2014/10/29開催 「第2回産業金融フォーラム」レポート(2)―第1部パネルディスカッション―

HCセミナー


■パネラー(写真右から)
桐山 毅 :株式会社日本政策投資銀行 産業調査部長
仲谷 善文 氏 :株式会社ジェイデバイス 代表取締役社長/株式会社ジェイデバイスセミコンダクタ 代表取締役会長
田口 弘 氏 :株式会社エムアウト 代表取締役社長
<コーディネーター> 坂本 忠弘 氏 :地域共創ネットワーク株式会社 代表取締役



<第1ラウンド>

 
(坂本氏)
今の日本には改善・改良を超えて、新たなビジネスモデルを生み出すことが望まれている。ご自身のご経験や取組みを踏まえて新たな価値を創造するビジネスの創出についてお伺いしたい。
まずはエムアウトの田口さんだが、田口さんはミスミの創業者であり、現在はベンチャービジネス応援のエムアウトを経営されている。発想の転換という点を含めて田口さんよりご発言ください。


(田口氏)
まずはエムアウトの紹介から始めたい。エムアウトはスタートアップファクトリーであり、新規事業の起業を量産するファクトリーを目指す。すなわち事業を作って、その事業を売って稼ぐことである。これまでの産業は戦後何もない時代から始まり、物を作ることが最優先され生産者中心・起点のプロダクトアウトの発想だったが、バブル崩壊後はこの構造が180度変わってしまった。消費者中心・高度情報化社会になり、その結果消費者中心・起点のマーケットアウトのビジネスに転換することが望まれている。
以前私がミスミを起業した当時は、工具の販売店は機械工業メーカーの代理店として商品の販売を行っていた。それに対して消費者の欲しいものを消費者に代わって調達する購買代理店という発想のビジネスモデルを作った。小売業がユーザーの欲しいものを作るために製造業を行うということにもなる。ユニクロのビジネスモデルでもあるSPA(Specialty Store Retailer)もその一例である。要するに、発想の転換によって今までなかったようなビジネスに生まれかわる機会が多々あると考えている。この視点、すなわちマーケティング主導でベンチャー業界を活性化し、新しいものを作りたい。

(坂本氏)
ジェイデバイスの仲谷さんをご紹介する。仲谷さんはご自身の会社を垂直統合モデル(下請け)から水平統合モデルへと転換を果たし、半導体製造後工程における国内最大、世界でも5指に入る会社に育てた方。

(仲谷氏)
ジェイデバイスでは半導体の後工程として、ウェハーを受け取った以降の、チップの切り出し、配線、パッケージングまでを行っている。売り上げは1,000億円規模で従業員は4,500名いる。新しいビジネスモデルという点では、日本における垂直統合型モデルに対しグローバルベースでは水平統合型への転換が進んでいた。ジェイデバイスは2008年までは東芝の下請け企業で、売上40-50億円程の会社だった。世界の水平統合型への流れを見ていろいろな金融機関とのソリューションを行いM&Aなどで約20倍の規模まで成長を果たした。それまで半導体後工程事業は日本でできない、もうからないといわれてきた。マーケットを勉強してソリューションを提供することで、発想の転換で付加価値を生むことを経験している。需要家の動向などを読み取り、それに合わせたパッケージングのソリューションを提供、またはユーザーとの共同開発により、今までコストであったものを付加価値に変えることができる。

(坂本氏)
日本政策投資銀行は、通常の銀行の枠にとらわれない投融資を行っているが、桐山さんより政策投資銀行での取組みをお聞かせ頂きたい。


(桐山)
日本政策投資銀行の産業調査部は、調査とコンサル業を合わせて顧客のニーズに応えることを行っている。ビジネスシーズの発見と展開について、主に非製造の海外展開を例にお話ししたい。日本企業にとってのシードとして、海外展開がチャンスになるということが多々ある。海外のマーケットでユーザーになった際に日本のものでないと不満だというニーズに気付く。クール・ジャパンといわれるのは、日本の普通が外国人にとってはクールに感じるということである。
例えば、ある日本のボールペン会社は先進国の市場を席巻している。消せることはもとより、後ろの紙に映らない、最後まで書けるといった日本では当たり前のことをリーズナブルな価格で提供することが受けている。日本では当たり前のことが海外では価値がある、このズレの発見が発想の転換に結びつき、創造の一ステップになる。次に大事なステップはこれをビジネスモデルにできるか否かという点であるが、日本人は得意ではない。
例えば、ニューヨークで日本食レストランは1万件あるが、その中で日本人が経営しているのは1%の100件程度といわれている。本格的な日本人経営のレストランが半年でクローズしたということがある一方で、ファンドを後ろ盾にした海外の「なんちゃって」日本食レストランが多店舗展開を果たしている。日本人経営の本格的な日本食への思いといったものを他の企業との連携を含めてビジネスモデル面でサポートすることが金融やコンサル業に求められている。

<第2ラウンド>

(坂本氏)
革新により成長が始まるとして、成長していく中でも、様々な課題があるものと思われる。成長を加速させていくために必要なこと、あるいはビジネスモデルの進化について、お考えを伺う。
まずは、スタートアップと価値創造を手掛けている田口さん。

(田口氏)
成長を加速させるのはベンチャー企業、スタートアップ会社であると思う。既存大企業と比べて有利と不利があるが、人材、資金、ノウハウ、ブランド、信用力については既存大企業が断然有利である。ベンチャーが唯一有利なのは、しがらみが全くないことであり、これはベンチャー企業の特権だ。大企業には確立されたものがあるので、やりたくてもできない仕事がたくさんある。また大きなビジネスでの転換は大企業ではできない。これはベンチャーがやることだ。ベンチャー業界の活性化が重要である。今のベンチャー企業のシステムは米国シリコンバレー型の輸入である。これを日本型に変え、日本の強みを生かすことが大切である。すなわち個人では強くないが集団で強い、集団でファクトリーとして新規事業開発を行うことである。日本にはやれることがたくさんあり、ベンチャー企業をどんどん輩出することで成長戦略にも貢献する。

(坂本氏)
2009年仲谷マイクロデバイスからジェイデバイスと名前を変えた頃からM&Aで発展し、垂直型下請け企業から脱出できた過程の中でどの様なブレークスルーがあったのか。

(仲谷氏)
2008年以前は下請けで、安い人件費のみが付加価値の源泉だった。住友商事を経て父親の跡を継ぎ社長になった。その当時財務状態が健全で、EBITDAの5-6倍の借金はできるということと、海外の後工程を視察し、半導体後工程企業としての明確な視点ができたことからファイナンス会社に相談してM&Aを行い体制強化を進めてきた。日立、NEC等吸収した企業の従業員にターゲットとビジョンを与えることで発想の転換を促し、成長を目指した。事業規模の拡大によるスケールメリットを生かし、ビジネスモデルを明確にすることで、単なる地方工場だったものがグローバルレベルの企業に成長した。情報収集によってあるべき姿をイメージし、実現に向けた仮説を立て、試行錯誤でベストウエイを目指してきた。

(坂本)
事業モデルの構築・転換とM&Aによる連携、掛け算効果があったということだが、お二人のお話を聞いて桐山さんはいかがか。

(桐山)
掛け算の力を持つという意味では投資ファンドの存在は重要であると思う。価値の訴求をどこに持たせるのかといったビジネスモデルの構築においても投資ファンドの活用は時間を買う効果が出る。また、post merger integration(統合後の企業文化の統一)においても有効な役割を果たすことができる。今後日本の成長のためには乗っ取る乗っ取られるといった発想ではなく、仲人的ファンド、M&Aを積極的に活用してもらいたい。

<第3ラウンド>

(坂本氏)
政府は更なる構造改革に取り組んでおり、産業界・事業者サイドにおいても、事業再編、グローバル化、高齢化対応、女性登用等のダイバーシティ経営、官民連携など、いろいろな動きやテーマがあるが、このような中で、多様な成長と投資の機会について、お考えを伺いたい。
仲谷さんは水平モデルを構築するに際し、コミットメント、付加価値、海外営業力といったことについて悩み相談されたと思うが、投資リスク、役立つパートナーとは何かについてお聞きしたい。

 (仲谷氏)
顧客動向を見ながら投資を行うため、設備投資でリスクを取るようなことはあまりない。R&Dの強化にはある程度リスクを取っている。半導体後工程のビジネスでは注文が来てから必要な設備を購入することが常である。
(連携の進め方に関して)いろんなところと組む連携が重要だと思う。車載用であれば大手自動車メーカーとも共同開発している。水平統合モデルへの転換をめざし試行錯誤しているときには、ある金融会社(ファンド)との巡り合わせがありがたかった。担当者は半導体の後工程業界の勉強をしてくれ、ストラテジーやソリューションを提供してくれた優秀なパートナーだった。コストダウンや貴重な情報によって成長加速ができた。

(坂本氏)
田口さんには、顧客とのマーケットの近さによる実際のスタートアップでの成長と事業展開の可能性についてお伺いしたい。

(田口氏)
生産サイドのプロダクト中心ではなく、マーケットアウト、すなわちマーケットニーズがビジネスになるということが非常に重要である。ベンチャーもプロダクト中心のものが大半で、これでは、結果的にやってみなければわからないということになりかねない。一方、マーケットを特定すると具体的になる。事例の徹底分析、市場に入っての検証が大切。確実に需要がある分野を特定できれば、新規事業は立ち上がる前に勝負が付いていると言えるほどだ。フェイスブックやツイッターもマーケットニーズから生まれた。新しく出てきて成功するビジネスはマーケットアウト型といえる。

(坂本氏)
人材あるいはそのキャパシティビルディングについてもお伺いしたい。

(田口氏)
人材については、会社中心から個人中心の流れがある。従来の人材紹介業はややもするとミスマッチな人材を紹介したほうが次の紹介ができるかもしれないといった根本的な問題点があるように思う。それは会社側(求人サイド)に立ったビジネスだからと言える。これからは就職したい人(個人起点)に視点を置いたいわば人材育成業への転換が進むものと思われる。

(坂本氏)
桐山さんはお二人の話を聞いてどう思ったか。

(桐山)
ビジネスを取り巻く個人が集合したネットワークの重要性が増してゆく。社内で人材育成をするのが不可能になってきた。ビジネスを取り巻く様々な立場の個人がオープンな立場で参加するネットワークを組織することが今後の日本の成長力にとって重要となる。海外ではメーカー、ユーザー、研究者、仲介者が様々な意見をぶつけあう職能型社会が定着しつつある。日本においても職能型社会への移行が望まれるし、そのようなネットワークからビジネスの話も出てくる。

(坂本氏)
創業者的気持ちで関わった仲谷さんの人材育成は?

(仲谷氏)
人と人とのネットワークが重要であるという点で一つのエピソードを紹介する。私の場合、臼杵製薬の後藤氏とたまたま同じ高校の出身で、その縁で優秀な金融マンを紹介してもらい、事業支援とアイデアからM&Aまでお世話になった。一人でできることは少ない。人縁でレバレッジを効かせることが必要。

(坂本氏)
田口さんはどのような人材育成をされているか。

(田口氏)
日本においては労働者の移動が極めて少ないように思うが、今後はもっと活発な移動が望まれる。情報化社会、知価社会では、個人も転職することで自己の知見を広げることができるし、企業も中途採用によって新しい経験を持った人材を得ることができる。今後は労働力の移動促進と企業側での受け入れ態勢造りの両立が望まれる。

<第4ラウンド>

(坂本氏)
本フォーラムのテーマである、成長を加速させる金融に関して、金融機能の現状や期待することについてご意見をいただければと思う。






(仲谷氏)
金融機関には目一杯お世話になった。非上場企業の時から信用力確保のためにコミットメントラインをもらい、レバレッジドリースやM&Aを行ってきた。2009年以降は海外ファンドとの協調で最新の金融技法を駆使してM&Aを進めてきた。この経験の中で思うことは、金融側でも例えば半導体の後工程といった専門的な知識を経営者と同じレベルまで持てるかという点である。メガバンクには専門家がいるが、地銀レベルでもネットワークを活用して顧客のビジネスの中身をよりよく理解すれば、リスク審査の向上にも繋がると思う。

(田口氏)
金融は他産業と結びついて付加価値を生むことができる。制度的な制約はあるかもしれないが、銀行の持っている人材や資源をわれわれ同様スタートアップ企業に向けることでリターンを取れる機会があるように思う。

(坂本氏)
事業を知ってこその企業金融との話が出ていますが、桐山さんはいかがか。

(桐山)
規制金利の時代であれば懐も深く、銀行単体で受け止められたが、様々な二ーズがもはや単体では受け止められなくなっており、金融機関にとっても連携が必要になっている。企業をよく知る地域金融機関と、テクノロジー型のファイナンス専門会社による連携が望ましいのではないか。米国ではインフラプロジェクトなどを対象にキャピタルリサイクリングという考え方でプロジェクトの進行度合いに応じてそのリスクにあった金融機関が連携するケースもある。様々なビジネスニーズに合わせて、金融機関が連携を取ることが必要。

(坂本氏)
このパネルディスカッションのまとめをさせてもらう。連携が大きな力になり、プロフェッショナルなコネクションが価値創造に大事であり、それらがビジネスモデルとプロジェクトメーキングのきっかけになりうる。顧客ニーズを捉えることがキーワードで、そのことによりうまくいかないリスクを小さくすることができる。同時に2部のテーマである金融においてもキーワードであり、金融機関の顧客である企業のその先にある顧客のニーズに敏感になることで、リスクを抑えてリスクマネーを提供できる。

以上

(文責:HCアセットマネジメント株式会社)



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