2014/10/29開催「第2回産業金融フォーラム」レポート(1)第1部・基調講演
HCセミナー
松永 明 氏 経済産業省 大臣官房審議官(経済産業政策局担当)
現在、経済産業省はグローバル化や人口減少といった内外の構造変化の中で、中期的な好循環構造を作り出すために日本経済を「グローバル経済圏」と「ローカル経済圏」の2つに区分し、それぞれの課題と処方箋について、「一国二制度」的なアプローチで検討を進めている。今回は、特に前者についてグローバルな競争下で、金融との関わりの中で我が国産業の収益力をいかに高めていくかを論じたい。
(1) 現在の我が国産業における問題点
我が国企業の収益性は、デフレ状況や為替レート等のマクロ環境の改善により、一定程度改善してはいるものの、1955年に「もはや戦後ではない」と謳われ1979年には「Japan as No.1」と称賛された時代と比して米国および中国に後塵を拝している。よく知られているように、日本企業の収益性は、株価収益率で見ても売上高収益率で見ても、欧米の競合他社に比べて非常に低く、原因は諸説あるが、我が国企業が高度成長期以来の売上高や市場シェアの量的拡大を目指すビジネスモデル(垂直統合型・ピラミッド型)からの転換が遅れていることを問題として掲げている。換言すればグローバル競争が激しくなる中でこれまでの価値創造のパターンとは違う新しい価値創造パターンに着目したビジネスモデル、ひいてはベンチャーの積極的活用といった企業の大胆な経営革新が必要と認識している。
(2) 新たな価値創造パターン
そこで、グローバル化の進展、情報技術の高度化、消費者の価値観の多様化といった環境変化に対応し、「規模・多様性」と「スピード」を同時達成し高い収益を確保する新たなビジネスモデルとして、6つの典型的なパターンについて紹介する。
(a) グローバルニッチトップ型:高い技術力を活かし、「限定的」な専門事業分野において世界市場で高いシェアを獲得(例:村田製作所、堀場製作所等)。
(b) 開発・生産分離型:競争優位性の高い工程に特化し、生産は他に委託して効率化を図る(例:Qualcomm等)。
(c) ソリューション型:単に製造販売して収益を挙げるのではなく、その後のアフターサービスまで提供することで顧客を囲い込み、長期安定的な収益を獲得(例:コマツ製作所等)。
(d) マーケティング主導型:BtoC分野で製販一体又は連携によって、サプライチェーンに消費データを迅速にフィードバックすることによって、製品、価格支配力、サプライチェーンの効率化を実現(例:ユニクロ、GAP等)。
(e) ファンド型:自社内での技術開発にこだわらず、技術力と収益力を持つ他社の事業の買収等、事業ポートフォリオを最適化し、規模と収益双方での成長を実現(例:メガファーマ等)。
(f) プラットフォーム型:Googleのように、バリューチェーンの中で模倣できない基幹的なサービスを独占的に提供する一方、周辺サービスへの他社の参入・競争を促進することで、基幹的サービスの価値を向上根幹の収益を継続的に獲得。
上述が全てではないが我が国企業の収益力の向上を図る上では、このような「価値創造のパターン」に着目した取組みが求められている。ビジネスモデルの転換と「稼ぐ力」の向上には、企業自らの大胆な経営革新が必要であるが、同時に、収益性の向上は資本コストを意識することと表裏一体であることに鑑みれば、こうした企業の取組みを支援し適正なガバナンスを機能させる産業金融の役割も重要である。
(3) 変革の時代に向けた新たな技術潮流
こうした新たな価値創造のパターンを確立するにあたり、新たな技術潮流であり変革を迎えているビッグデータを念頭に置かねばならない。従来所詮テキストデータと人間が作成した画像データがネット上にあって活用可能となっていたものが、これからは森羅万象をデータに蓄積し活用するという変革が行われつつある。情報通信機器の性能向上、クラウドコンピューティング等の普及により、ネットワークを通じ、時々刻々と様々な目的でビッグデータが収集・蓄積されており、近年、こうしたビッグデータの利活用により、新産業、イノベーション等の創出が期待されている。人間が経験の中で吸収できる知識量を超える記憶容量がビッグデータには存在し、蓄積データを元に解析およびパターン認識ができるよう技術革新がなされ、既に欧米では活用が始まっているのは記憶に新しい。一方で、我が国においては、経済産業省が利活用促進を図る中、中長期的にビッグデータが業績に貢献する可能性を秘めているという認知がまだ行き届いておらず、収益力拡充のために既存の価値創造パターンから大胆なモデルチェンジがなされていないのが現状である。
(4) 我が国産業発展のために
上述を踏まえて、我々は内外の産業が直面する潮流変化について分析を進め、上記の6つのパターンにとどまらず価値創造パターンについて検討し、グローバル・ベンチマーク活用に向けた施策を議論している。具体的な着眼点としては、産業金融の一体改革の中で、狭義のコーポレート・ガバナンスにとどまらず、産業金融を仲介・提供する各プレーヤーが、企業の経営改善や事業再生を促進する観点から適正なガバナンス又はそれを補完する機能を発揮し、企業の収益力の向上を支援すると同時に、そのリターンを家計まで還元するという、「インベストメント・チェーン」での好循環の実現に向けたチェーン全体の改革推進という視点である。現状を踏まえれば、産業と金融が目線を一つにし、対話を通じて共通指標を用意する必要があるのではないかという問題提起に他ならない。こうした産業と金融の対話によって結集したグローバル・ベンチマークの設定による収益力向上に向けた取組みや新陳代謝の後押しが、ある程度先のフォワードルッキングを見据えながら長期の時間軸の中で収益力を判断する材料となれば、まさにチェーン全体の改革となり得る。
一方で、グローバル競争力の拡充も重点課題だか、少子高齢化・人口減少の進展によって、地域の持続可能性は危機的状況にある日本経済において、地域ガバナンスの改革を通じて、より利便性の高いサービスを消費者へ供給していくことが必要であり、産業の新陳代謝が詳らかになり事業障壁に対してイノベーションが起きる環境を整備していく必要がある。
このようにローカル経済圏には人口減少に直面する地域経済の持続可能性をいかに確保していくか、グローバル経済圏には我が国産業の収益力をいかに高めていくか、を躬行実践する上で我が国産業が如何に稼ぐ力を産業と金融の一体的な改革の中で実現するかが求められる時代になっているのではないだろうか。
以上
(文責:HCアセットマネジメント株式会社)
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