな非効率の原因になります。
時価評価のわな
社債でも融資でも信用関連の金融商品は、全て業者間の相対取引です。現在のように需給均衡が崩れ、しかも取引業者である証券会社の在庫を持つ力が大きく低下している局面では、気配としての時価の妥当性に大きな疑念が生じています。必ずしも実態を反映しない時価で評価することによる見かけ上の損失が、ロスカットなどの売りを誘発し、さらに需給が崩れるというプロシクリカリティの異常な状況可能性が、常に存在しています。
次回、2012年 HC資産運用セミナー第4回は『債券運用におけるニッチな投資領域の魅力~金利リスクが支配する領域での付加価値源泉の分散~』です。
なお、本セミナーで実施致しました「セミナーテーマに関するアンケート」の結果に関しましては、
「HCセミナー・アンケートレポート」にて公表予定です。
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