2013/12/2開催 2013年12月年金資産運用実践講座第3回・セミナーレポート
HCセミナー
第1部 伝統的四資産に替わる資産定義の再構築
(1) 債券の基本
「四資産分類とは、科学的に有効ではない。」
資産運用において国内株式、外国株式、国内債券、外国債券を、いわゆる“四資産分類”として区分していますが、資産は上記以外にも存在し、その他の資産をオルタナティブ投資として曖昧に定義しています。しかし、資本構成が多様化し、運用がグローバル化するなかで、このような単純な資産定義・資産区分は果たして有効なのでしょうか。
米国内で120万人の加入者を擁し上位の資産規模を誇るテキサス州教員年金組合(TRS)では、(期待収益率)予測に基づいた資産配分を行わず、複数の経済シナリオの実現可能性に基づき、それぞれのシナリオのもとで優位な戦略を採用する、従来とは異なるアプローチを行っています。例えば、安定成長をシナリオとして見込む場合、産業キャッシュフローが安定していれば伝統的に企業の株式価値もパラレルに伸びるという考えのもと、グローバル株式への配分に重点を置きます。その際、上場グローバル株式だけではなく、ヘッジファンドやプライベートエクイティも投資対象となります。また、低成長シナリオの場合は債券をメインに、一方、物価上昇を伴う低成長シナリオの場合は物価連動債や資源関連の投資案件を組み入れることになります。インフレをベースとしたシナリオ配分とシナリオ毎の資産配分という二階層による資産配分を行っています。
TRSの資産配分手法は斬新ではありますが、キャッシュフローを重視し、投資機会を創出しています。この年金の主力・主戦場と言うべき投資は、長期ファイナンスにおける初期のエクイティ投資、言い換えれば事業キャッシュフローが安定するまでの、キャッシュを生まない限られた期間のプライベートな投資に強みを見出しています。直接投資と銀行や他の投資家によるリファイナンス(出口戦略)と言う組み合わせが最も効率がよいと言うことができます。株式投資という従来の括りでは、こういった投資の自由度は生まれて来ません。
上場・非上場、パブリック・プライベートといった区分ではなく、事業や企業の成長に上手に投資していくことがポイントとなります。うまく回っているものだけに出資するのであれば、銀行があればよく、投資は必要ありません。
(2) 債券の基本概念
債券に投資した際の回収期間は、各受取額を受け取るまでの期間の現在価値の加重をかけた平均期間の(マコーレーの)デュレーションで表されます。債券の満期は単に最後の回収時点でしかなく、投資額の平均的な回収期間を意味しません。価格変動率は修正デュレーション、修正デュレーションの利回り変化による感応度をコンベクシティと言います。これが大きいと金利低下局面での価格上昇の幅が大きくなります。年金運用の場合、キャッシュフローのばらつきが一定であり、コンベクシティが大きくなる傾向があるため金利低下局面では年金債務が膨れ上がる傾向にあります。一方で、米国の住宅ローンを使った資産担保証券のようにコールオプションを内包した債券の場合、期限前弁済を伴うためネガティブ・コンベクシティとなり、金利低下局面での価格上昇幅は限定的となります。
債券の利回り(Yield Curve)には、金利が上がる/下がるという市場参加者の期待値が金利秩序に織り込まれています。冒頭の住宅ローンの話と被りますが、2年物債券と1年物債券を2年連続して投資するのとでは、同じ収益率になることが期待され、1年物と2年物の債券価格はそれを反映して決定するはずです。債券運用のようにキャッシュフローに着目したインカム戦略は投資環境に左右されず、安定的な運用を目的としており、年金運用上こうした仕組みを作るべきだと思います。
(3) 債券運用での追加的収益源泉
債券の利回りは、信用リスク(デフォルト確率と回収率を加味した上で損失可能性)を利回りの高さで保証するよう決定されます。経済的価値の等価性の観点から考えると信用リスクをとる事の意義はなく、信用リスク運用は意味がないのではないかと考えられます。ところが実際には、信用リスクの高い債券ほどトータルリターンの期待値も高くなる傾向があるので、追加的な収益源泉となり得るのです。これには3つの観点から説明ができます。
①市場分断による収益、 ②資本コストの収益、 ③流動性の収益
債券運用は領域が広く、目標の収益率に到達するために特殊なリスクもその仕組みの中に取り入れることができます。この仕組みを科学的に、且つ、広範な収益源源泉として見なすことが、債券運用の基本だといえるでしょう。
第2部 伝統的資産配分に替わる資産選択の再構築
(1) 株式の基本
「配分するための選択_“ポートフォリオ・セレクション”がなぜ資産配分となったのか」
選択抜きの配分などあり得ません。ポートフォリオ理論は、もともと選択についてだった筈が、いつのまにか配分の理論になってしまいました。選択をしないのであれば、世界中にもれなく投資すべきですが、すべてに投資することは現実的ではありませんので、選択を行う方が余程効率的な投資判断となります。一方、例えば、日本株をやめて新興市場株式に投資するということは難しい判断となります。選択なき資産運用はあり得ませんが、選択は難しいと言うことになります。
リーマンショック時に証券化商品が暴落しましたが、原資産が劣化しないなかで、なぜ価格下落が起こったのでしょうか。その後、証券化商品のほとんどは価格を戻すことになりましたが、本来キャッシュフローは変わらず価値が毀損しなければ、価格は変わらないはずです。当時、原資産の価値が毀損したものも、そうでないものも同様に価格が下落しました。高いか安いかではなく、キャッシュフローを生み出す仕組みが毀損していなければ、投資は可能となります。
論理的には、ネット・キャッシュフローが変わらなければ、資産価値は変わらないはずですが、それでも資産価格は変動します。何かイベントが起きた場合に、影響の度合いは様々で、実体経済への実質的な影響は即座には読めません。稼働率の低下によるキャッシュフローへの影響を保守的に算出して、それでも実勢価格が本源的価値を下回っていると判断できれば買いです。
原資産の価値が不変であるとの確信度が高ければ、価格が下がれば買い、上がれば売りとなりますが、確信度が余程高くないと判断エラーが増えることになります。買った理由がなくなれば、規律をもって売却する“Sell Discipline”が必要です。また、売ると再投資リスクを抱えることになりますので、次に買うものを決めないと売れないと言うことになりがちですが、「買いの規律」と「売りの規律」によって売買を行うことが重要です。
投資収益は基本となる利息配当(インカム・ゲイン)とバリューアップ等による付加的な利息配当+価格変動(キャピタル・ゲイン)に分解されます。価格変動はコントロール不能なものですから、労力を割くのは得策ではありません。企業年金の多くは母体企業のバランスシートに年金資産の価格変動が影響してしまうので難しい面がありますが、公的年金等では価格変動は無視して運用することも可能ではないでしょうか。原資産の価値を判断し、キャッシュフローの予見性の高いものに確信度をもって投資することが、付加価値の源泉となります。買う時にあらかじめ売る理由も決め、規律をもって運用を行うことも重要です。また、長期投資を維持するためには、コストをまかなうインカムが重要な役割を果たすことになります。
以上
(文責:峯岸・佐藤)
当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。
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