2013/4/15開催 2013年4月年金資産運用実践講座 第2回・セミナーレポート

HCセミナー


第一部:企業経営の中の企業年金の資産運用

企業年金、退職金制度には再考が必要です。年金制度は高度経済成長の資金供給源として大きな役割を果たしました。長期資本を経済成長の原資として循環させるため、年金運用は長期金融機関の生命保険会社と信託銀行の受託独占であり、昭和50年代までは有効でした。80年代以降には資本市場型金融制度への移行が求められてきましたが、今日に至るまで本質的な金融改革は行われていません。米国の年金では長期社債投資が中心であり、長期の産業金融として機能するように制度設計されています。現在の日本で長期設備投資資金ニーズがないのは、資金循環の機能不全よるものであり、潜在的な成長力はあります。今こそ金融を再構築して、投資顧問業界は産業金融の担い手としての役割を果たすべきと考えます。

退職金制度は給与後払いの性格を持ち、会計上のキャッシュフローの抑制と、長期勤続へのインセンティブのためであり、人事制度上重要な役割を果たしていました。退職金の一部を一時金で支払う代わりに年金化し、外部拠出することを条件に掛け金の損金参入が認められたことも、年金制度導入の後押しとなりました。

米国のGMやフォードの経営が圧迫された背景には、オートメーション化以前の50-60年代に黄金期を迎えたことにあります。当時、製品の品質は熟練工の技術に左右されていたため、福利厚生制度(手厚い待遇、年金制度)導入で雇用の質=製品の質を保っていました。しかし、日本勢の参入や平均余命の長期化という誤算が重なり、ビッグ3を弱体化させてしまいました。他方、日本が再成長するためには、中国、韓国に出来ない高度な付加価値創出=熟練工の確保が益々必要になると考えられますので、熟練による人的資本形成の意味からも、年金制度は必要と思われます。

経営には、経営環境の変化に伴う能動的な関与が求められます。すし屋では季節は変われど同じ味を提供するという一貫性が大事であるように、年金運用においては安定的な収益実現が求められます。一方で経営者がとるのは事業リスクであり、付随する撹乱リスクは回避すべきです。運用はプロに委嘱することが妥当であり、運用会社は短期的な時価変動によらない運用と責任体制の明確化により、信頼関係を構築する必要があります。



第二部: 伝統的ALMに代わる長期の視点

資産債務総合管理(ALM運用)の基本は、資産と債務を現在価値で評価し、資産と債務の長期的な収支均衡と、金利変動等の影響への耐性管理が目的です。年金の資産運用の究極の目的は、給付原資の確保。制度設計上、原資である元本の取り崩しは予定されておらず、元本からの収益が予定されています。元本が毀損すれば、発生したであろう予定収益が欠損し、まさに元も子もなくなります。

また推計計算(ALM)からは、投資戦略も資産配分も出てきません。ALMは検証にすぎず、検証に先立ち検証されるべき投資戦略があるのです。投資戦略は企業経営の延長・一部としての戦略的発想からしか生まれ得ません。資産運用の高度な専門性ではなく、むしろ企業経営の常識が必要なのです。
投資戦略としての債券運用は、将来キャシュフローの高い蓋然性、価値予見性があるためです。それに対し株式は価値の予見性が低い。キャッシュフローに着目したインカム戦略は投資環境に左右されず、安定的な運用を目的としており、年金運用の長期的かつ保守的な運用方針に合致しています。

昨今は3年をめどにした中期経営計画が、企業経営において中心となっているものの、経営戦略は、3年よりも長い時間軸で展開されています。つまり、長期に設定された将来像(ビジョン)のもとで、中期(3年)の計画管理があり、更に3か月、単年度という短い期間での評価と調整がなされています。年金基金の資産運用も、企業経営同様の時間軸で運用がなされるべきと考えます。例えば、積立水準回復を10年で計画するとして、その間の掛金投入と運用の付加価値の配分を決め、運用目標を決め、それを実現するための戦略を定め、中期における展開を具体的な計画に落とし、短期における計画進捗を測定し、必要ならば計画を見直していく。それこそが年金基金の資産運用ではないでしょうか。

以上
  
(文責: 峯岸奈央、白木智雄)

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