2014年8月13日(水)開催 HC資産運用セミナーvol.080「債券運用におけるニッチな投資領域の魅力」セミナーレポート
HCセミナー
■動画ダイジェスト
(1) 債券運用における「金利」の重要性
債券運用において「金利」は投資成果を決定付ける重要な要素であり、金利リスク(時価変動)は制御できません。然し、時価が変動したとしても価値の毀損がなければ本源的価値に収斂するはずです。金融機関はリスク管理目的で流動性の高い資産を保有していますが、2008年の金融危機時は流動性がそれ本来の意味を成さず、資本拡充も逆説的に金融危機時に資本拡充が要求されたために価格変動を吸収することできずに損失の拡大を助長しました。これらは実態経済分析ではこれらの行為は合理性があったかもしれませんが、投資理論の観点からは非合理的行動です。この教訓を生かし、科学的な債券運用を実現するためには、金利リスクとそれとは事を異にするリスクを広範に分散させることが本義・本質です。
金融は社会的に必要なもので、どの世界にも須らく存在していますが、金融的技法は狭い概念のまま推移してきました。イスラムにおいても教義・思想に適合(シャリア)するよう工夫を凝らしており、メザニンとアセットファイナンスに伍する技法を活用してきました。イスラム金融において、利息はコーランで禁止される不公正な行為と規定されていますが、出資契約を結んだ上で資金融通を行うことで受け取る配当は、債務性がないため公正です(メザニン)。また、小売業者が事業を行う際、一般的な銀行融資によって事業を営むのではなく、銀行が直接商品を仕入れて小売業者に販売してもらい、売上高から販売手数料を控除して返金するという仕組みを採用しています(アセットファイナンス)。
通常の融資の場合は恒常的確実性を前提にしているため金利水準は低くなり、支配的リスクは「金利のみ」となります。一方で、これの金乳的技法による資金調達は不確実性が高いため通常より金利が高くなりますが、「金利以外」のリスクが派生的に生まれ、支配力は薄まります。
(2) 年金基金における国債運用の科学的合理性
国債運用における主要なリスクは「金利」です。日本国債崩壊論がでてきて久しいですが、国内でファイナンスできている以上、もはや狼少年です。黒田日銀総裁は物価水準2%を目標に掲げていますが、実質金利がマイナスの日本国債を保有することに意義はあるのでしょうか。また、果たして現在の日本国債の金利水準は適正なのでしょうか。かつて東京電力(TEPCO)がロンドンで起債を行った際、日本国内で発行するよりも金利は高くなりました。これを前提に、年金基金が国債を保有する意義を考えましょう。ALMマッチングを図る退職給付会計において、米国で採用する割引率は長期最高格付けの社債です。日本では対象とすべき社債がないため国債を使用しています。国債金利低下によって負債価値が増大した現在、年金基金が受容可能なリスクの下、追求可能な利回りは弊社では2.5%と評価しており、年金基金による国債運用における合理性は皆無だと考えています。
(3) 債券運用の投資機会を考える
債券運用におけるニッチな投資機会を見出すため、重要な論点の一部を紹介します。
1. 信用リスク:債券はご存知の通り、最終償還時に額面金額で償還されます。発行者の支払い能力に問題が生じない限り確実に履行されます。抑々、信用リスクが高い人と低い人に融資した際の総合収益は均衡するよう信用リスクが金利に内包されるのであれば、信用リスクは存在しません。しかし、現実には(1)市場分断(需給の歪み)、(2)資本コスト(統計的に算出される期待損失額分の引当金計上)、(3)流動性(金融ショック時におけるデフォルト率の変化による売買取引コスト)の3要素によって信用リスクが高いほど総合収益の期待値は高くなります。従って信用リスクを取る事によって追加的に得られる科学的要素が投資機会になるわけです。例えば、資産担保証券は、裏づけとなる個別ローンを精査しなければ本質的な信用リスクを測定することができないため、構造の複雑性故に利回り水準が高くなります。またハイイールド債も、投資適格債券はフィデューシャリーの観点から合理的な投資先として資金が集まり易いですが、投資適格未満との境目では文化・社会的制約から需給が著しく悪化し、且つ、市場も分断されていることから、理論的な金利水準から著しく乖離します。
2. イールドカーブの活用:債券は保有していれば残存期間が短くなり、保有債券の利回りは時間の経過とともに変化していきます。スティープ化している期間の債券を保有すればロールダウン効果により価格が相対的に大きく上昇します。通常、右肩上がりのイールドカーブでは必ずしも純粋期待仮説が成り立つわけではなく、各年限における投資家層や発行体の資金需要の相違から市場が分断されているため、残存期間によってイールドカーブの傾斜が異なるため、投資機会を見出す必要があります。
3. コンベクシティ:資産担保証券への投資もニッチな投資機会の一つです。普通債券は金利が低下(上昇)すると元本の回収期間であるデュレーションは長く(短く)なるため、価格の上昇(下落)速度が加速(減速)しますが、資産担保証券はコーラブル性を有することから、経済成長率が高く金利が上昇する局面では堅調に推移する傾向があるため、資産担保証券は投資機会になります。然しながら、例えばMBSは金利が上昇(低下)すれば、ローンの借手は借換え意欲が低下(増加)し、繰上げ償還のペースが減速(加速)するため、ネガティブコンベクシティ(上に凸)になる点には留意が必要です。故に、負のコンベクシティを小さくし、ポジティブ(正)な価値を生み出すよう工夫を凝らす必要があります。例えば、古くに発行され依然として期限前償還がなされていないMBSを組入れる事、或いは、期間の短い債券と期間の長い債券を集中的に保有するダンベル戦略を取る事で理論的には対応可能でしょう。
上記を活用した債券運用は、認知度や流動性が高く本源的価値から割高な国債を運用する本邦銀行や年金基金の運用と比較すれば、市場規模・専門家の観点から俯瞰すればニッチな投資機会です。然し、本邦金融市場では国債以外で運用する土壌が未発達なのも事実です。このような状況を打破し、投資機会を適切に捉えるためには各投資主体夫々が体現的に躬行実践し、より魅力的な投資機会を導き出すよう毅然として秩序が維持されなければならないでしょう。
(文責:西山 和宏)
当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。
詳細レポートをご希望の方は、下記アドレスまでお気軽にお申し付けください。
HCアセットマネジメント運用部:research@hcax.com
■セミナーで実施したアンケートの集計結果
Q1 債務を前提とした資産運用に当たって、リスク管理上、重要だと考えられる点は次のどれでしょうか。最も重要だと思われるものを一つだけお選びください。
1.資産と債務の時価変動をできるだけ一致させること。
2.資産側のキャッシュフロー収入と債務側の支払キャッシュフロー額をできるだけ一致させること。
3.債務構造の変化に対応するべく、環境の変化に合わせて柔軟に資産構成を見直すこと。
4.その他
5.無回答
2.資産側のキャッシュフロー収入と債務側の支払キャッシュフロー額をできるだけ一致させること。
3.債務構造の変化に対応するべく、環境の変化に合わせて柔軟に資産構成を見直すこと。
4.その他
5.無回答
Q2 債務を上回る付加価値を実現するためには、どのような資産構成を目指すべきだと思われますか。最も重要だと思われるものを一つだけお選びください。
1.債券(債権含む)を中心とした運用の中で、金利リスク(期限前償還等のオプション含む)の多様化を図ること。
2.債券(債権含む)を中心とした運用の中で、金利リスク以外のリスク(信用リスクや保険等の特殊リスク含む)の多様化を図ること。
3.株式など、債券(債権含む)以外の投資対象を組み入れること。
4.その他
5.無回答
2.債券(債権含む)を中心とした運用の中で、金利リスク以外のリスク(信用リスクや保険等の特殊リスク含む)の多様化を図ること。
3.株式など、債券(債権含む)以外の投資対象を組み入れること。
4.その他
5.無回答
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