2018年6月19日(火)開催 HC資産運用セミナーvol.126『債券投資のニッチ戦略の魅力』セミナーレポート

HCセミナー
■動画ダイジェスト



 ニッチとは曲がったキュウリのようなもので、見た目に拘らない人にはお得で美味しい。価値観や事情は個々人で異なるが、価格は各事情の平均値になるよう決まる。ある人には割高、別の人には割安だ。また、一部の研究者しか知らない本のように、滅多に取引されないものは、正しく評価できるプロがいないため、価値と価格が乖離する傾向にある。
 社債において、格付けを取得したものと無格付けを比べれば、後者が安価になる。発行体側も、格付け取得コストはナンセンスと考えているが、本来であれば実態を見て取引すべきプロが、格付けを頼りに取引しリスク計上している現実がある。格付けに頼らない取引主体は、金融業界でも一握りだろう。本物のプロ同士の取引だけになれば、市場は効率化し、こうした余分なコストを引き下げることができる。
 住宅ローンでは金利変動時、NYのような高所得地域の住人は合理的に行動して借換えが進む一方、地方の人はそれほど敏感に反応しない。また借換えコストの低い米国の住宅ローンであっても、債務者属性変更があったものは借換えされずに残り続ける。非効率が生み出すニッチな領域には、魅力的な投資対象が存在する。
 バーゼルⅢのもとで会計上の理由によって、本来売却すべきでない資産を売却せざるを得ない事例のように、投資家の行動が何らかの制約を受けることで生じる魅力的なニッチ領域もある。またIRRBBといわれる、金利水準の不利な変動が銀行勘定のポジションに影響することで発生する銀行の資本および損益に対する現在ないし将来生じる恐れのあるリスクを踏まえたストレステストでは、巨額の自己資本を積むよう求められるが、経済的にペイしないことは明らかだ。この場合は金利リスクを取らない選択が合理的で、ニッチ戦略を用いれば金利リスクを抑えながら付加価値を生むことができる。
 債券はインカムを生み出す投資対象であり、インカムが増える金利上昇は良いことである。金利循環を前提におくと、金利上昇時はデュレーションも長期化し、金利下落時は短期化するため、自然とマイナス運用を避けながら、収益を金利に遅行して追随させることが可能になる。
 古くから言われる債券運用の王道として、短満期ロールダウン運用と並ぶのが、イールドカーブの上に出ている銘柄を買って、下に位置する銘柄を売る手法であり、金利リスクをとらない運用である。1取引あたりの利益が小さいため、レバレッジを掛けることになる。
 債券に付随する金利以外の特性として、コンベクシティがあり、これも債券運用の王道のひとつである。例えば、米国のMBSのようなコーラブル債券はネガティブ・コンベクシティの特徴を有し、金利変動が小さいとき有利に働く。逆にポジティブ・コンベクシティは金利変動が大きいときに有利である。よりニッチな戦略としては、シーズンドモーゲージと呼ばれる、線形に近いカーブを持つものがある。
 債券は100円に向かって日々前進する。かつてリーマンショックの際も債券価格は下落したが、短満期債券は満期、つまり100円になる日が目前に迫っていることから回復スピードは速かった。例え信用リスクが大きくても、償還すれば良いのである。
 信用リスクもまた、債券に付随する金利以外の特性である。論理的には、債券の表面利率は信用リスクをカバー可能なほど高くなければならないが、損失確率を調整した後の期待リターンは信用リスクの大きさに関わらず同等になる。だが実際は、信用リスクの高い債券ほど期待リターンは高い。この追加的な収益の源泉は、市場分断・資本コスト・流動性の3つが考えられる。
 より発達した債券市場に投資機会を求めると、必然的に海外へ目を向けることになる。外貨建債券の投資においては、為替リスクの管理が重要になる。原則として為替ヘッジを行うことになるが、米ドル建て中心の運用では困難に直面する。ヘッジコスト2.5%を払った後に利益がでる投資対象がほとんど無いからだ。このヘッジコストを回避する方法は、ヘッジ対象資産をユーロやポンドに分散すること、もしくはヘッジそのものを止めることである。尤もヘッジを止めたとしても、通貨分散の必要性は残り続ける。
 投資したことのないものには投資したくないと考えるのであれば、永遠に魅力的な投資機会を持つことはできない。安易に国債投資を増大することや、大きな金利リスクをとるのではなく、債券を中心として、金利リスクを可能な限り抑制して投資対象を広げていくことが重要である。





以上

(文責:石田)

当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。




■セミナーで実施したアンケートの集計結果


Q1. 債券投資のニッチ戦略について、一番近いものを、一つだけ、お選びください。

1. 債券投資のニッチ戦略の重要性は認識しており、現在、積極的に投資を行っている。
2. 現在、投資は行っていないが、このような魅力的な戦略があるならば、今後、検討したい。
3. ニッチであるが故に、市場の広がりや深さなどの観点から、現在、投資は行っておらず、また、今後も検討する予定はない。
4.その他

Q2. 東京電力福島第一原子力発電所の事故直後において、東京電力社債を保有していたとして、ご自身ならば、どのような投資判断をしたでしょうか。一番近いものを、一つだけ、お選びください。

1. 値段のいかんにかかわらず、即時に売却する。
2. 即時に売却すれば、極端に低い価格となるのは自明だから、売却を前提とするも、しばらくは、様子をみる。
3.法律上、東京電力の破綻はあり得ないと信じて、保有し続ける。
4.破綻の可能性はあるにしても、先取特権をもつ特殊な債券なので、売却損の確定を急ぐよりも、保有し続ける。
5.その他

Q3. 現在の東京電力ホールディングスの社債と、子会社で一般送配電事業に特化した東京電力パワーグリッドの社債、および、同じく子会社の東京電力フュエル&パワーと中部電力とで共同設立し、燃料・火力発電事業に特化したJERAの社債が発行されるとしたら、ご自身ならば、どのような投資判断をされるでしょうか。一番近いものを、一つだけ、お選びください。


<クリックで拡大>
1. 東京電力ホールディングスは、原子力事故の問題を直接抱えているとはいえ、東京電力グループの親会社なので、ホールディングスの社債に投資する。
2. 東京電力パワーグリッドは、今後、実質的にホールディングスの原子力関連費用の多くを負担することになるが、送配電という収益性が非常に安定した事業に特化しているので、パワーグリッドの社債に投資する。
3. 原子力事故の問題に関連しないJERAの社債へ投資する。
4. いずれも日本を代表する巨大公益企業のグループ会社であるが、各社ともに原子力関連の課題を有していることには違いなく、潜在的なリスクが高すぎることから、どれにも投資はしない。
5. その他

アンケート結果をPDFでダウンロードすることが可能です。