2013/3/22開催 2013年3月年金資産運用実践講座 第1回・セミナーレポート

HCセミナー


第一部:基礎的な利息配当金を確保するための運用戦略

■資産が資産であるためには、キャッシュを産むものでなくてはならない。
 基本的にはキャッシュを産み出すということが運用の基本です単なる値上がり対象は運用対象にはなりません。投資は二つの概念から構成されます。 

 (1) キャッシュを産み出す仕組み
 (2) 資本構成上のどこ(融資、社債、株式)に投資するか


 2011年以降、2番目の意思決定が重要です。赤字でも社債が100で償還される限り投資家への実損は発生しません。


■「本源的価値」は「将来のキャッシュフローの現在価値」 
 投資はキャッシュフローが入ってくる仕組みに投資をします。「本源的価値」は「将来キャッシュフローの現在価値」です。(株式:将来配当の現在価値、債券:利息と元本の現在価値の合計)。また、本源的価値が変動せずとも、価格が変動する時に投資機会が生まれます。

 投資対象となる条件として4つの要素が存在します。

 (1) 将来キャッシュの予測金額の変化 (増/減)
 (2) 将来キャッシュを現在価値へと割り引く際の金利の変化 (増/減)
 (3) 将来キャッシュフローの時間軸の変化 (増/減)
 (4) 将来キャッシュの予測金額の確実性の変化(リスク) (増/減)


 (1)と(4)は本源的な問題で、事業構造に付随。(2)と(3)は技術的な問題。(1)、(3)、(4)は経営者が管理し、将来キャッシュの確実性を向上させる部分です。(4)の将来キャッシュの確実性の変化は資産価値変動の最大の要因になります。※キャッシュを産まない資産は価値がゼロです。しかし、株式における配当性向の問題は株式価値の上昇と下落の二つの要因になるという複雑な面もあります。

 また、投資の基本的な考え方として以下の4つの論点があります。

 (ⅰ)本源的価値
 (ⅱ)損失の可能性(リスク)
 (ⅲ)価格変動(ボラティリティ)
 (ⅳ)保守主義


 これを踏まえて、投資運用は価格の予想の提供ではなく、価値の判断の提供と法律で定められています。
 本来、資産運用は本源的価値を語るべきです。アベノミクス、キプロスやリーマンショックは価格の話題です。リーマンショックでの教訓は、通常の価格まで戻るまでにかかる時間が夫々の資産で異なった、つまり本源的価値(キャッシュフローを生む仕組み)が毀損しなかった資産であるほど、短い時間で通常価格まで戻ったということです。投資では、投資の基本を順序良く考えることと、投資の基本原則(4つの論点)をしっかりと押さえることが重要です。

 投資対象としては、「正常な資金需要、キャッシュフローが読める環境」、「特殊な状況における資金需要でキャッシュフローが読みにくい状況」、「市場の流動性、機能不全による非効率な状況」などの市場環境下においても、安定的なキャッシュフローが確保できるのであれば対象になると思われます。伝統的資産以外の投資対象も増えています。弊社は投機には投資しませんが、投資できる分野には投資していきます。



第二部: 投資機会をとらえて追加的収益を目指すための運用戦術

 年金基金ではインカム戦略化が進んでいます。1-3%の金利に到達するために、以下のような工夫を行っています。

 (1)市場分断効果
 (2) 資本コストの効果
 (3)流動性の効果に着目する


 インカム戦略化とは単に投資対象を債券でまとめることではなく、安定インカムを得るための工夫、思考が非常に重要です。特に実物資産はよい金利を生み出すものが多いと考えています。(銀行の中核業務から外れた中小企業融資等)。要は戦略の立てつけ方、思想、哲学の問題なのです。
 

■バリュー投資の基本的論点
 以下の3つの投資判断を考えます。

 (1) 本源的価値の算定
 (2) 現在の価格が低い理由の認識
 (3) 価格は戻るのか、戻るならばどのくらいの時間がかかるのか、更に下がることはないのか
 

 そして確信度が高いものに投資をするのです。もしも投資機会が無いのであれば投資をしないことが大切です。年金基金は長期運用なので、保守的に待てることが重要になります。

 投資のスタートとしては、本源的価値より30%安値価格であることが理想です。これが3年間で解消すると更に好ましいです。これは同時に3年後、割安が解消したら売却をするという「売り規律」を意味しています。売った後に再度すべての投資対象を並べ、再度良い投資機会だと思えば買えば良いのです。シンプルに考えましょう。「下がったら買う」、「下がるなら売る」、「下がったら考える」、これでもいいのです。価格変化は常にあるので、環境に応じて考え方を変える必要もあります。


■企業再編とプライベートエクイティの投資機会
 企業が事業再編をしている過程で、「一時的な事業の保管管理」として、プライベートエクイティに30%分割安な投資機会が生まれます。アメリカではプライベートエクイティファンドが資金を提供し、超割安価格(ディスカウント)で買収をしています。日本では一つのことが良くなると、株価も上がり経済も回復する傾向があります。日本企業の案件ではアメリカのヘッジファンドの代わりに年金の資金力を使うべきなのです。例えば、関西電力が電力所を必要としているにも係らず資金調達面での支障があれば、年金基金が電力所を作り20年の超長期契約を結んで、関電に貸せば良いのです。関電は施設を使い事業を営み、年金基金は安定的なキャッシュフローを得ることができます。

 また、上記のような投資の案件が出てきた際に即座に投資できるよう、年金基金はビジョンを持っていなければいけません。今時点で、明日の投資機会になるものを持っていないか精査しておくこと、そして次の投資機会のために、産業界や銀行動向、投資対象を常にモニターしていく必要があります。足元だけ見ずに、先を見ることが必要です。 株の場合、リスクが事業モデルを直撃したら価値を毀損させてしまいますが、インカム戦略と呼べる投資対象であれば、事業が毀損しない限り価格は戻りやすい対象といえます。ですから、次の投資の案件に備えて準備をし、それまではインカム戦略で資金を確保していく方法が最も良い方法と考えています。


  
(文責: 大橋理瑛/白木智雄)

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  HCアセットマネジメント運用部:research@hcax.com