2017年8月22日(火)開催 HC資産運用セミナーvol.116『事業価値と資本構成』セミナーレポート
HCセミナー
■動画ダイジェスト
企業価値は事業価値と一致するか。これは、以前よりある大きなテーマである。一般的に上場企業であれば、ここで問題になるのはコングロマリット・ディスカウントである。株主の論理からすれば、少なくとも事業価値の合計と企業価値が一致していないとおかしいということである。
日本の経営者は事業経営では優れた人は多いが、出身事業部の経験に引っ張られ、客観的になれない等の弊害が多いのではないか。こうした背景もあり、企業金融では、最終的に企業内部の采配で事業に資金が配賦され、個々の事業のリスク認識や事業性の評価が甘くなりうる。その点事業金融は、事業各々の事業性の評価のもとで資金調達が行われるため、ガバナンスに対する影響度が大きい。
では、事業連結する意味とは何かというと、産業連関の一貫性によるリスク分散が図れることであろう。たとえば都市銀行だと、銀行業、証券業、投資銀行業ではまったくリスクが異なってくる。投資銀行業では現在、自己勘定取引を大幅に抑制しているため、以前ほどボラタイルではなくなったが、バンキングに比べれば遥かにボラタイルである。投資運用業は自己資本をまったく使わない。投資銀行業は、それなりの自己資本を使っている。バンキングは自己資本を非常に使う。そうすると全部の事業毎にROE、つまり資本利潤率が異なってくる。加えてリスクのパターンが異なる。故に、フィナンシャルグループとしてリスク分散を図るのである。これが、代表的なコングロマリット正当化理由であるといえる。ただ、これにも当然有力な反対がある。それは、資産運用業や投資家の世界が拡大していることで、投資家自体がポートフォリオでリスク分散しているので、企業レベルでリスク分散する必要はないのではないかという純粋な疑問である。
企業価値と事業価値を考えると、バランスシート(以下、BS)の資産勘定の資産を稼働させてキャッシュを生むのが企業(事業)活動の定義である。
ネットキャッシュを生まなければ定義上企業ではない。そのネットキャッシュの現在価値が企業価値となるわけである。企業が持っている資産サイドに着目して、企業が生み出すキャッシュの稼得力を分析して、企業価値を計測し、その企業価値に基づいて金融をつけることを事業性評価といっているのである。これは企業が事業の集合であるという前提の上にある。
一方BSの右側は資本構成といい、これは負債勘定と資本勘定からなっていて、企業は事業を営み、生み出したキャッシュをステークホルダーに分配することが義務付けられている。その分配する仕組みを資本構成という。理論的に資本構成から分配される利息配当金等の合計の現在価値は投資価値と一致するはずである。一致するからこそBSといわれているのである。一番分かりやすいのは固定した負債価値であり、その負債価値を事業価値から引くと、残りが株式価値となる。
事業価値は変動する。量が一定でも販価が下がれば、事業価値は下がる。原価が上がればネットキャッシュは減る。故に、当然事業価値は減るのである。また、会計的キャッシュを生む資産が資産であるから、キャッシュを生まない資産は資産ではない。ネットキャッシュが半分になれば、当然資産価値も半分になる。会計認識の問題として、ネットキャッシュの減少は巨額な減損として現れ、会計的債務超過として現れる。しかし、だからといって、残った事業キャッシュは債務超過でも別に問題ないのではないか。例えば、東芝を原子力事業とその他事業に分離すれば、原子力事業を除いた東芝の事業自体は素晴らしいものではないのかという疑問である。
本来の金融は、投資すべき事業を探し、その事業に投資するにはどういう方法で投資すべきかを考えるために、事業キャッシュフローの源泉の厳選をするのではないのか。プライベートエクイティはこの考え方が基盤である。なぜなら、プライベートエクイティ投資というものは事業そのものに100%投資するから、事業投資と株式投資とに矛盾がないからである。
東京電力自体は卓越した企業(事業の集合)であるが、東電の株式価値には福島の補償価値が含まれている。それは、東電のキャッシュフローから払っているからであり、東電から事故補償事業、原子力事業を外して投資したいという投資家からの強い要求がある。こういう背景があり、必然的に東電のファイナンスの構造は基幹送電と火力発電とに分離していく。そして、この二つの事業は資金調達の中核事業ユニットとなる。これは必要に迫られて、実践される金融の高度化ではないだろうか。企業金融は事業金融に解体し、さらに事業金融はオブジェクト金融に解体していくのである。
企業統治とオブジェクトファインナンスの問題は、企業の内部統治によって適正な資本額を事業に配布し、適正な資本コストを事業から差引き、そしてそれを投資家に還元すれば、全く事業金融が必要ないことがわかる。完璧なコーポレートガバナンスのもとではファイナンスの手法に関わらず、投資家のリターンは同じになるからである。しかしこれは、東電や東芝といった例のように非現実的である。その非現実的なガバナンスに大きな影響を与えるのが、オブジェクトファイナンスである。これは事業を営む上で何が必要なのかという目的へ遡及していく金融であり、企業(事業)と投資家との間でガバナンスが図られていくための大きな要因となりうるのである。
以上
(文責:森脇・大山)
当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。
■セミナーで実施したアンケートの集計結果
理論的に、企業が創出する事業キャッシュフローの現在価値、即ち、企業の事業価値は、企業が資本構成を通じて分配する利息配当金(および税金)の現在価値、即ち、企業の投資価値とは、一致します。したがって、事業価値から、資本構成上の株式以外の全負債の現在価値と、税金の現在価値を引くと、残りが株式価値(株主配当の現在価値)になるはずです。さて、そうなりますと、理論的には、株価上昇を規定する要因は、概ね、三点の考え方の方向へ集約されるのだろうと思われます。すなわち、①インフロー(売上)を増やす(これを仮に売上至上主義と呼びます)②アウトフロー(コスト)を徹底的に管理する(これを仮にコスト管理主義と呼びます)③事業価値の維持を前提に、株式価値の最大化を目的に資本構成を最適化する(これを仮に財務管理主義と呼びます)もちろん、経営課題は、どれか一つを選択することではなくて、三要素を適切に均衡させることです。
Q1. さて、日本企業の経営の一般的傾向として、三要素の均衡を考えたとき、敢えて改善点があるとしたら、どこでしょうか。以下のなかから、一番近いとお考えになるものを、一つだけお選びください。
1.日本経済が低成長に転じた後も、売上至上主義的経営方式から脱却できず、コスト管理面、財務管理面の経営技術に、弱点がある。
2.低成長を前提にしたコスト管理的側面が強くなりすぎて、肝心の成長志向が弱くなってしまった。
3.財務管理において、株式価値重視の視点が弱すぎる。
4.特に大きな問題はなく、三要素は、日本的に、それなりに均衡している。
5.その他
2.低成長を前提にしたコスト管理的側面が強くなりすぎて、肝心の成長志向が弱くなってしまった。
3.財務管理において、株式価値重視の視点が弱すぎる。
4.特に大きな問題はなく、三要素は、日本的に、それなりに均衡している。
5.その他
Q2. 東芝は、債務超過解消に向けて、半導体事業の売却を進めていますが、難航しています。これは、バランスシートの左側を使った資金調達ですが、他にも方法は考えられます。問題が発生した時点に遡ったとして、あなたが経営者だったら、どのような考え方をしますか。
1.事業売却がよい。
2.主力銀行団からの借り入れ。危機の時こそ頼りになる存在であってほしい。
3.メザニンでの調達。調達コストは高くなるが、優先課題を達成するためには止むを得ない。
4.増資。希薄化は進むが、最悪の事態は免れるので、株主も渋々ではあるが受け入れるのではないか。
5.その他
アンケート結果をPDFでダウンロードすることが可能です。
2.主力銀行団からの借り入れ。危機の時こそ頼りになる存在であってほしい。
3.メザニンでの調達。調達コストは高くなるが、優先課題を達成するためには止むを得ない。
4.増資。希薄化は進むが、最悪の事態は免れるので、株主も渋々ではあるが受け入れるのではないか。
5.その他
アンケート結果をPDFでダウンロードすることが可能です。
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