2017年12月19日(火)開催 HC資産運用セミナーvol.120『非流動資産投資の魅力』セミナーレポート
HCセミナー
■動画ダイジェスト
市場(パブリック)型モデルと関与(プライベート)型モデルの違いを説明する。歴史的に金融は不特定多数を扱うパブリック型が特殊で、相対で行うプライベート型が普通であった。実際に公開市場で取引できる会社の数はほんの一握りである。第一の相違は情報の非対称性で、パブリック型は公開情報が豊富だという思い込みがあるが、プライベートな関係では納得のいくまで情報を出させることができ、より情報の対称性に近づける。したがってリスク管理上もプライベートな関係性の方がよい。例えばビルを所有する場合、REITを通じて持つよりは、直接保有する方が情報量は圧倒的に多い。また社債と融資を比べた場合、前者はいやなら売るということになるが、リーマンショック時のリーマンの社債や東日本大震災時の東電社債では流動性は枯渇し売れなかった。社債はリスク管理上売れるからという理由で、かなり簡易なリスク管理で金融機関に購入されていたと推測されるが、融資は容易に売れないために入口のリスク管理はより厳格である。また劣後している社債がローンより金利が低く、これは流動性のプレミアムを払って割高なものを買っていることを意味する。ところが皆一斉に売ろうとする危機時には流動性は機能せず、プレミアムは無駄になってしまう。さらに時価は保有されているほんの一部の気配値や売買取引で決定されるため、ボラティリティが著しく大きくなる場合がある。プライベートなものであれば売れないから売ろうと思わず、このようなことにはならない。いずれも市場取引に依存したパブリック型モデルの問題である。
次にスルメ金融とイカ金融について話したい。企業の財務諸表等の公開開示情報は過去のもので、死んで干からびたスルメだということだ。投資家が知りたいのは生きているイカであり、未来への連続性・再現性である。コーポレートガバナンスコードは企業の連続性・再現性を担保するものである。金融庁は銀行に事業性評価に基づく融資を要請しているが、これはスルメに資金を貸すことではなく、イカに貸すことを要求しているということだ。もちろんスルメを分析することは必須であるが、事業への投融資においては生きている事業が将来生むキャッシュフローこそが重要であり、過去を示す干からびた財務諸表ではない。生きているイカを評価するには難しいし手間がかかる。社債を買う時に格付けだけを見て購入するなどは手抜き行為といえよう。株式でも社債でも生きたイカである企業を見なくてはならない。社債を買う時には融資と同様な審査を行うべきである。プライベートな関係性で投資をする場合には、プロとしてやらなければならないことはきっちりとできている。
市場が機能しなくなる可能性として、売りが売りを呼ぶプロシクリカリティがある。特にリーマンショックではバーゼル等のリスク管理規制の影響もあり、想定をはるかに超えてしまった。市場原理は売りは価格を押し下げ、買いを誘発することを想定しているが、実際には下がるとさらに下がる、あるいは上がるとさらに上がるということもある。日本の場合は銀行があまりに巨大で、したがって一斉に同一行動を取った場合に極めてプロシクリカリティが働き易い構造といえよう。
一般的に流動性が低く、信用リスクが高いものは金利が高い。表面的にわずかに高い+0.1や+0.2%の追加リターンを得るのに、極めて高い信用リスクや期間の極めて長いものに投資するのはどうかと思う。そうであれば、非流動性の対価を払って高い利回りを獲得するほうがよい。特に年金や財団は資金の性格上、流動性リスクをとれる。地銀や信金も預貸比率が目標に対して低いのであれば、融資と同様な非流動性リスクをとれるであろう。
REITはパブリックな投資主体である投資法人が、プライベートな投資対象である、例えば不動産に投資することである。この投資法人形態であるREITは拡大中で、不動産はホテルや倉庫に、さらに投資対象を船舶、航空機、森林、医療機器、病院、建機、インフラ、バス、エンジン等に拡大中だ。プライベートな投資対象をパブリックに持たせることで資金を呼び込んでいる。例えば不動産開発では開発した物件をREITに売却することで別の物件を開発することができる。しかしながら、ガバナンスはプライベートな方が圧倒的に優れている。資金調達を不特定多数のパブリックではなくプライベートな資金で賄っているからだ。日本は元々融資というプライベートな投資の大きい国であり、パブリックなマーケットはだんだんと大きくなってきたが、世界的にはパブリックからプライベートという流れである。日本の銀行はプライベートなローンのみでは範囲が狭すぎ、構造改革の中ではメガ・フィナンシャルグループのように、銀行業務から別の事業、例えば投資運用業、投信業、リース、信託へと力を入れている。金融制度改革の流れからは資金量は圧縮し、資金の回転率を上げることが求められている。そのためには金融機関も産業とともに働くことが必要であろう。回転率を上げる、すなわち資産を効率よく使うことは、シェアエコノミーの流れも同じである。
プライベートエクイティ・ファンドは弁護士、会計士、コンサルタントといったプロフェッショナルを一括・集中して供給し、それらの人的資源の効率的活用を行う。事業再編力はプライベートな形態のほうが大きく、日本政府は産業革新機構を作った。しかしながら、結果をみると官民ファンドは機能せず、金融プロフェッショナルは育たなかったといわざるを得ない。日本の事業再編は急務であり、民間のプライベートファンドへの期待は大きい。事実東芝は唯一プライベートエクイティ・アセットの調達で事業再編することになった。これはプライベートの方が意思決定時間が短いことによるもので、パブリックな調達であればこうはいかない。
プライベートなスキームの投資の場合、投資機会毎に投資ができるため、キャピタルコール方式にならざるをえない。その後元本が回収されるに従って分配を行う。したがってキャッシュフローとしてはちょっと面倒くさいことになる。しかし一つのプライベートファンドだけではなく、一定の間隔で様々なファンドに連続投資することによって、安定キャッシュフローを達成することができる。つまり非流動資産は構造化することで、安定キャッシュフロー化を達成することができる。長期運用における流動性とは売却できることではなく、安定キャッシュフローを生む仕組みに構造化することである。年金や財団は元本に手を付けないということが重要であり、元本からどの程度の流動性が生じるかということが重要である。金融機関も通常の経営状態であれば、元本の流動性は必要ない。一つのプライベートな運用期間を10年として、10年後のターゲット・ポートフォリオに向かって連続的に投資して7-10年かけて構築する。いったん構築すれば、そこから安定したキャッシュフローが継続的に得られる。プライベート投資は出てきたものを一つずつ積み上げて、長期にわたってポートフォリオを構築する必要があり、そこはパブリックとの違いである。アメリカの巨大なプライベートファンドが容易に巨額の資金を集めることができるのは、投資家が安定したインカムを生む巨大なプライベート用の資金の塊をすでに持っているからで、その点の金融の社会インフラが確立できているともいえる。一方で、日本ではそのような投資家の資金の塊はできておらず、作り上げることは急務だ。日本ではメガバンクがプライベートなものを多く抱え込んでおり、メガバンクのアセットライトなスタイルへの構造転換は不可欠で、その構造転換が日本のプライベート投資拡大の契機になるであろう。
当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。
■セミナーで実施したアンケートの集計結果
市場(パブリック)型モデルと関与(プライベート)型モデルの違いを説明する。歴史的に金融は不特定多数を扱うパブリック型が特殊で、相対で行うプライベート型が普通であった。実際に公開市場で取引できる会社の数はほんの一握りである。第一の相違は情報の非対称性で、パブリック型は公開情報が豊富だという思い込みがあるが、プライベートな関係では納得のいくまで情報を出させることができ、より情報の対称性に近づける。したがってリスク管理上もプライベートな関係性の方がよい。例えばビルを所有する場合、REITを通じて持つよりは、直接保有する方が情報量は圧倒的に多い。また社債と融資を比べた場合、前者はいやなら売るということになるが、リーマンショック時のリーマンの社債や東日本大震災時の東電社債では流動性は枯渇し売れなかった。社債はリスク管理上売れるからという理由で、かなり簡易なリスク管理で金融機関に購入されていたと推測されるが、融資は容易に売れないために入口のリスク管理はより厳格である。また劣後している社債がローンより金利が低く、これは流動性のプレミアムを払って割高なものを買っていることを意味する。ところが皆一斉に売ろうとする危機時には流動性は機能せず、プレミアムは無駄になってしまう。さらに時価は保有されているほんの一部の気配値や売買取引で決定されるため、ボラティリティが著しく大きくなる場合がある。プライベートなものであれば売れないから売ろうと思わず、このようなことにはならない。いずれも市場取引に依存したパブリック型モデルの問題である。
次にスルメ金融とイカ金融について話したい。企業の財務諸表等の公開開示情報は過去のもので、死んで干からびたスルメだということだ。投資家が知りたいのは生きているイカであり、未来への連続性・再現性である。コーポレートガバナンスコードは企業の連続性・再現性を担保するものである。金融庁は銀行に事業性評価に基づく融資を要請しているが、これはスルメに資金を貸すことではなく、イカに貸すことを要求しているということだ。もちろんスルメを分析することは必須であるが、事業への投融資においては生きている事業が将来生むキャッシュフローこそが重要であり、過去を示す干からびた財務諸表ではない。生きているイカを評価するには難しいし手間がかかる。社債を買う時に格付けだけを見て購入するなどは手抜き行為といえよう。株式でも社債でも生きたイカである企業を見なくてはならない。社債を買う時には融資と同様な審査を行うべきである。プライベートな関係性で投資をする場合には、プロとしてやらなければならないことはきっちりとできている。
市場が機能しなくなる可能性として、売りが売りを呼ぶプロシクリカリティがある。特にリーマンショックではバーゼル等のリスク管理規制の影響もあり、想定をはるかに超えてしまった。市場原理は売りは価格を押し下げ、買いを誘発することを想定しているが、実際には下がるとさらに下がる、あるいは上がるとさらに上がるということもある。日本の場合は銀行があまりに巨大で、したがって一斉に同一行動を取った場合に極めてプロシクリカリティが働き易い構造といえよう。
一般的に流動性が低く、信用リスクが高いものは金利が高い。表面的にわずかに高い+0.1や+0.2%の追加リターンを得るのに、極めて高い信用リスクや期間の極めて長いものに投資するのはどうかと思う。そうであれば、非流動性の対価を払って高い利回りを獲得するほうがよい。特に年金や財団は資金の性格上、流動性リスクをとれる。地銀や信金も預貸比率が目標に対して低いのであれば、融資と同様な非流動性リスクをとれるであろう。
REITはパブリックな投資主体である投資法人が、プライベートな投資対象である、例えば不動産に投資することである。この投資法人形態であるREITは拡大中で、不動産はホテルや倉庫に、さらに投資対象を船舶、航空機、森林、医療機器、病院、建機、インフラ、バス、エンジン等に拡大中だ。プライベートな投資対象をパブリックに持たせることで資金を呼び込んでいる。例えば不動産開発では開発した物件をREITに売却することで別の物件を開発することができる。しかしながら、ガバナンスはプライベートな方が圧倒的に優れている。資金調達を不特定多数のパブリックではなくプライベートな資金で賄っているからだ。日本は元々融資というプライベートな投資の大きい国であり、パブリックなマーケットはだんだんと大きくなってきたが、世界的にはパブリックからプライベートという流れである。日本の銀行はプライベートなローンのみでは範囲が狭すぎ、構造改革の中ではメガ・フィナンシャルグループのように、銀行業務から別の事業、例えば投資運用業、投信業、リース、信託へと力を入れている。金融制度改革の流れからは資金量は圧縮し、資金の回転率を上げることが求められている。そのためには金融機関も産業とともに働くことが必要であろう。回転率を上げる、すなわち資産を効率よく使うことは、シェアエコノミーの流れも同じである。
プライベートエクイティ・ファンドは弁護士、会計士、コンサルタントといったプロフェッショナルを一括・集中して供給し、それらの人的資源の効率的活用を行う。事業再編力はプライベートな形態のほうが大きく、日本政府は産業革新機構を作った。しかしながら、結果をみると官民ファンドは機能せず、金融プロフェッショナルは育たなかったといわざるを得ない。日本の事業再編は急務であり、民間のプライベートファンドへの期待は大きい。事実東芝は唯一プライベートエクイティ・アセットの調達で事業再編することになった。これはプライベートの方が意思決定時間が短いことによるもので、パブリックな調達であればこうはいかない。
プライベートなスキームの投資の場合、投資機会毎に投資ができるため、キャピタルコール方式にならざるをえない。その後元本が回収されるに従って分配を行う。したがってキャッシュフローとしてはちょっと面倒くさいことになる。しかし一つのプライベートファンドだけではなく、一定の間隔で様々なファンドに連続投資することによって、安定キャッシュフローを達成することができる。つまり非流動資産は構造化することで、安定キャッシュフロー化を達成することができる。長期運用における流動性とは売却できることではなく、安定キャッシュフローを生む仕組みに構造化することである。年金や財団は元本に手を付けないということが重要であり、元本からどの程度の流動性が生じるかということが重要である。金融機関も通常の経営状態であれば、元本の流動性は必要ない。一つのプライベートな運用期間を10年として、10年後のターゲット・ポートフォリオに向かって連続的に投資して7-10年かけて構築する。いったん構築すれば、そこから安定したキャッシュフローが継続的に得られる。プライベート投資は出てきたものを一つずつ積み上げて、長期にわたってポートフォリオを構築する必要があり、そこはパブリックとの違いである。アメリカの巨大なプライベートファンドが容易に巨額の資金を集めることができるのは、投資家が安定したインカムを生む巨大なプライベート用の資金の塊をすでに持っているからで、その点の金融の社会インフラが確立できているともいえる。一方で、日本ではそのような投資家の資金の塊はできておらず、作り上げることは急務だ。日本ではメガバンクがプライベートなものを多く抱え込んでおり、メガバンクのアセットライトなスタイルへの構造転換は不可欠で、その構造転換が日本のプライベート投資拡大の契機になるであろう。
以上
(文責:柳井)
当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。
■セミナーで実施したアンケートの集計結果
Q1. 平均的な年金基金にとって、流動性の低い資産の組入れに上限を設けるとしたら、総資産の何パーセントくらいが適当だと、お考えでしょうか。( )内に数値をご記入ください。
( )%
Q2. もしも、流動性の低い資産を投資対象として積極的に検討するとしたら、その魅力は、どのような点に、見出されるのでしょうか。一番近いものを、一つだけ、お選びください。
1.ユニークな投資機会にアクセスできる
2.相対的に、流動性の高い資産に比べて、割安である
3.時価評価による影響が小さい
4.債券や株式との相関が低い
5.運用者による付加価値(バリューアップ)を期待できる
6.その他
2.相対的に、流動性の高い資産に比べて、割安である
3.時価評価による影響が小さい
4.債券や株式との相関が低い
5.運用者による付加価値(バリューアップ)を期待できる
6.その他
Q3. 逆に、流動性の低い資産は投資対象として積極的に検討し難いと思われる場合、その主な難点は何でしょうか。一番近いものを、一つだけ、お選びください。
1.不測のキャッシュフローに備えた売却可能性が小さい
2.資産全体のリスク管理の観点で、売却によるリスク調整が困難となる
3.時価評価がなされないので、資産の適切な管理ができない
4.運用者の技術に依存する度合いが大きすぎる
5.成果が出るまでの時間が長すぎる
6.わかりにくい
7.その他
2.資産全体のリスク管理の観点で、売却によるリスク調整が困難となる
3.時価評価がなされないので、資産の適切な管理ができない
4.運用者の技術に依存する度合いが大きすぎる
5.成果が出るまでの時間が長すぎる
6.わかりにくい
7.その他
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