2014/4/22開催 「産業金融フォーラム」レポート(2)―パネルディスカッション①―
HCセミナー
4/22(火)開催、「第1回産業金融フォーラム-産業と金融のオープンイノベーション戦略-」のレポート第2弾になります。パネルディスカッション①では、「企業の成長戦略と財務戦略」をテーマに日本総合研究所 理事・翁 百合 氏、静岡銀行 代表取締役 取締役頭取・中西 勝則 氏、経済産業省 大臣官房審議官(経済産業政策局担当)・西山 圭太 氏氏、三菱商事 執行役員 産業金融事業本部長・廣本 裕一 氏が登壇。 大胆な構造改革を進めつつ、成長分野に積極的に投資していく経営戦略を前提としたとき、その実現を資金調達で支援する金融機関に求められる対応について議論頂きました。内容を下記にご紹介させて頂きます。
■パネリスト(写真左から)
・日本総合研究所 理事 翁 百合 氏
・静岡銀行 代表取締役 取締役頭取 中西 勝則 氏
・経済産業省 大臣官房審議官(経済産業政策局担当)西山 圭太 氏
・三菱商事 執行役員 産業金融事業本部長 廣本 裕一 氏
・(コーディネーター)地域共創ネットワーク㈱ 坂本 忠弘 氏
◎レポート(1)―基調講演―のレポートはこちら
地域共創ネットワーク㈱ 代表取締役
坂本忠弘氏:
日本に求められる産業と金融の革新について、ご自身の意気込み、関わり方をお伺いしたい。
経済産業省 大臣官房審議官
(経済産業政策局担当)
西山圭太氏:
経済産業省産業構造課長時代にも産業革新について議論していた。業種を超えての共通課題は、
①脱ピラミッド型(脱垂直統合)。バリューチェーンすべてを含む。(1,2)
②オープンイノベーション。脱自前主義。
③脱富士山型のマーケティング。良いものを安くすべての人へ、から「組み換え」へ。
実現には、カタリスト(触媒)である金融も変わらなければならない。モデルとして元祖官民ファンドである産業革新機構へつながった。また、上記を促進すべく、日本の「稼ぐ力」創出研究会を発足。
三菱商事 執行役員 産業金融事業本部長
廣本裕一氏:
リスクキャピタルの供給者がいなくなった。かつては興長銀が担い、現在このような部署は商社でも当社のみの状況。不動産証券化、リース事業やインフラ投資を行うが、自社のバランスシートではなくファンド等で投資家資金を招く。機能としてはオリジネーションと資金調達。現在もっとも注目しているのはインフラ。電力設備のリースや、将来的に発電施設のアンバンドリングへのファンド対応。空港民営化におけるターミナルビルにも注目。物流と商業施設の複合であり、商社の経験・知識が活かせる分野。
静岡銀行 代表取締役 取締役頭取
中西勝則氏:
以前、静岡県は地域経済のモデルと言われてきたが、実は回復が遅れていると認識。バブル崩壊後は、地域密着主義でイノベーションを追求。特にローエンド(3) での、人と人との付き合いで産業を支えている。例えば、中小企業が海外進出を迫られる状況に対しては、現地銀行へ派遣したり、現地への同行やグローバルコンサルタントとの提携などによる支援遂行。ビジネスマッチングでは優良技術の他社への紹介、技術継承の他社での引き受け支援、次世代育成としてビジネススクールでのプログラム受講などを推進。中小企業再生と改善では、不良業種は転業、衰退産業は廃業を勧め、新事業へのコンサルおよび支援を行っている 。(4)
日本総合研究所 理事
翁百合氏:
産業再生機構、企業再生支援機構の経験から、90年代は不良債権、昨今は少子化が課題。不良債権問題は誤った投資が問題であり、選択と集中で改善。現在は同様の対応でも売り上げが伸びない。生産性向上には、水平的シナジーとして地元の地銀が知恵を出し、マッチングやネットワーキングしていく機能が必要。
坂本氏:
産業構造や事業構造の大胆な変革が成長源泉になるとして、その変革を促進、支援、加速させる金融機能、技法、哲学が必要と思われますが、資金調達、資金供給側、それぞれの課題とは。
廣本氏:
資金供給側として、商業銀行のシステムは、大きく括れば、誰が行っても同じ結果が出なければならないマニュアル化システムであり、官僚制システムとも言えよう。一方、商社における投資判断ではヒューマンファクター(経営者の夢、等)を重視する。資金調達側は、経営者自らが事業ポートフォリオを市場へアピールし、事業価値を議論出来るべき、という点においてユニークかつワンマンであるべきだが、現状は少数(例、ソフトバンク、リクシル等)ではないか。経営者の能力向上が必要と考える。調達側として経営者の資質を高めることで、例えばファイナンスが困難な状況でも何らかの打開策は見つけられる可能性は高まる。
中西氏:
従前、商業銀行は決済機能を担っていればよかったが、現在はローエンドで人と人との付き合いで産業を支えている。問題なのは、規制が厳しくリスクとリターンが見合わないことだ。5%ルールなどもあり、リターンを得る仕組みがない。中古住宅関連など、地銀がもっと扱えればビジネス自体の拡大につながる可能性がある。(5,6)
西山氏:
グローバル経済圏と地域経済圏を分けて考える方がよい。グローバルでは世界を相手にグローバル基準でのビジネスを行い、地域では域内のクライアント相手のビジネスとなろう。なお、地域圏では少子化問題などもあり、市場縮小を前提に多様なことを同時にやらざるを得ないのではないか。
翁氏:
リスク評価とリスクの取り方が重要。サステーナビリティ(キャッシュフロー、環境、ガバナンス)を見せていくことが大切。稼ぐところ、価値を向上させるところを支援するという、事業の目利きが大切。民間の力に期待したい。
坂本氏:
産業構造革新の担い手は民間産業、個々の企業と思われます。成長戦略と財務戦略の両面について、企業変革のための企業統治上の問題は何か。
廣本氏:
海外投資家の要求水準は高い。これらの投資家に対し、社長一人で対峙し、納得させられる日本企業はどれほどあるか。経営者能力を高める必要性を痛感する。日本版スチュワードシップ・コード創設は意味がある。
西山氏:
アベノミクス効果の追い風を生かし、企業に求めたいこととして、
・稼ぐ力=収益力のないガバナンスはあり得ないこと
・オープンイノベーションの遂行。極端ではあるが(何かを)選択する際には、社内外の取り扱いをイコールにすること(7)
・外部環境が複雑化(diversity)していることに合わせ、社内ボードメンバーも同じ環境にすべき。そうでないと自社が置かれている環境が理解できないのではないか
中西氏:
20数年間デフレが続いたことで、企業経営者が大きな投資や変革を経験していない。アベノミクスへの期待もあるが、教育、マスコミの在り方にも変革が必要では。
翁氏:
収益向上=企業価値向上であり、トップがインセンティブを引き出すことが大切。ガバナンスとしては、一般株主の立場に立った意見やトップにとって耳の痛い話(と同時にそれを聞いて活かす経営も当然大切)など、社外取締役となる人の心構えや受け入れ企業側の姿勢にも変革が必要。また、経営者が自社の資本政策をきちんと株主が納得できるよう語っているかも重要。ESGは長期成長に必要と思われる。
坂本氏:
地域経済の成長戦略には、地域の内発的な力が不可欠と思われます。地域の変革主体、成長支援の投融資のあり方、成長資本調達の仕組みについてのご意見を伺いたい。
中西氏:
地域経済における選択と集中という点では、グランドデザインは地公体が中心で後押ししている。(静岡では)県レベルで成長戦略会議を設定、資金も人も出す。航空機産業などは地方立地に向いた産業であり、育成を図る対象。また、日本が誇るアニメなどのコンテンツについても地方立地が有望。しかし著作権保護施策の整備が不十分。(8)
廣本氏:
地域経済の成長には、グローバルとローカルを分けるのが良いと考える。ローカルでは、より地域密着型の信金のネットワークを活用した観光関連法人を設立し、上手く稼働し始めている。またJALやANAの経営効率向上のために縮小された国内路線も、機材の見直し(MRJ活用)により復活させ、地方と地方を繋ぐこと(による地域経済活性化)が可能となるのではないか。
翁氏:
地域企業の成長にはエクイティ資本の確保が鍵。地銀などが地域における産業連関を考えて、事業会社が活用できるようなネットワークの提供、情報分析を行い、インテリジェンスを高めて、創業できるような支援を行うことが必要。
西山氏:
今後を見据えると、3大都市圏以外は人口減少が想定される。地域の未来についての共通認識が必要であり、地域の将来のためには、オープンイノベーション、外部の知恵(よそ者、外部人材)を受け入れることが必要と強く考える 。(9)
坂本氏:
事業会社と金融、官と民、融資と投資という垣根を越えた協業が大切。
(注釈)
(1)経済産業省の産業力強化法では、産業の新陳代謝として、「事業者による設備投資、事業再編を促す環境の整備」「過剰供給・過当競争など事業再編が必要な分野について調査・公表」が、日本再興戦略における国の責務として挙げられている。
(2)脱垂直統合が日本における産業課題の一つであるが、巨大企業が構造改革を行った場合には、傘下の中小企業は大きな影響を受け、同時に関係金融機関も多大な影響を受ける可能性がある、との指摘がある。
(3)決済機能を超えた、より創造的なファイナンスの仕組みで個々の企業の状況に合わせた対応。
(4)静岡県は、名古屋経済圏から連なる膨大な中小企業群を有する地域であり、これに応じて地域金融機関も多数存在。2014年3月現在、地銀、信金・信組合わせて17。
(5)静岡県は、名古屋経済圏から連なる膨大な中小企業群を有する地域であり、これに応じて地域金融機関も多数存在。2014年3月現在、地銀、信金・信組合わせて17
(6)銀行の強化策として、デッドエクイティスワップなどは有効と思われるが、一定の条件が課されるため、再生計画に沿った柔軟な対応には困難な面もある。また、米国ではノンバンクのモーゲージ銀行などの業態があり、手数料を得る多様な手段がある。
(7)脚注1参照
(8)脚注5参照
(9)脚注1参照
(文責:HCアセットマネジメント株式会社)
◎レポート(3)パネルディスカッション②のレポートはこちら
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