株式投資の王道は厳選された銘柄への集中投資だ

株式投資の王道は厳選された銘柄への集中投資だ

森本紀行
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株式投資の基本は銘柄分散ですが、その真の意味は、株式の価値について確信をもてる銘柄群の厳選が先にあって、その厳選された範囲内での銘柄選択なのです。
 
 株式投資においては、普通の個人投資家でも、複数の銘柄に分散して投資するでしょうが、大きな金額を顧客のために運用する投資運用業者では、当然のことながら、多数の銘柄に分散投資することを原則にしています。このとき、運用資産の総額は銘柄ごとの投資額の合計になるわけですが、その銘柄一覧表はポートフォリオ(portfolio)と呼ばれます。
 投資運用業者は、投資一任契約の顧客ごとに、また投資信託ごとに、異なる株式投資のポートフォリオを構築しているのですが、投資戦略ごとに基本ポートフォリオが決められているので、同一戦略に属するポートフォリオは、内容に多少の違いこそあれ、基本的に同一の属性をもつわけです。
 
なぜ分散投資するのでしょうか。
 
 常識的な回答は、株価変動の向きは個別銘柄ごとに異なっていて、下がるものもあれば、上がるものもあるので、多数の銘柄を保有していれば、株価変動の相殺が生じて、ポートフォリオ全体の価格変動を抑制できるというものです。しかし、銘柄数を増やして、分散の程度を大きくすれば、株式市場全体の株価変動に連動する度合いが強くなるわけで、実は、投資運用業の実情からすれば、この点が重要なのです。
 
なぜ市場全体の動きに連動することが重要なのでしょうか。
 
 株式に投資するために、顧客が専門家である投資運用業者に銘柄選択を一任するとき、投資家の普通の期待は、株式市場全体の動きに比較して、それを上回る収益率を実現してもらうことだと考えられます。少なくとも、投資運用業者の立場からは、そのように顧客の期待を理解するのです。そして、株式市場全体の変動は、株価指数の変化率によって、常に簡単に測定されますから、投資運用業者としては、自分の実績が株価指数を上回る以前に、それに追随することを意識するわけです。
 
株式投資の目的は、株価指数を上回る投資収益率を実現することなのでしょうか。
 
 株式は、企業が資本を調達するために発行されています。資本は、事業活動にとって不可避な一時的損失を吸収して、事業を持続可能にするために必要とされるもので、一種の保険として機能しますから、そこに、理論的な保険料として、資本コスト(capital cost)が発生します。こうした株式の本質からすれば、株式投資の目的は、資本コストに相当する投資収益率を実現すること、あるいは、それを上回ることだと考えられます。
 しかし、ここに難問があって、資本コストは理念的なものであって、技術的に推計する方法はあっても、客観的事実としては、把握され得ないのです。これに対して、株価指数は、客観的事実として、常に知られているので、株式投資の収益率を評価する参照指標として、広く使われているわけです。
 
長期的には、株価指数の変動から推計される投資収益率は、資本コストの平均に一致するのでしょうか。
 
 将来の金利に関する投資家の期待が変化することで、債券価格が変動します。これと同じ理論的背景のもとで、将来の資本コストに関する投資家の期待が変化することで、株価が変動するわけです。そして、理論的には、債券価格の短期的な変動にもかかわらず、債券投資の期待収益率は、金利の長期的平均に収斂していくように、株式投資の期待収益率は、資本コストの長期的平均に収斂していきます。
 故に、株価指数の変動率の長期的な平均に、配当による利益の調整を加えて、年率の期待収益率を推計すれば、理論的には、資本コストの長期的平均に収斂していくはずなので、株価指数を参照指標に使うことに合理性はあるのです。しかし、どれほどの長期において、そのような収斂が実証されるのかは、必ずしも明らかではありません。
 
株価指数の利用には、弊害がありませんか。
 
 株価指数の変動は短期的な事実であるのに対して、その変動率の平均が資本コストの平均に収斂していくことは、長期的な理論的期待にすぎないのであって、この短期的事実と長期的期待との間に、株式投資の困難な問題が発生するのです。とりわけ深刻なのは、日々の株価指数の変動は、誰でもが知っており、周知の事実として、それなりの重みをもつことであって、そこから弊害が生じるわけです。
 最大の弊害は、投資運用業者は、株価指数による投資成果の説明を意識して運用するようになり、顧客も理解しやすい説明を求めるので、株式投資の目的は、長期的に資本コストを上回ることから逸脱して、短期的に株価指数に追随することになり、その極において、株価指数に完全に連動するインデクス運用の普及を招いて、投資運用業の基盤が崩壊することです。
 
では、株式投資においては、株価指数との連動を意識しないほうがいいのでしょうか。
 
 株価指数の動きを常に観察していれば、その上下変動が非常に大きいことは、誰にでもわかります。株式投資において、リスクという言葉は様々な意味で使われますが、基本的には不確実性のことであって、現実的には株価の変動幅の大きさのことです。つまり、株価指数はリスクが大きいのです。故に、リスクを低下させるためには、株価指数との連動性を小さくするほかないはずです。
 株価指数との連動性は、銘柄数を増やせば大きくなるのですから、逆に、銘柄数を減らせば小さくなります。実は、もともと、過剰な分散を避けて、銘柄数を絞り込むことで、株式市場全体のリスクよりも小さなリスクで運用しようとすることは、集中投資の名のもとで、行われてきたのですが、インデクス運用が拡大するのと同じ理由で、すっかり衰退してしまったのです。
 
集中投資では、結果の説明が難しいということですか。
 
 株価指数の動きに連動しない集中投資は、営業的に極めて不利です。なぜなら、銘柄数の少ないポートフォリオの価格変動は、株価指数が上昇するときには、上昇幅において劣後して、顧客の不興を買いやすく、株価指数が下落するときには、下落幅において優位になったとしても、下落すること自体は避けられず、顧客から褒められはしないからです。
 こうして、集中投資は、結果を株価指数の変動で説明できないために、衰退したのですが、しかし、投資運用業者として、自分の創造する固有の付加価値は、実は、株価指数の変動で説明できないところにあるのですから、株価指数で説明しやすい運用に傾斜していけば、付加価値の低下を招き、最終的には、インデクス運用に代替されてしまうことは不可避なのです。
 
集中投資こそ、株式投資の王道なのですか。
 
 今こそ、分散の意味を真剣に再検討しなければなりません。投資運用業においては、株式の発行体の事業と経営状況について、徹底的な調査分析を行い、株式の価値についての確信を形成したうえで、銘柄選択がなされるのであって、分散とは、そのような確信をもてる銘柄群のなかでの分散でなければならないわけです。
 つまり、先に候補銘柄群の厳選があり、その厳選された範囲のなかで、分散されるのであって、集中投資の集中とは厳選のことであり、分散は、集中されたなかでの分散なのです。わかりやすくいえば、良いものへの集中こそ、投資の本質なのであって、悪いものへの分散はあり得ないということです。なお、集中投資とはいっても、通常は、30銘柄程度は保有されるのであって、十分に、あるいは適切に分散されているのです。
 
確信度の低下が銘柄数を増加させるわけですか。
 
 集中投資は、営業的な難しさから、衰退するだけではなく、規律の弛緩から、自己崩壊しやすいのです。集中投資のポートフォリオは、投資対象の株式の価値について、高い確信度をもてる銘柄だけによって構成されなくてはならず、確信度の低下した銘柄は、必ず、売却されなくてはなりません。これが集中投資の本質をなす売却規律(sell discipline)であって、売却規律が徹底されなければ、銘柄数は増えていき、集中投資は崩壊するのです。
 実は、集中投資においては、保有銘柄数に上限を設けることが必須の要件なのです。なぜなら、例えば、上限を30銘柄としておけば、新たな銘柄に投資するためには、保有銘柄のうち、最も確信度の低いものを必ず売却しなければならないからです。
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(文責:坂口)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。