2017年2月7日(火)開催 HC資産運用セミナーvol.110『企業経営と年金ALM』セミナーレポート

HCセミナー

■動画ダイジェスト



 フィデューシャリー・デューティーとは、専らに受益者の利益のために働くべし、という理念である。年金の運用を考えるとき、この理念は決して投資運用業者だけのものではない。年金の運用は母体企業・年金基金・投資運用業者によって行われる。この中にフィデューシャリー・デューティーの理念を取り入れるならば、企業は株主(投資運用業者)のために、投資運用業者は年金基金のために、そして年金基金は加入員・受給者のために、という連鎖が生まれる。従って、冒頭のフィデューシャリー・デューティーにおける受益者とは、最終受益者である加入員・受給者であり、年金の運用に関わるものは、一体として、加入員・受給者に対して責任を負うものとなる。
 
 フィデューシャリー・デューティーが日本の忠実義務と明確に区別される点として、補償されるべき顧客の損失の範囲が広いことが挙げられる。日本の忠実義務においては、業者が自己もしくは第三者の利益のために、顧客に積極的な損害を与える事態についてのみが、忠実義務違反とされ、顧客の不当な損失とされていた。一方、フィデューシャリー・デューティーの下では、従来の忠実義務違反に該当しないことは、満たされるべき最低条件(ミニマム・スタンダード)であり、業者に対しては、更にその上に、合理性を欠いた高い報酬を徴収していないこと、そしてベストを尽くす義務(ベスト・プラクティス)が課される。ミニマム・スタンダードの性質が是か非かの境界である以上、不動のものであるのに対し、ベスト・プラクティスの追及には限界がない。故に、フィデューシャリー・デューティーと単なる受託者責任とは全く異なる概念なのである。

 通常の人事制度では、入社直後の未熟な人材に対しては、報酬を上回る働きは期待せず、その後人材が熟練していくにつれ、報酬を上回る働きを求めることで、採用初期の先払い報酬を回収する仕組みとなっている。もし先払い報酬を回収する前に人材が辞めてしまえば、企業にとっては損失である。このとき、熟練した人材の引き留めとして退職金制度が働く。報酬が熟練にしたがってゆるやかな上昇になるのに対し、退職金の支給額は、熟練にしたがって急激に上昇する。現在、人材の雇用において、長期勤続を促進する退職金等の給与の後払いが持つ魅力は薄らいでおり、それゆえに企業もその点に注力しなくなっている。日本の経済成長のためには、高い付加価値を持ったものを作れなければならず、そのためには熟練した人材の力が必要だ。今一度、雇用政策の工夫が求められる。

 投資教育を考えるとき、その根底にあるべきは、顧客本位である。顧客本位とは、顧客の真の利益を考えることであり、それは必ずしも顧客満足とは一致しない。顧客が身の丈に合わない運用手法を選択するならば、止めさせるというのも顧客本位である。
 確定拠出型の年金制度において、投資教育が効果を発揮するには、従業員の理解を得ることは不可欠だ。公的年金がもはや持続可能でなく、自助努力による資産形成をせざるを得ないこと、預金から投資信託へと資金が移動して資本市場規律が働けば、産業構造の改革がなされ、それは雇用の安定、さらには経済の成長へとつながり、最終的に所得の増大に反映されるという一連の流れが見込まれており、この相互利益の実現のためには、確定拠出の制度が必要なのだということを、従業員に納得をしてもらう必要がある。
 若い世代に対しては、顧客本位に則せば、今のうちから資産形成について考えてもらうことが望ましいが、実効性がないだろう。資産形成への意識というものが、生活規律・消費規律・貯蓄規律を経た先に働くことが前提にあるからだ。



以上

(文責:杉本・多田)

当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。






■セミナーで実施したアンケートの集計結果

Q1.確定給付において、規約型と基金型、受益者の利益保護の視点、企業責任の明確化、資産運用の意思決定等の管理運営の利便性など、総合的に勘案したとき、どちらが優れているでしょうか。敢えて一方を選ぶとしたら、どちらでしょうか。

1.規約型
2.基金型

Q2.企業年金の資産運用の目的として、最も重視すべきことは、どれでしょうか。いずれも重要な論点であるにしても、敢えて一つだけを選ぶとしたら、どれでしょうか。

1.受益者の利益のために資産を保全すること
2.企業会計上の影響を最小化すること
3.資産運用の付加価値により、年金退職金費用を削減すること

Q3.企業年金の資産運用において、前提にされている世界経済の展望や諸仮定は、企業経営において前提にされているものと、どのような関係にあるべきでしょうか。

1.基本的に同じであるべき
2.全く無関係に独立に設定されるべき
3.リスク分散の見地から基本的に反対の方向にあるべき

Q4.日本版スチュワードシップコードとフィデューシャリー・デューティーによる企業年金と投資運用業のガバナンス改革、コーポレートガバナンス・コードによる企業のガバナンス改革の連鎖から資本市場改革が成り立ちます。ようやく動き出したこの改革ですが、資本市場への参加者として、現時点での達成度はどの程度であると思われますか。


<クリックで拡大>
1.すでに達成された
2.7割程度達成している
3.5割以下の達成度
4.まったく進んでいない


アンケート結果をPDFでダウンロードすることが可能です。