2012/9/12開催 HC資産運用セミナーvol.057「日本の年金資産運用の歴史」セミナーレポート

HCセミナー
今回は、総計100名以上のご参加を頂き、年金運用の歴史について、森本の経験を踏まえながら制度と経済環境、メッセージを交えて、講演をしました。

「私がこの年金業界に入ったきっかけは、1989年の春、年金の仕事をやらないか、と電話をもらったことです。日本は当時、改正厚生年金保険法施行を目前にしていました。アメリカでは、1975年にエリサ法が制定され、機関投資家の運用は大手金融機関から独立・分離した企業によって行われるようになりました。急に年金基金の責任が増すことになり、外部のリソースを使用する動きが出てきて、コンサルタントという職が急激に拡大しました。当時コンサルタント業務は非常にプロフィタブルな事業でした。今はその面影もありませんが」

セミナーは、森本がこの業界に関わることになったエピソードから始まりました。今回のテーマは、本来、年金が担ってきた企業金融の役割が最近忘れられているのではないか、年金が日本を盛り上げるべきではないかという、森本の問いかけでもありました。



≪セミナー内容≫

日本の年金資産運用の歴史における転換点は、次の2つです。一つは1990年4月に行われた厚生年金基金にとって「初めて」の運用規制緩和であり、1997年の金融危機前後に行われた「急激な」規制緩和です。

-1990年4月以前
高度経済成長で日本の発展が著しかった昭和40年当時、年金運用は保険会社と信託銀行の完全な独占でした。法律でそのように定められていたからです。なぜこの2業界に権利を与えたかというと、長期産業資産の設備投資資金をカバーする役割を担っていたからです。年金運用は、日本の高度経済成長にとって大切な歯車の一つとして、日本の産業界にとって有効な使われ方をされました。50年代には長短分離政策の抜本的見直しが始まったことで、長信銀不要論が出てきています。その中での大きな変化として、外銀信託銀行の年金運用参入がありました。当時は、抜本的な年金運用の開放が大蔵省内部で検討されていた頃でした。

-1990年4月以降
1990年4月の改正厚生年金保険法の施行により、給付業務と運用業務が分離されました。従来は、シェアの三位一体(給付シェアと掛金シェアと資産シェアの一致)の制度により、年金基金は資産運用の委託ではなく、給付の委託を行うことだけしか認められていませんでした。この改正により、年金基金には運用の義務が生じたことで、投資顧問会社へ資産運用の委託をすることが可能となりました。

その後も段階的に規制緩和は行われてきましたが、1997年の金融危機を挟んで一気に規制が緩和されることになりました。年金資産運用の世界に、「自己責任の原則」と年金基金の「受託者責任」が求められることになったのです。背景には、メインバンク制を核とした系列取引の瓦解、生保や信託銀行に対する危機意識の高まり、バブル崩壊による巨額な含み損の存在等がありました。金融危機をきっかけに、年金基金は、突然、時代の流れに直面することになったのです。

こうした変革の中で、森本は、年金基金にとって、資産の増殖が命題ではなく、安定的なキャッシュフロー(CF)の確保、つまり運用の保守化が必要であると強調しています。元本が1割減れば、CFも1割減ってしまいます。昔の運用規制に捕らわれすぎず、給付原資(CF)の確保こそが大切であり、常にこのことを念頭に運用を考えるということが必要ではないでしょうか。


-年金基金へのメッセージ
ソルベンシー、バーゼル体制といった今日の金融制度のもとでは、これらの規制に対応できる、新しい金融ビジネスモデルが求められます。投資の原点に立ち返り、日本の現実を再認識した上で、CFを生む資産への投資や、産業界への資金循環を正常化する努力が必要です。
今回、年金資産運用の歴史を紐解いたのは、皆様に年金政策が日本の経済成長のなかで高度に設計された産業金融の柱であったということを再認識して頂きたかったからです。このことを忘れず、資産運用を通して日本全体に元気を与えてほしいと考えています。

(文責:大橋理瑛、金田明)

  当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。

  詳細レポートをご希望の方は、下記アドレスまでお気軽にお申し付けください。
  HCアセットマネジメント運用部:research@hcax.com




■セミナーで実施したアンケートの集計結果

Q1 日本産業の明るい未来にとって、確定給付企業年金制度や厚生年金基金制度のような事業主の責任による給付保証型の企業福利制度は、どのような位置づけになるとお考えでしょうか。一番近いと思われるものを、一つだけお選びください。


<クリックして拡大>
1.日本産業の国際競争力は、製品サービスの質の高さに依存する。その質を維持するためには、雇用の質が重要となることから、安定雇用の柱として改めて企業年金は戦略的に重要なものとして再認知される。
2.確かに、安定雇用は重要だが、確定給付企業年金制度等の給付保証型のものは、企業の財務的不確実性を大きくしてしまうので、相対的縮小は免れない。
3.そもそも、人事制度として、確定給付企業年金制度等は、不要のものになっていく。
4.その他
5.無回答

Q2 いま企業年金の資産運用のあり方を見直すとしたら、考慮すべき外的要因として、次のどれが重要だとお考えでしょうか。 一番重要と思われるものを、一つだけお選びください。


<クリックして拡大>
1.積立不足、成熟度の高まりと給付額の増加など、制度に内在する課題
2.雇用や人件費など、人事政策についての母体企業の経営判断
3.IFRSや退職給付会計など、財務政策についての母体企業の経営判断
4.投資環境の変化
5.その他
6.無回答   



セミナーレポートは以上になります。