銀行とノンバンクの連携構想における異色の登場人物

銀行とノンバンクの連携構想における異色の登場人物

森本紀行
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銀行とノンバンクとの間で機能の相互補完を目指す連携は、常に、様々な形態で構想されていて、当然に失敗した事案もあるのですが、そこから見事に復活する人々もいるわけです。
 
 銀行は、預金という特権的手段によって、融資の原資を安定的に調達していますが、預金には決済等の社会的に重要な機能があるために、厳格に規制されていて、融資業務に多くの制約を受けます。それに対して、ノンバンクの場合、最低限の規制しか適用されないために、融資業務の高い自由度を確保できますが、資金調達の安定化には工夫を要します。そこで、銀行とノンバンクとの間で、相互補完を目的とした連携が様々に検討されてきたのです。
 
例えば、木村剛氏の日本振興銀行ですか。
 
 2004年に開業した日本振興銀行は、コンサルタント出身の木村氏のもとで、決済機能のある預金を扱わず、専らに定期預金で資金調達することで、銀行の利点と、ノンバンクの自由さを両立させようとしたのですが、高い金利の定期預金で集めた資金は、環境が変化すれば、いとも簡単に流出するので、安定調達にならず、また、自由さは、いとも簡単に放漫乱脈に堕するので、大量の不良債権を発生させて、あっという間に、2010年に破綻します。
 
新生銀行も、ノンバンク事業を強化していましたね。
 
 新生銀行は、破綻した日本長期信用銀行の事業を継承した後、傘下のノンバンク事業を強化します。つまり、銀行として資金調達して、子会社のノンバンクを通じて融資する仕組みですが、これは、銀行規制の特例として、子会社のノンバンクに対する集中的な融資が許容されていることを利用したものです。しかし、特例が認められる反対効果として、銀行と傘下のノンバンクは一体のものとして規制されるので、ノンバンクの自由さには限界がありました。
 
山口フィナンシャルグループ(YMFG)にも、ノンバンクとの連携構想がありましたね。
 
 山口銀行などを傘下にもつYMFGは、2021年6月に、臨時取締役会において吉村猛代表取締役会長グループCEOを解任し、その後、吉村氏の不当な職務執行等について社内調査を行って、報告書を公表しています。事案の概要は、関連報道によって報告書の匿名を実名で補うと、以下のようになります。
 吉村氏は、コンサルタントの富樫直記氏を起用し、消費者金融のノンバンクであるアイフルとの合弁によって、新銀行を設立しようとし、富樫氏を新銀行のCEOに内定したほか、富樫氏の兄の採用も内定していたのですが、これら一連の手続きについて、取締役会決議を経ないなどの職務執行上の重大な問題があったほか、富樫氏の予定報酬額や、富樫氏のコンサルティング会社に支払われた巨額な委託報酬額にも多くの疑問点が発見されたということです。
 
吉村氏の業務執行の強引さによって、構想が頓挫したのでしょうか、それとも、構想自体に欠陥があったのでしょうか。
 
 銀行の置かれた経営環境が大きく変化し、金融と非金融の境界が流動化するなかで、吉村氏は、危機感をもって銀行の硬直的な枠組みを打破しようとし、その危機感の強さのもとで暴走したのでしょうが、富樫氏の構想を安易に採用したこと自体で、既に大きな過ちを犯していたと思われます。なぜなら、銀行の枠を超えるために消費者金融のノンバンクと連携することはあり得ても、それが合弁銀行設立となることには合理性を見出し難いからです。
 
その富樫氏がクレディセゾンの社外取締役なのですか。
 
 銀行とノンバンクの連携構想の最も新しいものは、5月18日に公表されたスルガ銀行とクレディセゾンとの間の資本業務提携ですが、なんと、富樫氏はクレディセゾンの現任の社外取締役なのです。クレディセゾンは、当然にYMFGの事案を承知のはずで、そのうえで、いかなる知見を富樫氏に期待しているのか、また、この提携において富樫氏が何らかの役割を演じるのか、一切が不明ではありますが、興味の尽きないことです。
 
この資本業務提携は成功し得ないのでしょうか。
 
 この提携の危険さは、スルガ銀行のクレディセゾンに対する実質的な与信集中が起きる可能性ですが、実は、スルガ銀行は、2018年に不正融資問題で金融庁の行政処分を受けた後、依然として業務改善計画を結了できていないのであって、極めて強い規律のもとで行動せざるを得ないとすれば、提携は簡単には進行しないはずです。
 
YMFGを追われた吉村氏は、SBIホールディングスのもとで、復活したようですね。
 
 SBIは、ノンバンク事業を強化するために、中間持株会社であるSBIノンバンクホールディングスを設立し、2022年11月に住宅ローン専門のノンバンクであるアルヒを子会社化して、その代表取締役会長に吉村氏を起用しています。
 
SBIは新生銀行も子会社化していますが、それと関係あるのでしょうか。
 
 SBIは、新生銀行を子会社化し、SBI新生銀行に改名していますが、同時に、その子会社の整理を始めていて、新生証券については、SBI証券とSBI新生銀行に事業譲渡して、消滅させる予定とし、投資運用業者の新生インベストメントについては、既にSBIアセットマネジメントに併合していますから、その自然な流れからは、今後、ノンバンク各社も、SBIノンバンクホールディングスに移転させたいのでしょう。
 可能性としては、SBIは、既に、SBI地銀ホールディングスを銀行の統括会社として、そこに、SBI新生銀行のほか、地方銀行を収めていますが、新たに、SBIノンバンクホールディングスをノンバンクの統括会社として、そこに、アルヒのほか、SBI新生銀行の傘下にあるノンバンクを収めて、銀行とノンバンクの大規模な連携を構想しているのかもしれません。
 
SBIは普通の持株会社なので、傘下の銀行から傘下のノンバンクへの融資は不可能ではありませんか。
 
 銀行持株会社の場合には、事業内容が高度に規制されているために、傘下の銀行の兄弟会社への集中融資が許容されていますが、普通の持株会社の場合には、事業内容に規制がなくて自由度が大きいものの、傘下に銀行があったとしても、兄弟会社への集中融資は認められません。
 故に、SBI新生銀行の子会社のノンバンクは、現在は、親銀行からの集中融資を受けていますが、SBIノンバンクホールディングスの子会社になるためには、その融資関係を解消しなくてはならず、かといって、銀行の子会社にとどまれば、基本的に銀行の枠組みの内に業務範囲を制限されて、非金融への自由な展開を阻まれます。
 実は、銀行の枠組みの打破は、全ての銀行の共通課題で、金融行政にとっても、銀行持株会社の業務範囲の見直しは重要な課題なのですが、銀行持株会社を普通の持株会社にすれば、銀行傘下のノンバンクは、SBI新生銀行のノンバンクと同じ二律背反に直面するわけです。
 
いずれにしても、SBI新生銀行は、融資という機能によっては、SBIの他の事業に貢献できないわけですね。
 
 SBI傘下の企業群とSBI新生銀行との間には、決済機能や相互の顧客紹介などの様々な事業連携があり得るのでしょうが、絶対確実なのは、SBI新生銀行は、子会社のノンバンク以外には、SBI傘下の企業に融資できないことであって、実際、事業会社によって、その傘下に設立された他の銀行の事例を見れば、このことは明らかです。
 そうしたなか、SBIは、7月5日に、台湾の力晶積成電子製造(PSMC)が日本国内に生産拠点を設けることについて、共同出資で新会社を設立すると発表していて、この提携におけるSBIの役割は資金調達にあるとしていますが、それが具体的に何を意味するのかは、興味深いことです。
 
なぜSBI新生銀行は預金を急増させているのでしょうか。
 
 金利が緩やかながらも上昇に転じるのならば、一般論として、銀行の資産側の金利収入の増加は、負債側の支払金利の増加を上回るので、利鞘は拡大するわけですが、SBI新生銀行のように、高い金利の定期預金で新たな資金調達をしても、融資と投資の新たな機会を創造し得ないはずですから、利鞘拡大の可能性はないと思われます。
 SBIの戦略は不明ですが、銀行とノンバンクの連携構想以前に、銀行の合理的な経営戦略を確立することが先決課題のようです。この点について、SBIは、当然にYMFGの事案を承知のはずで、そのうえで、いかなる知見を吉村氏に期待するのか、吉村氏がSBIにおける新たな役割を演じるのか、一切が不明ではありますが、興味の尽きないことです。
≪ 関連する論考をご紹介いたします ≫
火種を抱えるクレディセゾンは即座にセゾン投信中野会長と和解すべきだ (2023.6.22掲載)
クレディセゾンとスルガ銀行の提携には種々の論点があり、まずは顧客本位を前提とした課題の対応に専念すべき、と述べています。また、当コラムで言及されている山口フィナンシャルグループの問題についても解説しています。

バンクとノンバンクとの間の越え難き壁を越えるには (2023.7.20掲載)
金融制度の視点からバンクとノンバンクは、明確に棲み分けてこそ、それぞれの存在意義が光るのであって、両者の厳格な規律のもとでの連携はあり得ても、安易な提携や統合はあり得ないことを述べています。

どう銀行が変わると銀行持株会社が普通の持株会社になるのか (2023.8.3掲載)
銀行持株会社の業務範囲の見直しは、金融行政の重点課題となっており、銀行持株会社の問題点と普通の持株会社に転換するための条件について解説しています。
(文責:林)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。