前々回の「成長資本と地域金融」の続きの続きをやりましょう。前回「成長資本の投資と回収の仕組み」は、産業連関分析という、いささか唐突な言葉で、唐突に切れましたが。あれは、どういう意味だったのでしょうか。
産業連関は、成長資本にとっての最も基本的なことに関連して出てきたことです。要は、企業の拡大的成長がない限り、成長資本の回収はない。つまり、成長資本は、投資として成り立たない、ということです。成長というのは、企業の売り上げ拡大、地域の売り上げ拡大のことです。
話は、飛びますが、私は、2009年9月 2日に特集レポート「地域金融の「地産地消」」という記事を書きました。その中で、「地産地消とは、自給自足的な地域への閉じこもりではなく、究極的にはグローバル化なのだ、という逆説が真実です」といっています。地域経済は、狭い地域の中で完結しているのではなくて、グローバル市場に直接につながっているからこそ、成り立っているのです。地産地消という言葉を、狭い地域完結的なものとして受け止めるべきではない、と、そのように、思っているのです。
産業連関ということは、要は、地域の経済が、外部の経済と、どのようにつながっているか、という客観的な事実認識の問題であり、更には、どのように拡大的につながり得るか、あるいは、つなげるべきか、という経営判断(更には、政策判断ですね)の問題です。
どの地域金融機関も、いわゆるビジネスマッチングということを、熱心にやっていますね。あれは、地域の企業の販路を域外に広げようという、営業支援活動ですね。要は、そういうことですか。
そういうことです。ビジネスマッチングというのは、マッチングということが肝なのでしょう。このことを、少し、踏み込んで検討してみると、すぐに、産業構造的な需給の一致がみえてくるはずです。
買い手が求めているのは、自分の事業に役に立つものを供給してくれる生産者です。売り手が求めているのは、自分の生産物の価値を認めてくれる購買者です。このような需給の出会いを、お見合いの場を設定するような形で促進していこうというのが、ビジネスマッチングという名前で行われていることだと思われます。
しかし、このような出会いは、ともすると、偶然に委ねられてしまうように見受けられます。結果的、偶然的に結び付いたものといえども、結びつくからには、産業連関的な必然があるわけでしょう。そこを系統的に分析していけば、偶然の出会いを、必然の出会いにできる。出会いの確率を上げることができる。そのはずですよね。
それと、もう一つ。出会いの確率は、効率の問題であって、量の問題ではない。効率を高めても、件数の絶対量が少なければ、効果は小さい。量を増やすということは、相手を探す範囲を徹底的に広げるということでしょう。だから、グローバルです。究極的に、地球全域を対象として、販路拡大の努力をしようということです。
マッチングと需給とには、裏表がありますね。販路拡大ということと同時に、調達先の拡大という効果もある。
同じものを作っていても、別のところから調達して、別のところへ売れば、これはもう、全く違った企業になる。そのような転換を通じて、おそらくは、生産量も増やせる。成長は、必ずしも、全く新しいものを作ることにあるのではありません。同じことをしていても、仕組みを変えることで、成長できる。これが、本当の構造改革による成長なのでしょうね。念のためですが、本当の、とことさらにいうのは、かつて小泉内閣が提唱したような構造改革とは、全く異なるという意味です。
今回のタイトルも、地域の産業構造と題しています。地域の産業構造を、グローバルな産業連関の中で変えていく、ここに成長の可能性を見ているのです。
しかし、成長資本の理念は、金融の社会的機能のことですよね。金融の立場から、何ができるのか、できることの限界は何かを、明確に自覚しておく必要があります。産業の構造改革というのは、限界を超えるのでは。
構造改革というのは止めましょう。この言葉、明らかに、政治的・行政的な、上からの掛け声でしょう。産業の裏方にすぎない金融の立場で使うべき用語ではない。構造の自律的転換を、金融の働きで支援できないか、といっているのです。
地域に新しい産業を育成するとか、誘致するとか、そのようなことを、金融の立場で論じるべきではないと思います。地域に今あるものを、金融的支援で、どこまで伸ばせるか、という視点で検討すべきなのではないか、といっているのです。
地域の強みを徹底的に分析すること、地域産業をグローバルな産業連関に位置付け直すこと、これが第一歩。次いで、この分析から見えてくる構造転換の可能性を、地域企業に対して、積極的に提案していくこと。そして、最後に、実行面での金融的支援を行うこと。これが、成長資本の理念です。
具体的に、どのようなところに、地域産業の構造転換の可能性と、成長の可能性があり得るでしょうか。
毎度、肝心なところへくると、時間切れになりますね。多くは、今後の検討を待つことなのですが、ここで、はっきりいえることは、可能性は無限にある、ということです。とりあえず、かねて考えている三つの可能性を挙げておきましょう。もっとも、いずれも、目新しくはないし、既に可能性の域をこえて、具体化しつつあるようにもみえますが。
第一は、大企業の事業再編が、その地域生産拠点と下請け企業群との関係を変えることでしょう。撤退ということになれば、地域にとっては、危機かもしれませんが、危機は機会でもありましょう。地位の転倒ということがあってもよく、地元の協力企業が、大企業の事業を引き継ぐような例も当然にでてくるでしょう。この場合、大企業を離れて、独自の販路を作らないといけない。そこが課題です。
第二は、アジアを中心とした新興国との連携でしょうね。地域には、新興国企業が欲しがる技術を持つ企業が沢山ある。これら地域企業も、もはや、技術を盗まれるというような恐れで閉じ籠るだけでは、行き詰るでしょう。積極的に打って出る。そのことは、必ずしも、生産の海外移転にはならない。研究開発、製造装置生産、高付加価値分野の製造など、逆に、地域での事業展開は、拡大するかもしれない。この場合は、新興国との連携を作ることが課題ですね。
第三は、国際的な評価の著しく高い農林水産関連の産品でしょう。海外に販路を広げれば、まだまだ、日本の農林水産業はいける。農林水産業こそ、地域の基礎産業です。この基礎から産業連関をたどっていけば、成長の可能性が見つかるはずです。この場合は、鍵は海外販路ですね。
新販路にしても、海外提携にしても、偶然の出会いでは限界がある。必然の出会いにしなければなりません。そのためには、徹底したグローバル産業連関分析に立脚した、科学的かつ積極的な攻める姿勢が必要でしょうね。
なるほど。その攻めるに際して、地域金融機関は、どのような金融の社会的機能を果たせるのか、真剣に検討していかなければいけない、ということですね。
そうです。特に、徹底したグローバル産業連関分析に立脚した科学的方法を強調したい。実は、どの地方銀行にも、「総合研究所」のようなものはあるのです。もしかすると、地域産業調査の地産地消みたいなことになってはいないでしょうか。
以上
片仮名を使わない心がけ、今回は、グローバルを始め、いくつか使わざるを得なくなりました。グローバルを地球全域と替えてみたところもあります。グローバルは、英語の意味としては、日本自身をも含んでいて、全世界を相対化した概念です。日本では、なんとなく、日本と外国の対立概念になってしまいがちです。その観点からは、地球視点、地球視座、などというほうが、望ましいのでしょう。
次回更新は、6/10(木)になります。
森本紀行(もりもとのりゆき)
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。