顧客本位
2018/02/28更新金融庁が2017年3月30日に確定公表した「顧客本位の業務運営に関する原則」の第六原則は、「金融事業者は、顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握し、当該顧客にふさわしい金融商品・サービスの組成、販売、推奨等を行うべきである」と述べている。この原則の正しさは全く疑う余地はないが、問題はいかにして「顧客の資産状況、取引経験、知識及び取引目的・ニーズを把握」できるのかということにある。これができなければ、そもそも原則が正しくても原則の履行は不可能になる。顧客本位というのは、原理的に、余計なお世話、おせっかいであり、しばしば無礼なことである。金融機関は、まず、この顧客本位の商業の常識に反した本質を理解することから始めなくてはならない。情報を提供する利益誘因は、正しい情報を提供すれば、より優れたサービスを受けられるという保証であり、フィデューシャリー・デューティーとは、専らに顧客のために働くという理念に帰着し、そこに、職務の遂行において自己もしくは第三者の利益を一切顧みないという厳格な忠実義務と顧客の利益の最大化のために最善を尽くすという高度な注意義務を含む。顧客本位原則の主旨は、この義務の履行を金融機関が顧客に確約する旨を宣言することにある。
金融をはじめとして、社会的に重要な機能、所謂規制業については、実質的な内容の充実、即ち、顧客本位に基づく顧客満足を実現することが必要である。ところが、規制による弊害も多く、必需を超えた需要の創造や、無駄な機能の膨張による表層的な付加価値の追求が起きる、つまり、顧客本位を超えた顧客満足の追求である。金融庁は、おかしげな投資信託が売れている事実を問題視し、投資信託の機能を、明確に、国民の資産形成として再定義し、その機能の充実のために、金融機関に対して、「顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)」を求めるに至った。ここでいう顧客本位とは、表層的な顧客満足ではない。投資信託を資産形成という機能に純化させようとするとき、そこから、不純な機能は分化させられ、それには、別のサービスなり商品なりで、対応すればよいことになる。つまり、国民の利益の視点で金融機能を純化させて、それぞれの機能について、顧客本位を貫徹すれば、顧客本位と顧客満足は、矛盾なく両立するということである。
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